2010.5/8 728回
四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(15)
玉鬘はお心の中で、
「さし合せては、うたてしたり顔ならむ、まだ位などもあさへたる程を」
――姉妹同時の慶事では、なんと得意顔のことよ、と思われるでしょう。それにしても大姫君を臣下でまだ官位も低い者になどに――
と、(中の君なら蔵人の少将へ)思っていらっしゃいますが、
「男は、さらにしか思ひ移るべくもあらず、ほのかに見奉りて後は、面影に恋しう、いかならむ折に、とのみ覚ゆるに、かう頼みかからずなりぬるを、思ひ歎き給ふことかぎりなし」
――蔵人の少将は、玉鬘の思惑(大姫君ではなく中の君を縁づける)どおりに心が移って行きそうにもありません。ほのかに大姫君のお姿を垣間見てしまってからは、面影に浮かんで恋しくて忘れられず、何とか好い機会があったならば我が物に、と思い詰めているときに、このように院へのご参上が決まってしまっては、取りつく島も無くなって歎かれること限りもありません――
蔵人の少将は、言っても甲斐のない愚痴とは思いながらも、藤侍従のお部屋を訪ねますと、ちょうど薫からの御文を読んでいるところでした。無理に取ってみますと、別段色めいたことでもなく、大姫君への思いをほのめかし、ただ世をはかなんでいらっしゃるお歌です。
「つれなくて過ぐる月日をかぞへつつ物うらめしき暮れの春かな」
――私の心も顧みず月日は流れていき、恨めしくも暮春のころとなってしまいました(暗に大姫君の院への参上を恨む)――
蔵人の少将は、よくもまあ、自分と比べても、こんなにのんびりとしたご気分でいられるものだ、と、なおのこと苛立ってくるのでした。いつもお文の取り次ぎをしている大姫君の侍女のところへ出向こうとしますが、またも姫君からのお返事は頂けないだろうと溜息をついて思い詰めてばかりいるのでした。
ではまた。
四十四帖 【竹河(たけがわ)の巻】 その(15)
玉鬘はお心の中で、
「さし合せては、うたてしたり顔ならむ、まだ位などもあさへたる程を」
――姉妹同時の慶事では、なんと得意顔のことよ、と思われるでしょう。それにしても大姫君を臣下でまだ官位も低い者になどに――
と、(中の君なら蔵人の少将へ)思っていらっしゃいますが、
「男は、さらにしか思ひ移るべくもあらず、ほのかに見奉りて後は、面影に恋しう、いかならむ折に、とのみ覚ゆるに、かう頼みかからずなりぬるを、思ひ歎き給ふことかぎりなし」
――蔵人の少将は、玉鬘の思惑(大姫君ではなく中の君を縁づける)どおりに心が移って行きそうにもありません。ほのかに大姫君のお姿を垣間見てしまってからは、面影に浮かんで恋しくて忘れられず、何とか好い機会があったならば我が物に、と思い詰めているときに、このように院へのご参上が決まってしまっては、取りつく島も無くなって歎かれること限りもありません――
蔵人の少将は、言っても甲斐のない愚痴とは思いながらも、藤侍従のお部屋を訪ねますと、ちょうど薫からの御文を読んでいるところでした。無理に取ってみますと、別段色めいたことでもなく、大姫君への思いをほのめかし、ただ世をはかなんでいらっしゃるお歌です。
「つれなくて過ぐる月日をかぞへつつ物うらめしき暮れの春かな」
――私の心も顧みず月日は流れていき、恨めしくも暮春のころとなってしまいました(暗に大姫君の院への参上を恨む)――
蔵人の少将は、よくもまあ、自分と比べても、こんなにのんびりとしたご気分でいられるものだ、と、なおのこと苛立ってくるのでした。いつもお文の取り次ぎをしている大姫君の侍女のところへ出向こうとしますが、またも姫君からのお返事は頂けないだろうと溜息をついて思い詰めてばかりいるのでした。
ではまた。