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【胡蝶(こてふ)】の巻】 その(3)
兵部卿の宮とおっしゃる方は、源氏の母違いの御弟君で、長年ご一緒だった北の方がお亡くなりになって、この三年ほどは一人住まいの侘しさにお暮らしせしたので、今は誰はばからず玉鬘に言いよっておられます。源氏も、
「思しし様かなふと下には思せど、せめて知らず顔をつくり給ふ」
――この弟宮ならば、玉鬘の夫として満足だと内心ではお考えになりますが、強いて気づかぬ風にしていらっしゃる。――
兵部卿の宮は、今朝もひどく酔ったふりをなさって、藤の花を冠に挿して浮き浮きとはしゃいでいらっしゃる。そして(歌)
「むらさきのゆゑに心をしめたれば淵に身なげむ名やはをしけき」
――あなたの御身内の玉鬘に恋したからには、淵に身を捨てるような悪名の立つのも惜しみません――
源氏は微笑みながら(歌)
「淵に身を投げつべしやとこの春は花の辺りを立ちさらで見よ」
――淵に身を投げるべきかどうか、この春は玉鬘の側を離れず、様子をご覧なさい――
などと仰って、お引き留めになるなどお遊び心も趣深いものです。
さて、今日は秋好中宮の御読経(みどきょう)の最初の日なのでした。昨日の管弦のお遊びから引き続き帰宅されずに、各々休息所をとって、昼の装束、すなわち束帯に変えられる方々も多いのでした。
「午の時ばかりに、皆あなたに参り給ふ。大臣の君をはじめ奉りて、皆着きわたり給ふ。多くは大臣の御勢ひにもてなされ給ひて、やむごとなくいつくしき御有様なり。」
――午(うし)の時刻になって(午後の二時~四時頃)、源氏の大臣をはじめとして、皆中宮の御殿にお渡になります。殿上人など残らず参上され、大方は源氏のご威勢に引き立てられて、それはそれは荘厳な法会でございました。――
ではまた。
【胡蝶(こてふ)】の巻】 その(3)
兵部卿の宮とおっしゃる方は、源氏の母違いの御弟君で、長年ご一緒だった北の方がお亡くなりになって、この三年ほどは一人住まいの侘しさにお暮らしせしたので、今は誰はばからず玉鬘に言いよっておられます。源氏も、
「思しし様かなふと下には思せど、せめて知らず顔をつくり給ふ」
――この弟宮ならば、玉鬘の夫として満足だと内心ではお考えになりますが、強いて気づかぬ風にしていらっしゃる。――
兵部卿の宮は、今朝もひどく酔ったふりをなさって、藤の花を冠に挿して浮き浮きとはしゃいでいらっしゃる。そして(歌)
「むらさきのゆゑに心をしめたれば淵に身なげむ名やはをしけき」
――あなたの御身内の玉鬘に恋したからには、淵に身を捨てるような悪名の立つのも惜しみません――
源氏は微笑みながら(歌)
「淵に身を投げつべしやとこの春は花の辺りを立ちさらで見よ」
――淵に身を投げるべきかどうか、この春は玉鬘の側を離れず、様子をご覧なさい――
などと仰って、お引き留めになるなどお遊び心も趣深いものです。
さて、今日は秋好中宮の御読経(みどきょう)の最初の日なのでした。昨日の管弦のお遊びから引き続き帰宅されずに、各々休息所をとって、昼の装束、すなわち束帯に変えられる方々も多いのでした。
「午の時ばかりに、皆あなたに参り給ふ。大臣の君をはじめ奉りて、皆着きわたり給ふ。多くは大臣の御勢ひにもてなされ給ひて、やむごとなくいつくしき御有様なり。」
――午(うし)の時刻になって(午後の二時~四時頃)、源氏の大臣をはじめとして、皆中宮の御殿にお渡になります。殿上人など残らず参上され、大方は源氏のご威勢に引き立てられて、それはそれは荘厳な法会でございました。――
ではまた。