黒猫 とのべい の冒険

身近な出来事や感じたことを登載してみました。

絶世のマルガリータ

2016年05月06日 15時40分07秒 | ファンタジー
 
「巨匠とマルガリータ(上)」(岩波文庫2015刊)を買ってみた。(他に集英社版あり)
 買った理由はただひとつ。ローリングストーンズの「Sympathy for the Devil(悪魔を憐れむ歌)」の元になったことを知ったから。原作はウクライナの作家ブルガーコフ(一八九一年生れ、一九四〇年没)によって、一九二九~一九四〇年に執筆されたもの。ところが母国のソ連(当時)で出版されたのは、作者の死後、二十六年目に当たる一九六六年だった。それも原作のほんの一部だけ。全文が刊行されたのは、ゴルバチョフのグラスノスチ以降。 
 ストーンズのレコーディングは一九六八年六月に行われた。作詞者のミックジャガーは、本の出版から約二年の間に読んだことになる。欧米では、ソ連の反体制文学として評判を呼んだのだろう。ちなみに日本での初訳は一九六九年なので、やはり初版本を底本にしていると思われる。この国ではちょうど学生運動の大波が引き潮になる直前だった。
 タイトルにあるマルガリータとは、テキーラをベースとしたよく知られたカクテルの名前。スペイン語の女性人名でもある。元々の語源は、ギリシャ語の真珠だという。このカクテルにマルガリータの名がつけられた理由ははっきりしないが、強い酒に似合った魅惑的な響きが感じられる。
 いったい、ブルガーコフとはどんな人かというと、ロシア革命の最中、白軍に身を投じてソ連軍と戦った強者なのだ。なので、彼の作品はソビエト社会に対する体制批判とみなされ、長い間、当局から厳しく弾圧された。抑圧に耐えかねてソ連脱出を試みたが、スターリンは許さなかった。
 六年ほどモスクワ芸術座の舞台監督を勤め、それを辞めてからはオペラの台本書きを細々とやりながら、生前の作品発表をあきらめ、いつか自由が来た日に作品が世に出ることを信じて、密室に身を置き書いた。この作品には、スターリンの時代のソビエトで、人間性を破壊する権力とのし烈な闘いに立ち向かう彼の試行錯誤がうかがえるという。この作品にも黒猫が大事な役回りで登場する。
 私は、一九六九年七月、ストーンズがハイドパークのブライアン追悼コンサートで「悪魔を憐れむ歌」をライブ演奏したことを、高校の図書室にあった雑誌の写真で知った。それからどれくらい後のことだろう。映像の中でその曲に出会ったとき、あまりの懐かしさと感激のために卒倒するところだった。(2016.5.6)

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