帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百一〕殿上より梅の花

2011-06-26 00:03:10 | 古典

 



                                         帯とけの枕草子〔百一〕
殿上より梅の花



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言 枕草子〔百一〕
殿上より梅の花

 殿上(殿上人の詰所)より、梅の花ちりたる枝を(梅の花が散った枝を)「これはいかゞ(これはどうか…これはどう思うか)」と言ってきたので、ただ、「はやくおちにけり(早く散り落ちたことよ…早く堕ち逝ってしまったなあ)」と応えたところ、その詩を朗詠して殿上人が黒戸(清涼殿の黒戸の御所)に、大勢居たという。主上がお聞きになられて、「よろしき歌などよみて出だしたらんよりは、かかる事はまさりたりかし。よくいらへたる(悪くは無い程度の歌など詠んで差し出すよりは、このような言は優っているぞ。良く応えている)」と仰せられた。

 


 聞き耳異なるものは、女の言葉と知りましょう

 「梅…木の花…おとこ花」「木…男」「えだ…枝…身の枝…おとこ」「落…花が散り落ちる…おとこ花散り逝く」「けり…たのだ…だったそうだ…過去、過去の伝聞を表す…たことよ…だったのねえ…詠嘆の意を込めてあったことにいま気づいた意を表す」「よろしき…まずまずだなあ程度…悪くは無い程度」「よく…良く…好く…上手に…誰が聞いても認められる良さを表す」。

 


 男どもが朗詠した詩句は、藤原公任撰「和漢朗詠集」柳 にある。

大庚嶺之梅早落、誰問粉粧。

(梅の名所大庚嶺の梅花は早く散り落ちた、誰が訪う粉化粧を……大いなる山ばの峰のお花は早くも散り落ちた、誰か問う白い粉飾を)。


 男の言葉も聞き耳異なるものと知りましょう。

 「問…訪問…詰問」「粉粧…白粉での化粧…白々しくなったもの…和歌では、ゆきとど降りなまし消えずはありとも花と見ましや(伊勢物語)のように詠まれる」。

 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)


 原文は「枕草子 新日本古典文学大系 岩波書店」による