永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(255)

2008年12月18日 | Weblog
12/18   255回

【胡蝶(こてふ)】の巻】  その(3)

 兵部卿の宮とおっしゃる方は、源氏の母違いの御弟君で、長年ご一緒だった北の方がお亡くなりになって、この三年ほどは一人住まいの侘しさにお暮らしせしたので、今は誰はばからず玉鬘に言いよっておられます。源氏も、

「思しし様かなふと下には思せど、せめて知らず顔をつくり給ふ」
――この弟宮ならば、玉鬘の夫として満足だと内心ではお考えになりますが、強いて気づかぬ風にしていらっしゃる。――
 
 兵部卿の宮は、今朝もひどく酔ったふりをなさって、藤の花を冠に挿して浮き浮きとはしゃいでいらっしゃる。そして(歌)

「むらさきのゆゑに心をしめたれば淵に身なげむ名やはをしけき」
――あなたの御身内の玉鬘に恋したからには、淵に身を捨てるような悪名の立つのも惜しみません――

源氏は微笑みながら(歌)

「淵に身を投げつべしやとこの春は花の辺りを立ちさらで見よ」
――淵に身を投げるべきかどうか、この春は玉鬘の側を離れず、様子をご覧なさい――

などと仰って、お引き留めになるなどお遊び心も趣深いものです。

 さて、今日は秋好中宮の御読経(みどきょう)の最初の日なのでした。昨日の管弦のお遊びから引き続き帰宅されずに、各々休息所をとって、昼の装束、すなわち束帯に変えられる方々も多いのでした。

「午の時ばかりに、皆あなたに参り給ふ。大臣の君をはじめ奉りて、皆着きわたり給ふ。多くは大臣の御勢ひにもてなされ給ひて、やむごとなくいつくしき御有様なり。」
――午(うし)の時刻になって(午後の二時~四時頃)、源氏の大臣をはじめとして、皆中宮の御殿にお渡になります。殿上人など残らず参上され、大方は源氏のご威勢に引き立てられて、それはそれは荘厳な法会でございました。――

ではまた。


源氏物語を読んできて(季の御読経)

2008年12月18日 | Weblog
季の御読経(きのみどきょう)

 季毎に諸寺の僧を召して『大般若経』を転読させ、天皇の安寧と国家の安泰を祈る大法会。中宮主催の季の御読経は、延長二[924]年から朝廷のそれとは別に行われるようになり、一条帝中宮彰子によって春秋二季の恒例仏事として確立したとされます。

 中宮以外にも上皇や東宮、皇太后などが主催した例もあり、また摂関家の私邸などでも催されるようになりました。

写真と参考 風俗博物館