静 夜 思

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【書評181】 カモメの日の読書 ~漢詩と暮らす~     小津 夜景 著   東京四季出版  2018年6月 発刊

2024-01-11 14:25:01 | 書評
 最後の書評は昨年11月22日<触法精神障碍者>だったので、2か月近く前になる。思えば、読書に割く時間は確実に減っている。

 さて、本書は著者の名前も著書も初めてだったが、目を奪われた言葉は「カモメの日」「漢詩と暮らす」。それに<夜景>というペンネームにも惹かれたのだろう。
不思議な構成だ。カモメについて何度も言及するように、著者がふわふわ空中を漂うかのように、鳥の目線と感覚で言葉が紡がれるのだが、冒頭に著名な漢詩と読み下し文
(著者による?)が40篇提示される。その後は著者が俳人としてスタートを切った事が能く偲ばれる見識や述懐が綴られ、それは必ず俳句や和歌と漢詩の繋がりに触れている。 私はこの様なアプローチを初めて読んだのでとても新鮮に感じた。

 漢詩・和歌・俳句を問わず、およそポエム(Poem)は人間が言葉の海をたゆたいながら自由奔放に想いの丈を述べるもの。著者は漢詩に学んだ古人の作品(和歌・俳句)を
紐解きつつ、広く「詩」全般の精神を讃えている。俳人のスタンスから漢詩の側へ橋を架けようとした人は果たして居たのだろうか? 寡聞にして知らない。

 詩人全般に共通するが、此の著者も非常に繊細な神経の持ち主だなと思いながら読み進むと、やはり幼少の頃、某施設で世間から隔離されて過ごした時間をもっていた。
1973年生れというから50歳。今はフランスに在住しているようで、日本語のバウンダリーを跳び越えた鳥の眼を持ち合わせているとすれば、今後どのような展開を見せるのか。
単に「ふわふわ感」だけでなく、同じ優しさといっても例えば谷川俊太郎氏の吐き出す優しさとは違う、独特の浮遊感覚が伝わってくる、まことに不思議な人である。
コメント
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