BIN山本の『映画にも程がある』

好きな古本との出会いと別れのエピソード、映画やテレビ、社会一般への痛烈なかくかくしかじか・・・

ジョーク

2010年04月09日 | 映画
 それにしても、今作もまた小林 政広監督「春との旅」は、一体どうしたというのだろ
う。これまでづーっと寡黙さを通した作品群を撮りながら、今回は一転してTVドラマ
ごとき饒舌な説明セリフが多いのだ。
 そして例によって主役の二人には〔歩くこと〕ではなく〔歩き方〕に意味を持たせる
手口を使った。春ちゃん役の徳永 えりさんはガニ股歩き、老漁師 忠男役の仲代 達矢
さんはひどいビッコ歩き。(シーンでの強弱はあるが)
 しかしどうあれ主役の仲代さんの芝居は若さにあふれ、都会的風貌とセリフの速度は
どうしたって元老漁師にはみえない。そういう意味で仲代さんは明らかなミスキャスト。
それこそ大滝 秀治さんがトボケた味の漁師に仕立てたほうが、リアリティがある。また
今作の豪華キャストは、それぞれ名優すぎて、芝居がうるさくてハナにつくのだ。
 小林監督いつもの1シーン1カット的手法を、今作は変に説明的インサートと会話
シーンの切り返しがある。(目線を変にずらしたのは狙い過ぎと思うが)だったら以前
に撮った〔説明のなさすぎ〕映画との整合性は果たしてとれるのか、なんだったのか。
予算があればこう撮るが、低予算ならこんなもんでいいという過去の作品なのか。
(それが悪いとは一概に言えないが)全く音楽など意に介さないといったスタイルの
作品が多い中、今作にかぎってあの大仰に謳いあげる音楽は一体なんなのか。
 その一々にアタシは混乱するのだ。でなにより一番納得出来ないのは汽車の中のラ
ストシーン、何故あんな安易な決着の付け方をするのか。仮にああなるとしてももっと
違う演出があると思う。「監督」はしても演出はしないということか。
 春との旅を、忠男爺のガンコ性格と足の障害と、取って付けた昔話しの〔ニシン漁〕
の見当違いな問題に集約させた。チラシにある「生きる道、きっとある。」とするなら、
誰にどう思われようが、故郷で再起するなら、あの土壇場の結末はなんだ。生きつづけ
ろよ!、忠男爺!。 小林 政広監督、これはあなたの自己否定ですか?
 仲代さんが舞台挨拶で「小林監督は黒澤 明に並ぶ天才だ」と云ったのは、大いなる
ジョークですよね。誰も笑えないジョークですよね。
 そしてクレジットは何時にも増してなおざり。メインキャストは辛うじて読めるが、
それ以外は、直接のスクリーンでも読むのは困難。例えるなら広い湖面に放ったひと
つまみの砂粒ていどのものだ。 アリバイの顕微鏡文字で入れられたスタッフ達よ、
後援スポンサー、各町の市井の人々、怒って立ち上がれ。(笑)

 「春との旅」 監督・脚本 小林 政広  4月8日 道新ホール 先行試写会
  主演 仲代 達矢・徳永 えり  大滝 秀治 菅井 きん 小林 薫 田中 佑子
       淡島 千景 柄本 明 美保 純 戸田 菜穂 香川 照之  (134分)