BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

羆あらし

2010年04月14日 | 古本
 UFOや西欧のオカルトは、バカバカしくて信じないから何にも怖くない。
しかしこの話しは読み進めるだに背中が凍り付いて、身体が震えた。漠然と知っては
いたが、こうして小説になったのを読むと凄惨な事件だったことが分かる。
 苫前町古丹別・現三渓地区で、1915年(大正4年12月)10人もの死傷者を出
した事件は、熊害としては世界最大だという。東北地方から山深くに入植した開拓農民
居住区を、冬眠し損なった羆が次々と襲った。壁や屋根を草で囲い、入り口はムシロを
垂らしただけの粗末な開拓小屋は、羆にはなんの防御にもならず、肉食動物の本能の
ままになった。大きくてことさら凶暴なオスの成獣羆は、壁をブチ破って女・子供を
喰い殺した。

 その事件の跡地近くには、復元した当時の居住小屋と納屋、慰霊碑などが設えら
れ、事件資料館になっているようだ。あと一年くらい早くこの本と出会っていれば、
昨年道北に行った際寄ってこられたのにと後悔。古本均一主義列伝はこうしてタイ
ミングを逸れ、しみじみ間の悪い思いをするのだ。
 道路地図の一般道道1049号線の行き止まり終点には、※三渓別羆事件跡地という
注意印が載っている。その印 手前3kmからは冬季閉鎖だ。むかしも今も寒く雪深い
ところ、きっと今日も夜は氷点下で雪が積もっただろう。

 「 羆 嵐 」(くまあらし) 著者 吉村 昭  新潮社  定価900円
  ( 昭和52年9月10日 6刷 )