永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(730)

2010年05月10日 | Weblog
2010.5/10  730回

四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(17)

 お二人の姫君は、夜も昼もご一緒にお過ごしになって、西と東を隔てている戸さへ取り外して行き来をしていらっしゃいましたのに、もう別れ別れになってしまうのかと悲しくてすっかり塞ぎこんでおります。
 
 そこへ、侍女の中将が蔵人の少将のお手紙を持ってきてご覧にいれます。大姫君は、

「大臣、北の方の、さばかり立ち並びて、たのもしげなる御中に、などかうすずろごとを思ひ言ふらむ」
――(この君には)夕霧右大臣と雲居の雁という立派な二親がお揃いになっていて、何のご不自由もない境遇でいらっしゃるのに、どうしてこのようにつまらないことをおっしゃったり、なさったりするのかしら――

 と、「限りあるを」を本当かしらと訝しんで、そのお手紙の端に、

「『はれてふ常ならぬ世のひと言もいかなる人にかくるものぞは』ゆゆしき方にてなむ、ほのかに思ひ知りたる」
――「あわれという、この無常な世のすべてに使われる言葉を、特別どなたに向かって申せばよいのでしょう」それは、(愛の言葉としてではなく)忌まわしい方面の語としてわずかに知っております――

 中将に「このように書いてお上げ」とおっしゃるのを、中将はそのまま蔵人の少将に差し上げました。蔵人の少将は、大姫君がとにかくお心に留めてくださったのが嬉しくて、また折り返しいろいろとお書きになりましたが、大姫君は、書き直しもせぬのを
お返しして、悪いことをしてしまったと、お困りになってそれからは、もうお返事もなさらなくなりました。

 大姫君付きの女房や女童には、綺麗な者ばかりをお揃えになりました。冷泉院へのご出仕の儀式は、ほとんど入内の形式と変わらずにすすめられました。

◆すずろごと=漫ろ事=とりとめのないこと。つまらない事。

ではまた。