永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(256)

2008年12月19日 | Weblog
12/19   256回

【胡蝶(こてふ)】の巻】  その(4)

「春の上の御志に、仏に花奉らせ給ふ。鳥蝶にさうぞきわけたる童べ八人、容貌などことに整へさせ給ひて、鳥には、銀の花甕に桜をさし、蝶には、金の甕に山吹を、同じき花の房厳めしう、世になき匂ひをつくさせ給へり。」
――紫の上の御供養のお志として、仏に花を奉られます。鳥と蝶とに衣装を分けて着せた女童八人、容貌(みめかたち)よい者を特に選んで、鳥装束には銀の花瓶に桜を挿したのを、蝶には金の花瓶に山吹を挿したのを、それぞれにお持たせなりました。同じ花でも房も見事で、余所には見られない美の極致をお示しになりました。――

 春の御殿のお庭の築山から漕ぎだして、中宮の御殿のお庭に出る頃は、少し風に桜の花がはらはらとするものの、童女たちの姿が何とも言えず雅やかで美しい。女童たちは船から降りて、階の下まで来て花を差し上げます。
 行香の役の上達部たちがこれを受けとって、閼伽棚にお加えになります。紫の上からのお文は、夕霧をお使いとして差し上げられます。

紫の上の(歌)
「花園の胡蝶をさへや下草に秋まつむしはうとく見るらむ」
――春の園の胡蝶さえ、秋をお好みのあなたには、つまらないものとご覧になるでしょうか――

 中宮は、かつて紅葉を詠んで差し上げた折りのご返歌であると、ほほえんでご覧になります。昨日船遊びして、あちらの景色を拝見してきた若女房たちも、口々に南の御殿の素晴らしさを申し上げるのでした。

「鶯のうららかなる音に、鳥の楽はなやかに聞きわたされて、池の水鳥もそこはかとなく囀りわたるに、急になりつるほど、飽かず面白し。」
――うぐいすのうららかに鳴く音に、鳥の楽(迦陵頻の楽)が、はなやかに響きわたり、池の水鳥もあちこちで囀っています。やがて楽の音も「急」の調べにかわって(舞楽は序破急の三部分からなる。急の拍子に代わって)曲の終わるまで、ほんとうに興味は尽きません。――

 中宮方から、女わらわをはじめ、楽人たちに、それぞれに禄が与えられました。

 西の対の玉鬘は、紫の上とのご対面以来、どなたからも好意を寄せられておいでです。殿方で言いよって来る方も大勢いらっしゃいますが、源氏は軽々しくは婿をお決めになりそうもないのでした。

ではまた。

源氏物語を読んできて(雅楽・迦陵頻)

2008年12月19日 | Weblog
◆迦陵頻(かりょうびん)・鳥の楽(迦陵頻の楽)

 唐楽(からがく)(左さ舞まい)。「不言楽」、あるいはその形から「鳥」ともよばれる。
 天竺(てんじく)の祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の供養(くよう)の日に飛来した迦陵頻伽(かりょうびんが)の姿を写したという。迦陵頻伽は、極楽浄土に住む人頭鳥身の動物で、美しい声で歌を歌うという。本来は序・破・急があったが、現在は急の部分だけを子どもが舞う代表的な童舞である。

 四人で舞い、彩色された鳥の羽を背中に負い、童髪で天冠(てんがん)を頭に付ける。銅拍子を両手にもって舞いながら打つのは、迦陵頻伽の鳴き声をまねたものという。