御機嫌よう、読者諸賢。ハウリンメガネである。
まだ肌寒い日が続くが調子は如何か。何やら週末には初夏の気温になるという予報もあり、三寒四温もほどほどにしてくれぃ、という日々だが、どうぞ体調にはお気をつけて。
今回は今聴きこんでいるアルバムの話を。
少し前に火曜コラム「今週のハウリンメガネ」でも触れたが、ここ数年私が追いかけているのがジャズギタリストのビル・フリゼール氏。
この人、ジャズギター界隈の中では少し変わった立ち位置にいる人で、ストレート・アヘッドなジャズプレイヤーというより、ジャズのみならずカントリーやフォーク、ロカビリーやサーフロックなど、アメリカンミュージックを縦横無尽に行き来し、時にビートルズやボブ・ディランをギター1本で歌心溢れるアレンジで見事にカヴァーし、更にはディレイやループサンプラーを駆使したアンビエントサウンドを鳴らし、それでも何故かジャズとして破綻しない、という凄腕プレイヤー。
アメリカンミュージックの職人で歌心に溢れ、更にはアンビエントまで行ってしまうという、私好みもいいところなジャズマンなのである(そんな彼を敬愛するプレイヤーは多く、以前「今週の〜」で触れた現代ジャズギター界の至宝、ジュリアン・ラージもその一人である)。
そんなビル・フリゼール氏が22年にブルーノートから出したのが以下写真の「Four」
・ビル・フリゼール(ギター)
・グレッグ・ターディ(サックス、クラリネット)
・ジェラルド・クレイトン(ピアノ)
・ジョナサン・ブレイク(ドラムス)
という強者揃いかつベースレスの変則カルテットによる作品なのだが、今まさにアホほど繰り返し聴いている真っ最中。
ベースレスという編成による違和感は全くなく(クレイトンのピアノとフリゼールのギターが必要なタイミングでベース的な音を織り交ぜており、ベースレス故のスペースの広さをうまく活かしている)、フリゼールらしいグッドメロディに溢れた作品なので、繰り返し聴けるのは当然なのだが、「アホほど」繰り返して聴いているのには理由がある。
このアルバム、大変クリムゾニングに聴こえるのである……!
(クリムゾニング=キング・クリムゾン的の意)
はい、すみません。「いつもの病気が出たな!」と言われてしまえば返す言葉もないのだけれど、私の中のクリムゾン心が「このアルバムは大変クリムゾン的である」と言っているのだから仕方がない!
(そもそもクリムゾン自体ジャズの素養が強いバンドであり、彼らの緊張を感じさせる不協和音の使い方や間の外しかたはジャズから引用したものであるのだからジャズアルバムであるこの「Four」にクリムゾンを感じるというのは話が逆なのではないか?というのは真っ当な問いではあるが、それについてはもう私がクリムゾン馬鹿ということでご容赦願いたい)
ターディのサックスとクラリネットが奏でるセンチメントなメロディは「リザード」、「アイランズ」でのメル・コリンズを想起させるし、フリゼール、クレイトン、ブレイクによるリズムはレッド期のクリムゾンのような一触即発、少しでも気が緩めば即破綻しそうなテンションに溢れている(特にクレイトンのピアノが素晴らしい。ピアノという楽器はやはり楽器の王様といわれるだけあり、単独で様々なコード、ハーモニーを表せるが、彼のピアノが不協和音を一発鳴らした瞬間、一気に緊張が高まりそこからセッションが発展しているのがよく分かる(フリップ先生とエイドリアン・ブリューとトニー・レヴィンが三人がかりで表現していた緊張感をピアノだけで表しているとでもいえばいいだろうか。こういうのを聴くとピアノという楽器の音域の広さには大きなアドバンテージがあると言わざるを得ない))。
フリゼールという人はニューヨーク・パンクの最重要ギタリストであるロバート・クワインと仲が良かったこともあり(ジョン・ゾーンの作品に参加した際に仲良くなったらしい)、アヴァンギャルドなアプローチも得意とする人でもある。
こういうところ、ニューヨーク・パンクのプリミティブな表現に惹かれてニューヨークに滞在していたフリップ先生と通ずるものが多分にあると私は考えており、その現れがこの「Four」を「クリムゾンだ!」と私に思わせたのであろう。
クリムゾン的とは称したが、勿論このアルバムの良さはそれだけではなくフリゼール氏の魅力がきちんと現れている。
氏らしい朴訥なグッドメロディが通奏低音として存在することでセッションの緊張感は維持しながらも心地よいアルバムとして聴けるし、緊張感はあってもメンバー間の信頼関係が音に現れており、聴いていて疲れてしまうということもない(この辺り、クリムゾンだと聴き終わった後ぐったりすることがあるのでやはり別物だなぁ)。
緊張感を保ちながらも緊張と緩和を自由に往来するアンビバレントなジャズアルバム、「Four」。
暖かい春を待ちながら肌寒い夜に如何だろうか。
といったところで、また火曜日に!
<ハウリンメガネ筆>
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