永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(740)

2010年05月20日 | Weblog
2010.5/20  740回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(27)

「御息所安げなき世のむつかしさに、里がちになり給ひにけり。かんの君、思ひしやうにはあらぬ御有様を、くちをしと思す。内裏の君は、なかなか今めかしう心安げにもてなして、世にもゆゑあり、心にくきおぼえにて、さぶらひ給ふ」
――大姫君は、お心の休まらない不安な宮仕えの煩わしさに、実家に帰っていらっしゃることが多くなりました。玉鬘は考えておられたようにならぬこの成り行きを、何とも残念でならないのでした。今帝に上がられた中の君の方は、むしろ却って華やかにのんびりと振る舞って、風情もあり床しくもあるとの評判でお仕えなさっています――

さて、竹河左大臣が亡くなられて、右大臣の夕霧が左大臣に、籐大納言(紅梅の巻の紅梅大納言)は左大将兼務の右大臣になりました。薫中将は中納言になられ、三位中将(元の蔵人の少将)は宰相に昇進なさって、源家である夕霧の一族が今をときめいていらっしゃるのでした。

 薫が中納言への昇進のご挨拶に玉鬘の御邸にお出でになり、物語なさいます。髭黒大臣が亡くなられてから段々に人の出入りも寂しくなって、誰もが素通りしてしまいそうなこの御邸に、薫は律儀にも礼儀をつくされているのでした。玉鬘はご挨拶のあとで、

「今日は、さだすぎにたる身のうれへなど、聞ゆべきついでにもあらず、とつつみ侍れど、わざと立ち寄り給はむ事は難きを、対面なくてはた、さすがにくだくだしき事になむ」
――(お目出度い)今日に、年寄りの愚痴など申し上げる場合でもない、御遠慮せねばとも思いますが、そう度々お立ち寄りくださることは難しいでしょうし、このようにお目にかかります時でなくては、申し上げにくい事ですので――

「院にさぶらはるるが、いといたう世の中を思ひ乱れ、中空なるやうにただよふを、女御を頼み聞こえ、また后の宮の御方にも、さりとも思しゆるされなむ、と思ひ給へ過ぐすに、いづかたにも、なめげにゆるさるものに思されたなれば、いとかたはらいたくて」
――冷泉院にお仕えしております大姫君は、ひどく宮仕えのことで苦労をしておりまして、中空を漂うようなどっちつかずの生活をしております。弘徽殿女御をお頼りにし、また秋好中宮も何とかお見逃しくださるでしょうと思って過ごしておりますのに、どちら様も大姫君を無礼で許し難いものに思っておられる由ですので、まったく心苦しくて――

◆なめげに=無礼だ。失礼だ。

ではまた。