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永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(細長・2)

2008年12月07日 | Weblog
◆細長(ほそなが)2

細長  前姿

 材質は、綾織物や浮織物の他、羅などの薄物も用いられ、紅梅・桜・山吹・藤などの花を表した華やかな重ね色目が好まれたようです。
略礼装として認められた小袿とは違い、日常生活の延長上にありつつ重袿姿よりはきちんとした、着飾った装いという位置付けだったのだろうかと推測されます。

写真:風俗博物館

源氏物語を読んできて(243)

2008年12月06日 | Weblog
12/6  243回

【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(21)

 源氏からの贈り物に対する、どの方からの御返事もみなご立派で、使者への禄(贈り物)もそれぞれ鄭重でしたが、末摘花という御方は二条院の東院におられ、いわば他所にお住居ということで、本来ならば禄なども、もっと念入りになさるべきですのに、ただただ几帳面なご性格で、習慣どおりに、

「山吹の袿の、袖口いたくすすけたるを、うつぼにてうちかけ給へり。」
――山吹の袿(うちぎ)の袖口もひどく煤けたのを、襲(かさね)もなくて、お使いの肩にお掛けになったのでした――

 添えられているお文も、ひどく香を薫きしめた陸奥紙(みちのくがみ)の古びて厚ぼったい黄ばんだものに、こう書かれております。

「いでや、たまへるは、なかなかにこそ。
(歌)きて見ればうらみられけりから衣かへしやりてむ袖をぬらして」
――さて、お渡りがなく賜り物ばかり頂きますのは、かえって悲しゅうございます。
(歌)頂いたご衣裳を着てみますと、無情なあなたが却って恨めしゅうございます。この衣裳の袖を涙で濡らした上で御返しいたしましょう――

 源氏は末摘花の御文といい、使者への禄のみすぼらしさに、苦笑なさってご機嫌も悪く、はた迷惑な御方であることよ、ときまり悪そうにおっしゃるには、

「古代の歌詠みは、から衣袂ぬるるかごとこそ離れねな。まろもその列ぞかし。(……)」
――古風な歌人は、「から衣」とか「袂ぬるる」とかの怨みごとが、歌につきものだと思っているようだね。わたしもその仲間だが、(まったく一本調子に凝り固まって、現代風の言葉づかいに移らないのが困りものだ。人中に立ち交って詠む時も、御前で改まった歌会などでは、『まどゐ』という三文字が必ずつきものです。昔の恋歌の風流な贈答には『あだびとの』という五文字を第三句において、上句と下句をつなげると落ち着く気がするらしい)――

◆禄を給ふ=この場合は、お使いの者に与える褒美、祝儀。多くは衣装を肩に掛けて渡す。

ではまた。


源氏物語を読んできて(242)

2008年12月05日 | Weblog
12/5  242回

【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(20)

玉鬘には、
「曇りなく赤きに、山吹のはなのほそなが」
――鮮やかな赤色の衣に、山吹色(表朽葉色、裏黄)の細長をとり添えた一揃え――

末摘花には、
「柳の織物の、よしある唐草を乱れ織れるも、いとなまめきたれば、」
――柳(表白、裏青)の織物の、由緒ありげな唐風の乱れ織りのあでやかなのを――

明石の御方に、
「梅の折枝、蝶、鳥、飛び違ひ、唐めいたる白き小袿に、濃きが艶やかなる重ねて」
――梅の折枝に蝶や鳥が飛び違い、異国風の白い小袿に濃い紫色の艶やかな衣を重ねて――

空蝉の尼君には、
「青鈍の織物に、御料にあるくちなしの御衣、ゆるし色なる添へ」
――青鈍の織物の、たいそう趣のあるのに、ご自分の御料の梔子色の御衣に、禁色でない薄紅のを添えて――

源氏は、同じ日(元日)に着るようにとお文をお回しになります。ご自分がお選びになったご衣裳が、本当にその人に似合っているかどうか、見廻ろうとのおつもりのようです。

紫の上は、見て見ぬふりをしながら、源氏が選ばれたご衣裳から、玉鬘のご器量を思い合わせていらっしゃいます。「多分、内大臣の派手やかでぱっと目立つようでも、優美という点は見えないのに似ているのかしら。」また、明石の御方へのご衣裳をご覧になって、
「見るからに高雅な人柄」に思いやられて、心外なことと、心持が良くありません。

◆紫の上は、玉鬘と明石の御方とは、全く顔を合わせていませんので、衣装から想像をしています。

ではまた。


源氏物語を読んできて(241)

2008年12月04日 | Weblog
12/4  241回

【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(19)

 年の暮になって、玉鬘のお部屋のご設備の事や、女房たちの衣装のことなどを、紫の上や花散里のような身分の高い方々と同じように、源氏はお扱いになります。 紫の上は、御匣殿(みくしげどの)で、仕立てたものと、こちらでお作らせになったものも、細長、小袿など皆そこにおとり出しになります。紫の上は、染色の方面もことにお上手で、世にも珍しい色合いや、ぼかしをお染になります。

 源氏は歳をとった上臈女房たちに、これはあちらへ、これはあの方へと御衣櫃(みぞびつ)にお分けになります。

紫の上が、
「いずれも、劣りまさるけぢめも見えぬものどもなめるを、着給はむ人の御容貌に、思ひよそへつつ奉れ給へかし。着たるもののさまに似ぬへ、ひがひがしくもありかし」
――どれも良い悪いの差別のないお品のようですので、お召しになる方の御容貌(お顔、かたち)に合わせてお上げになってくださいませ。お召物がその方に似合わないのは、見苦しいものですから――

 と申し上げますと、源氏は「何気ないふりをして、人々の容貌を推量しようとの魂胆らしいね」などとお笑いになって、ご衣裳をそれぞれにお選びになりましたものは、

紫の上に、
「紅梅のいと紋浮きたる葡萄染の御小袿、今様色のいとすぐれたるとは、かの御料」
――紅梅の浮紋を特に施した葡萄染(えびぞめ=表蘇芳、裏縹(はなだ))の打掛けと、今風の立派な衣――

明石の姫君に、
「桜の細長に、艶やかなる掻練とり添へて」
――桜(表白、裏濃赤)の細長に艶の濃い掻練(かいねり)をとり添えて――

花散里には、
「浅縹の海賦の織物、織ざまなまめきたれど、のほひやかならぬに、いと濃き掻練具して」
――浅色の縹(はなだ)の波に海藻魚介を配した模様の、織方は優美ですが、色は目立たない上着に、濃い赤色の掻練を添えて――

◆御匣殿(みくしげどの)=宮中の貞観殿の中にあって、内蔵寮でつくる以外の装束を裁縫・調達したところ。また貴人の家で装束を調達する所。この場面では六条院内。

◆艶やかなる掻練=練って膠質(にかわしつ)を落とし、柔らかにした絹。冬から春にかけて用いる。

ではまた。