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映画:『 90歳、何がめでたい! 』 佐藤愛子 原作   前田 哲 監督

2024-06-26 07:36:50 | 文芸批評
 昨日、妻と久しぶりに映画館へ足を運んだ。映画産業の衰退が叫ばれたのはいつのことだったか? と首を傾げるほど、映画館は平日の昼なのに予想以上の客足。
私は原作も読まぬまま妻の誘いに乗ったのだが、案の定、客席の9割が老人で埋まり、その8割以上は女性だった。言うまでもなく、中年以下の世代は殆ど居ない。
他のスクリーンへは若い世代の観客が大勢たむろしていたので、やはりというべきか、この作品への客層はハッキリしている。

 映画は、典型的な小説家生活をなぞりながら展開する。雑誌編集者・吉川(唐沢寿明)が主人公・佐藤愛子(草笛光子)にエッセイ連載を迫り続け、ついに口説き落とすところから始まる。
コメデイータッチに乗せながらも、シナリオは<人生100年時代スローガン>に戸惑い、毒づく老人が吐く言葉を縦軸に、編集者の” 典型的昭和男子像 ”のペーソス が横軸に編まれている。
客席に座る老人たちには【長生きへの戸惑い・世間への怒り】【昭和男と歩んだ身近な記憶】のどちらも『あるある感』そのもので、蘇っただろう。だが、不思議に笑いは聞こえてこなかった。
 ここを深堀してとことん生真面目に描けば(死生観)と(昭和時代の家庭像)に行きつき、もっと重く暗い作品となっただろうが、原作者・監督ともに、それは深入りせず避けている。

 さりながら「いまの50代以下の人では、どこまで此の二つの軸に共感をもてるだろうか?」と私は思った。此の作が問うテーマと時代、50以下の世代は子供だったので、どちらの軸も共有できまい。
原作者の佐藤愛子さんは昨年100歳を迎えたとエンディングに映し出されたので、著作は10年前?世に出たらしい。映画化されるまで10年を要した背景には世相の変化も与かったに違いない。
 今年90歳を迎えた草笛光子が健在で、題名と主役にピッタリだったという事情もあろう。往年の美形はさすがに丸く失われたが、眼ヂカラと声の張りは変わらず、まさに適役の演技だった。
唐沢寿明も還暦を過ぎ、味を出せる俳優となった。  最後に、ひとこと。昔と変わらず映画館の映写時、あんな大音量は不要と思うが実に五月蠅い! 老いてくると音に疲れ、堪える。
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