帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第七 賀歌 (345)しほの山のさしでの (346)わがよはひ君が

2017-12-02 19:00:21 | 古典

            

                       帯とけの「古今和歌集」

                       ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観に従って「古今和歌集」を解き直している。

貫之の云う「歌の様」を、歌には多重の意味があり、清げな姿と、心におかしきエロス(生の本能・性愛)等を、かさねて表現する様式と知り、「言の心(字義以外にこの時代に通用していた言の意味)」を心得るべきである。

 

古今和歌集  巻第七 賀歌345

 

題しらず              よみ人しらず

しほの山のさしでの磯にすむ千鳥 君がみよをばやちよとぞなく

(題知らず)               (詠み人知らず・匿名で詠まれた女の歌として聞く)

(しほの山のさしでの磯に棲む千鳥 君がみ世をば、八千世とよ、鳴く……おとこの山ばの、差し出た井そに棲む女、貴身が見夜をば、八千夜とよ、泣いているわ)。

 

「しほの山…山の名(所在不明)…名は戯れる。枝穂の山、肢男の山ば、おとこの山ば」「さしでの磯…磯の名…名は戯れる。差し出の磯、でしゃばりおんな」「いそ…磯…言の心は女…井そ…おんな」「すむ…棲む…住む…済む…澄む」「千鳥…鳥の言の心は女」「君…夫君…夫の貴身」「みよ…御世…御夜…見よ」「見…覯…媾…まぐあい」「やちよ…八千夜…チョチョチョ…群れた千鳥の鳴き声?」「なく…鳴く…泣く」。

 

塩の山のさし出の磯に棲む千鳥、わが夫君のみ世をば、八千世とよ、鳴いている――歌の清げな姿。

肢おの山ばの、さし出の井そに棲むおんな、貴身の見る夜をば、八千夜とよ、泣いているわ――心におかしきところ。

 

はかないおとこの山ば、ご不満の女の情況を詠んだ歌のようである。

 

 

古今和歌集  巻第七 賀歌346

 

題しらず              よみ人しらず

わがよはひ君がやちよにとりそへて 留めをきては思ひ出にせよ

(題知らず)               (詠み人知らず・匿名で詠まれた女の歌として聞く)

(わたしの年齢、君の八千世にとり添えて留め置いては、わが命尽きた後の・思ひ出にしてね……わたしのさよばい、貴身の八千夜にとり添えて留め置いては、わたしが逝った後も、思い出にして・長らへてね)。

 

「よはひ…齢…寿命…結婚を求めて呼びかけること…さ夜這ひ」「やちよ…八千世…八千夜」「おもひで…思い出…なき人を思い出すこと」。

 

わたしの年齢、君の八千世に添えて、わたしが逝った後も、留め置いて思い出にしてね・八千よに加えることわたしの歳ほど長生きしてね――歌の清げな姿。

わたしの夜はひはいつも、貴身の果てた後、貴身のさ夜這いを、わたしの八千夜にとり添えて留め置いては思い出にしてるの――心におかしきところ。

 

この歌も、はかないおとこのさがを、不満に思う女の情況を、巧妙な言い回しで詠んだ歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)