帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第七 賀歌 (356)よろづ世を松にぞ(357)春日野に若菜つみ

2017-12-08 20:05:11 | 古典

            

                      帯とけの「古今和歌集」

                     ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観に従って「古今和歌集」を解き直している。

貫之の云う「歌の様」を、歌には多重の意味があり、清げな姿と、心におかしきエロス(生の本能・性愛)等を、かさねて表現する様式と知り、「言の心(字義以外にこの時代に通用していた言の意味)」を心得るべきである。さらに、藤原俊成の云う「浮言綺語の戯れに似た」歌言葉の戯れの意味も。

 

古今和歌集  巻第七 賀歌356

 

良岑経也が四十の賀に、むすめに代わりて、よみ

侍りける。             素性法師

万世を松にぞ君をいはひつる 千年のかげにすまむと思へば

(良岑経也が四十の賀に、むすめに代わりて、詠まれた・歌)素性法師

(よろず世を、長寿の松でもって、父君を祝いました、鶴の千年の陰に、住み暮らそうと思えば……よろず夜を、長寿の女をもって、わが夫君の貴身、井這い終えた、千歳の陰により、満足して済まそうと思うので)。

 

「むすめ…娘…女の子…おとめ…女」。

「万世…よろづ世…万年」「松…言の心は女…待つ…長寿」「君…父君…貴身…を…おとこ」「いはひ…祝い…井這い」「つる…し終えた…完了した意を表す」「鶴…鳥の言の心は女」「かげ…影…蔭」。

 

よろず世の松にかけて、父君の長寿を祝いました、鶴の千年、父のお蔭のもとに、暮らそうと思うので――歌の清げな姿。

よろず夜を待つ女にぞ、夫君の貴身、井這いつる、千夜の陰に、満足して済ましたいと思うので――心におかしきところ。

 

娘および妻女たちに代わって、素性法師の詠んだ歌。

 

 

古今和歌集  巻第七 賀歌357

 

内侍のかみの、右大将藤原朝臣の四十賀しける

時に、四季の絵かけるうしろの屏風に書きたり

ける歌。            (素性法師)

春日野に若菜つみつゝ万世を いはふ心は神ぞしるらむ

(内侍のかみ・内侍司の女官長・右大将の妹が、右大将藤原朝臣・定国の四十の賀した時に、四季の絵、描いたうしろの屏風に書いてあった素性法師の詠んだと思われる・歌)。

(春日野で、若菜摘みながら、兄の・万世の長寿を祝う心は、神ぞ、ご承知でしょう……春の野で、若い女つみあつめつつ、よろず夜を井這う兄の心は、かみぞ・女の身ぞ、しるでしょうね)。

 

「若菜…若い女…菜の言の心は女」「つみ…摘み…つまみとり…めとり」「万世…よろづ世…万年…万夜」「いはふ…祝う…井這う」「井…言の心はおんな」「神…かみ…うえ…言の心は女」「しる…知る…汁…にじみでる…うるむ」「らむ…だろう…推量を表す…ているようで…婉曲にのべる」。

 

兄の長寿を願う妹の心は、神が御承知でしょう――歌の清げな姿。

つんだ若い女を、よろず夜、井這う兄の心は、女ぞ潤むでしょうよ――心におかしきところ。

 

内侍司の女官長に代わって、素性法師の詠んだ、皮肉の利いた歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)