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永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(731)

2010年05月11日 | Weblog
2010.5/11  731回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(18)

 大姫君の御車の御一行が夜になって院の御座所に伺候されました。

「先づ女御の御方に渡り給ひて、かんの君は御物語など聞こえ給ふ。夜更けてなむ上に参う上り給ひける。后、女御など、みな年頃経てねび給へるに、いとうつくしげにて、盛りに見所あるさまを、見奉り給ふは、などてかは疎かならむ。はなやかに時めき給ふ」
――まず、弘徽殿女御の御部屋にお渡りになって、玉鬘がご挨拶申し上げます。夜が更けましてから冷泉院に大姫君が参上なさいます。秋好中宮も、弘徽殿女御の御方々も、みなお歳を召されておいでになります中で、こちらの大姫がたいそう愛らしげで、今が最もお美しい盛りでいらっしゃいますもの、どうして院のご寵愛が浅いことがありましょうか。たいそう見栄えのするご様子です――

「ただ人だちて、心安くもてなし給へるさましもぞ、げにあらまほしうめでたかりける。かんの君を、しばし侍ひ給ひなむ、と、御心とめて思しけるに、いと疾く、やをら出で給ひにければ、口惜しう心憂しと思したり」
――(冷泉院は)御退位の御身ですので、まるで臣下のように気軽にお振舞いになりますのを、玉鬘は思っていたとおりと安心されて、そのまますぐに退出なさいました。そのことを冷泉院は残念でならないのでした――

 冷泉院はまた、薫を明け暮れ御前にお召しになって、ちょうど昔の光源氏がお生まれになった時の桐壺帝に劣らぬご寵愛ぶりです。薫は院の中の人々と睦まじく馴れ親しんでいらっしゃいます。

「この御方にも、心よせあり顔にもてなして、下には、いかに見給ふらむの心さへ添ひ給へり。夕暮れのしめやかなるに、藤侍従と連れてありくに、……まほにはあらねど、世の中うらめしげにかすめつつ語らふ」
――(薫は)この大姫君にも好意をお寄せになっている風に装って、内心では、大姫君が自分をどうお思いだろうかと、探るお心まで持っておられます。夕暮れのしっとりとした風情の庭を、藤侍従(大姫君の弟君)と連れだって歩きながら、……ご自分の意にそぐわない大姫君のご結婚を、それとなく仄めかしておっしゃったりなさるのでした――

「かの少将の君は、まめやかに、いかにせまし、と、過ちもしつべく、しづめがたくなむ覚えける。聞こえ給ひし人々、中の君を、と、うつろふもあり」
――あの蔵人の少将は、真剣にどうしたらよいかと、間違いを起こしてまでもと、気持ちを抑えきれぬ思いでおります。大姫君に言い寄っていらした幾人かは、それならば今度は中の君を得ようと、心を移している人もいるらしい――

ではまた。

源氏物語を読んできて(730)

2010年05月10日 | Weblog
2010.5/10  730回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(17)

 お二人の姫君は、夜も昼もご一緒にお過ごしになって、西と東を隔てている戸さへ取り外して行き来をしていらっしゃいましたのに、もう別れ別れになってしまうのかと悲しくてすっかり塞ぎこんでおります。
 
 そこへ、侍女の中将が蔵人の少将のお手紙を持ってきてご覧にいれます。大姫君は、

「大臣、北の方の、さばかり立ち並びて、たのもしげなる御中に、などかうすずろごとを思ひ言ふらむ」
――(この君には)夕霧右大臣と雲居の雁という立派な二親がお揃いになっていて、何のご不自由もない境遇でいらっしゃるのに、どうしてこのようにつまらないことをおっしゃったり、なさったりするのかしら――

 と、「限りあるを」を本当かしらと訝しんで、そのお手紙の端に、

「『はれてふ常ならぬ世のひと言もいかなる人にかくるものぞは』ゆゆしき方にてなむ、ほのかに思ひ知りたる」
――「あわれという、この無常な世のすべてに使われる言葉を、特別どなたに向かって申せばよいのでしょう」それは、(愛の言葉としてではなく)忌まわしい方面の語としてわずかに知っております――

 中将に「このように書いてお上げ」とおっしゃるのを、中将はそのまま蔵人の少将に差し上げました。蔵人の少将は、大姫君がとにかくお心に留めてくださったのが嬉しくて、また折り返しいろいろとお書きになりましたが、大姫君は、書き直しもせぬのを
お返しして、悪いことをしてしまったと、お困りになってそれからは、もうお返事もなさらなくなりました。

 大姫君付きの女房や女童には、綺麗な者ばかりをお揃えになりました。冷泉院へのご出仕の儀式は、ほとんど入内の形式と変わらずにすすめられました。

◆すずろごと=漫ろ事=とりとめのないこと。つまらない事。

ではまた。


源氏物語を読んできて(729)

2010年05月09日 | Weblog
2010.5/9  729回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(16)

 四月になりましたので、蔵人の少将たちのご兄弟もみな、宮中に参内しますのに、少将だけは気が滅入って元気もありません。この少将の落胆ぶりに人々はあきれもし、また気の毒にも思いますが、大姫君のご出仕も、もう決まったこととて、なんとも慰めようもないのでした。

四月九日ごろに、大姫君は冷泉院へ出仕なさいます。(帝を退かれている方への参上ですので、入内とは言わないようです)

「右の大殿、御車御前の人々あまた奉り給へり。北の方も、うらめしと思ひ聞こえ給へれど、年頃さもあらざりしに、この御事ゆゑ、しげう聞こえかよひ給へるを、またかき絶えむもうたてあれば、かづけ物ども、よき女の装束ども、あまた奉れ給へり」
――夕霧右大臣は、御乗車や、御前(先駆払い)の人々を玉鬘方に大勢ご奉仕に差し上げられます。雲居の雁も、いままではそれほど親しくはなかったのですが、蔵人の少将のことで、何度か御文のやりとりをしておられましたので、急に知らぬ顔でおりますのも具合が悪いとお思いになり、禄用の被物(かずけ物)や、女物のご装束をどっさりお贈りになります。

 お文には、

「あやしう現心もなきやうなる人の有様を、見給へあつかふ程に、承りとどむることもなかりけるを、おどろかせ給はぬも、うとうとしくなむ」
――すっかり気抜けしております少将の具合を介抱しておりましたが、その間にも、これと言って御用を仰せくださいませんのは、少しご遠慮なさり過ぎではございませんか――

 とありました。

「おいらかなるやうにてほのめかし給へるを、いとほしと見給ふ。」
――穏やかそうなおっしゃり方ながら、やはりご不満のご様子なのを、お気の毒だとご覧になるのでした――

 夕霧からは、ご子息たちを種々のお役に差し出され、「ご遠慮なくお使いください」と、源少将や、兵衛の佐をお寄こしになります。玉鬘のご兄弟の大納言からも、女房たちのための御車を差し向けられます。
 蔵人の少将は、切ない思いを言葉の限り述べつくしての御文を、懇意の女房のおもとという中将をとおして大姫君に差し上げます。

「今はかぎりと思ひ侍る命の、さすがに悲しきを、あはれと思ふ、とばかりだに、一言宣はせば、それにかけとどめられて、しばしもながらへやせむ」
――もう今は限りと思い切っている命ですが、それでもさすがに悲しくて…。せめて姫君から、気の毒な、とだけでも一言仰せくださるなら、それに命を繋ぎとめて、しばらくは生き長らえるでしょう――

◆うたてあれば=うたて有り=いやだ。嘆かわしい。どうも具合が悪い。

ではまた。


源氏物語を読んできて(728)

2010年05月08日 | Weblog
2010.5/8  728回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(15)

玉鬘はお心の中で、

「さし合せては、うたてしたり顔ならむ、まだ位などもあさへたる程を」
――姉妹同時の慶事では、なんと得意顔のことよ、と思われるでしょう。それにしても大姫君を臣下でまだ官位も低い者になどに――

 と、(中の君なら蔵人の少将へ)思っていらっしゃいますが、

「男は、さらにしか思ひ移るべくもあらず、ほのかに見奉りて後は、面影に恋しう、いかならむ折に、とのみ覚ゆるに、かう頼みかからずなりぬるを、思ひ歎き給ふことかぎりなし」
――蔵人の少将は、玉鬘の思惑(大姫君ではなく中の君を縁づける)どおりに心が移って行きそうにもありません。ほのかに大姫君のお姿を垣間見てしまってからは、面影に浮かんで恋しくて忘れられず、何とか好い機会があったならば我が物に、と思い詰めているときに、このように院へのご参上が決まってしまっては、取りつく島も無くなって歎かれること限りもありません――

 蔵人の少将は、言っても甲斐のない愚痴とは思いながらも、藤侍従のお部屋を訪ねますと、ちょうど薫からの御文を読んでいるところでした。無理に取ってみますと、別段色めいたことでもなく、大姫君への思いをほのめかし、ただ世をはかなんでいらっしゃるお歌です。

「つれなくて過ぐる月日をかぞへつつ物うらめしき暮れの春かな」
――私の心も顧みず月日は流れていき、恨めしくも暮春のころとなってしまいました(暗に大姫君の院への参上を恨む)――

蔵人の少将は、よくもまあ、自分と比べても、こんなにのんびりとしたご気分でいられるものだ、と、なおのこと苛立ってくるのでした。いつもお文の取り次ぎをしている大姫君の侍女のところへ出向こうとしますが、またも姫君からのお返事は頂けないだろうと溜息をついて思い詰めてばかりいるのでした。

ではまた。

源氏物語を読んできて(727)

2010年05月07日 | Weblog
2010.5/7  727回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(14)

弘徽殿女御からの御文をご覧になった玉鬘は、こうなることが姫君の運命であろう、こうまで仰せられますのも勿体ないことと思うのでした。お支度の調度類は以前から用意をしておりましたので、あとはいそいで女房たちの衣裳とか、あれこれこまごました物を用意なさいます。

「これを聞くに、蔵人の少将は死ぬばかりに思ひて、母北の方をせめ奉れば、聞きわづらひ給ひて、『いとかたはらいたき事につけて、ほのめかし聞こゆるも、世にかたくなしき闇のまどひになむ。思し知る方もあらば、おしはかりて、なほなぐさめさせ給へ』など、いとほしげに聞こえ給ふ」
――このお話を聞いた蔵人の少将は焦がれ死ぬばかりに思いつめ、母君の雲居の雁を責め立てますので、ほとほと困り果てて雲居の雁が玉鬘にお文を差し上げます。「まったく極り悪いことを、それとなくお願い申しあげますのも、愚かな親の迷いからでございます。人の親として思い当たられることがおありで、ご同情くださいますなら、ご推察の上なんとか安心させてくださいませ」などと、いかにも少将を不憫に思っての心情が書かれております。

 玉鬘は、「困ったことですこと」とため息をついて、お返事に、

「いかなることと思う給へ定むべきやうもなきを、院より理なく宣はするに、思う給へみだれてなむ。まめやかなる御こころならば、この程を思ししづめて、なぐさめ聞こえむさまをも見給ひてなむ、世のきこえもなだらかならむ」
――どうして良いのか定めようがございませんが、冷泉院からの御懇望ですので、思い迷っております。貴女のほうで本気でご所望ならば、ここしばらくはご辛抱いただきまして、やがてお心のゆくように取り計らい申し上げますのをご覧くださいませ。その方が世間の噂にもならず、万事穏やかでございましょう――

 このように書かれましたのは、この大姫君の宮仕えを決めて後、中の君を少将にご縁組おさせしようとのお考えなのでしょうか。

ではまた。


源氏物語を読んできて(726)

2010年05月06日 | Weblog
2010.5/6  726回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(13)

 夕暮れの霞がかった時刻ではっきりとはしませんが、蔵人の少将が目を凝らしてご覧になりますと、なるほど桜色の細長のご衣裳を着ていらっしゃるのが大姫君だと分かります。

「げに散りなむ後のかたみにも見まほしく、にほひ多く見え給ふを、いとどことざまになり給ひなむ事わびしく思ひまさらる」
――まさに、古歌にあるようなお形見として目に焼き付けておこうと、このご様子をご覧になりますが、この方が他人のものになってしまわれる事が、ひとしおわびしく思われてくるのでした。

 姫君たちはくつろいで碁に戯れていらっしゃる。侍女たちも愉快そうに気勢をあげてたいそう賑やかなご様子です。蔵人の少将には何が面白いのか分かりませんが、口出しをするのも憚られて、そっとその場を立ち去ります。

「またかかるまぎれもや、と、影に添ひてぞうかがひありきける」
――(それからというもの)また何時か、こんな好機がありはしないかと、つきまとってはねらっていました――

 こうしているうちに、月日が過ぎていき、玉鬘は姫君たちの将来が不安で、考え込んでいらっしゃいます。冷泉院からは、毎日のように御催促のお使いがあります。
 冷泉院の女御(弘徽殿女御で、玉鬘とは腹違いの御妹君、姉妹の関係にある)からも、

「うとうとしう思しへだつるにや。上は、ここに聞こえうとむるなめり、と、いと憎げに思し宣へば、たはぶれにも苦しうなむ。同じくは、この頃の程に思し立ちね」
――他人行儀に私を疎まれるのですか(一応は姉妹なのに)。院は、わたしが邪魔立てをするのだろうと、ひどく憎らしそうにおっしゃいますので、ご冗談でしょうが困っております。同じ事なら早々に宮仕えをご決心なさいませ――

◆散りなむ後のかたみ=古今集「桜色に衣はふかく染めて着む花の散りなむ後の形見に」の歌を引く。 

◆うとむる=疎む=素っ気なくする。よそよそしく対応する。

ではまた。

源氏物語を読んできて(725)

2010年05月05日 | Weblog
2010.5/5  725回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(12)

 冷泉院から大姫君へのご所望について、この兄君たちは、

「なほ物の栄なき心地こそすべけれ。よろづの事、時につけたるをこそ、世の人もゆるすめれ。げにいと見奉らまほしき御有様は、この世に類なくおはしますめれど、盛りならぬ心地ぞするや。琴笛の調べ、花鳥の色をも音をも、時に従ひてこそ、人の耳もとまるものなれ。東宮はいかが」
――なんとも栄えない感じがします。何事も権勢についてこそ世間の人も承知するものでしょう。なるほどあの御方(冷泉院)は、この世に二人といらっしゃらないご立派さでいらっしゃいますが、退位された御身で、お歳が盛りを過ぎておられますことを考えますとね。東宮へのご入内はいかがなのですか――

 と、玉鬘にお話しにお聞きになりますと、

「いさや、初めよりやむごとなき人の、かたはらもなきやうにてのみ、ものし給ふめればこそ。なかなかにてまじらはむは、胸痛く人わらはれなる事もやあらむと、つつましければ。殿おはせましかば、行く末の御宿世々々は知らず、ただ今はかひあるさまに、もてなし給ひてましを」
――さあ、それも、東宮には初めから夕霧右大臣のご長女の大姫君という方が、御寵愛を一人占めしていらっしゃるようですからね。中途半端な具合でお仲間入りさせますのも、胸が痛く世間体の悪いこともあろうかと気が退けるのです。髭黒大臣が生きていらっしゃったなら、将来の御運御運はとにかく、今を、甲斐あるようにお世話なさったでしょうに――

 などと、お話になると、皆しんみりとしてしまいました。
姫君達は、まだ碁をつづけては勝ち負けに興じております。春の空も霞がかってきましたので、端近に場所を変えて、女房たちもそれぞれの方を応援しているのでした。

「折しも例の少将、侍従の君の御曹司に来たりけるを、うち連れて出で給ひにければ、大方人少ななるに、廊の戸の開きたるに、やをら寄りてのぞきけり」
――このような折に、あの蔵人の少将が藤侍従のお部屋に参ったのですが、侍従も兄君たちとお出かけになって、人影がまばらなうえに、廊の戸が開かれたままになっています。そこからそっと覗いてみますと――

「かううれしき折を見つけたるは、仏などのあらはれ給へらむに、参りあひたらむ心地する」
――こうも絶好の機会を見つけたことは、仏のご出現などに参り合わせた気がする――

 と大喜びなさるとは、蔵人の少将も他愛ない心というもです。

◆写真:源氏物語絵巻「竹河」復元模写
大姫君と中君が碁を打っている。
大姫君に心を寄せる蔵人の少将が、右下で垣間見の機会をねらって忍んでくる。

ではまた。



源氏物語を読んできて(724)

2010年05月04日 | Weblog
2010.5/4  724回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(11)

 中将は、二七、八歳で、端正なご様子の方で、

「宮仕へのいそがしうなり侍る程に、人におとりにたるは、いと本意なきわざかな」
――宮中の仕事がいそがしくなりましたので、その間に、あなた方からのご信用が侍従に負けてしまって、まったく残念なことです――

また、弁の君は、

「弁官はまいて、私の宮仕へおこたりぬべきままに、さのみやは思し棄てむ」
――私のような弁官は尚のこと多忙で、私事へのご奉仕は怠らざるを得ませんうちに、
まさか、私をお忘れではないでしょうね――

 などと、碁を打っていらっしゃる姫君たちに言葉をかけたりなさって、特に中将は、

「内裏わたりなど罷りありきても、故殿おはしまさましかば、と思う給へらるること多くこそ」
――御所などに参内して、あちこち出歩きますにつけましても、亡き父君がおいでになりましたならと、思うことばかり多くて――

 と涙ぐみながら、この姫君方を、何とかして亡き父君が思い定めておいでになったようにしたいものだと思うのでした。このご長男の中将は、今は他家の婿になっておられるので、ゆっくりとこちらへお出でになることも稀でしたが、この日は花に誘われて、寛いでいらっしゃる。

「かんの君、かくおとなしき人の親になり給ふ御歳の程思ふよりは、いと若う清げに、なほ盛りの御容貌と見え給へり。冷泉院の帝は、多くは、この御有様のなほゆかしう、昔恋しう思し出でられければ、何につけてかはと思しめぐらして、姫君の御事を、あながちに聞こえ給ふぞありける」
――玉鬘は、このような大きな御子様方の親とは思えないほど、大そう若々しく、まだ美しい盛りとお見受けします。冷泉院は、今でもこの玉鬘のご容姿をご覧になりたくて、昔を恋しく思い出されては、何を口実にして玉鬘を召し寄せようかとご思案なさって、大姫君の宮仕えを強いてご所望申なされるのでした――

ではまた。


源氏物語を読んできて(723)

2010年05月03日 | Weblog
2010.5/3  723回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(10)

蔵人の少将の心の内は、

「この源侍従の君のかうほのめき寄るめれば、みな人これにこそ心寄せ給ふらめ、わが身はいとど、屈じいたく思ひ弱りて、あぢきなうぞうらむる」
――この御邸に、薫がこうしてお顔を出されるようなので、それでは姫君も誰もかれも、この人にきっと好意をお寄せになるに違いないと、すっかり弱気になってしょんぼりしてしまうのでした――

 三月になって、桜が盛りの頃、のんびりとした玉鬘の御邸では、特別なご用とて無いので、姫君たちが端近にお出でになっても、間違いなど起こりそうにもありません。(垣間見られる危険がない)

「その頃十八、九の程やおはしけむ、御容貌も心ばへも、とりどりにぞをかしき。姫君はいとあざやかに気高う、今めかしきさまし給ひて、げにただ人にて見奉らば、似げなうぞ見え給ふ」
――(玉鬘の姫君たちは)丁度十八、九歳くらいでしょうか。ご器量もご気質もそれぞれ優れていらっしゃいます。大姫君は、すっきりとして上品で、それでいて今風に華やかさもあり、なるほど、臣下の妻にはもったいなくお見えになります――
 
 ご衣裳は、桜の細長に山吹がさね、ちょうどこの時節に合った色合いで、物ごしなども才気が感じられ、こちらが恥ずかしく思うほどご立派でいらっしゃる。もう一方の姫君は、薄紅梅のご衣裳で、御髪がつやつやとして、すらりとした優雅なご様子です。

「碁うち給ふとて、さしむかひ給へる、かんざし御髪のかかりたるさまども、いと見所あり。侍従の君、見證し給ふとて、近う侍ひ給ふに、兄君たちさしのぞき給ひて、『侍従の覚えこよなうなりにけり。御碁の見證ゆるされにけるをや』とて、おとなおとなしきさまして、つひ居たまへば、御前なる人々、とかう居なほる」
――(姫君たちが)碁を打つとて、向かい合っていらっしゃる、その御髪のかんざしの有様など、本当に見る甲斐があるというものです。弟君の藤侍従が、碁の立ち合いをなさるというので、姫君達の傍におられると、兄君たちが覗くようにして、「侍従はひどくお気に入りになったな、御碁の立ち合いを許されるとは」とおっしゃって、大人っぽい様子で膝まづかれますので、女房たちも居ずまいを正すのでした――

 二人の兄君は、ともに玉鬘のお産みになった方で、ご長男は中将、次男は弁の君です。

◆山吹がさね=表朽葉色裏黄

◆見證し給ふ(けんぞしたまふ)=立会人、審判

ではまた。

源氏物語を読んできて(囲碁)

2010年05月03日 | Weblog
◆写真:碁あそび  風俗博物館
左が大姫君で桜の細長に山吹がさねの衣裳。右が中の君で薄紅梅の衣裳。衣裳も原文どおりに合せています。

 囲碁は奈良時代に唐から輸入されたもので、正倉院御物の中にも見事な碁盤と碁石をみることができる。『養老令』に、僧侶の音楽・遊戯を禁じて琴と碁を例外にしているのは、両者が高尚なものと見られたからであろう。