永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(244)

2008年12月07日 | Weblog
12/7  244回

【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(22)

さらに、源氏はつづけて、
「常陸の親王の書き置き給へりける、紙屋紙の草子をこそ、見よとておこせたりしか。(……)よく案内知り給へる人の口つきにては、めなれてこそあれ」
――末摘花の父宮が、書き遺された紙屋紙(かんやがみ)の草子を、読んで見よと贈ってくださったが、(その草子には詠歌の秘訣がぎっしりと記してあり、避けなくてはならない、歌の忌み言葉などについて説いたところが多かったので、もともと不得手な私は、かえって規則に縛られて身動きができなくなりそうで、面倒になってお返ししてしましました)よく学んでいる方(末摘花)の歌としては、これは平凡な歌ですね。――

と、面白がっておいでのご様子なのは、末摘花にお気の毒なようです。

紫の上は、

「などて返し給ひけむ。書きとどめて、姫君にも見せ奉り給ふべかりけるものを。ここにも、物の中なりしも、虫皆そこなひてければ。見ぬ人はた、心ことにこそ、けどほかりけれ」
――どうしてお返しになりましたの。書きとどめて置いて明石の姫君にもお見せしたいものでしたのに。私の手元にも何かの中にありましたが、みな虫が喰ってしまいましたので。見ておりません私は、やはり歌の道には疎いのです――

源氏は、「姫君のご学問には全く不要ですよ」とおっしゃって、

「すべて女は、たてて好めること設けてしみぬるは、さまよからぬ事なり。何事も、いとつきなからむは口惜しからむ。ただ心の筋を、漂はしからずもてしづめおきて、なだらかならむのみなむ、目安かるべかりける」
――総じて女というものは、一つの事を取り立てて、それに凝り固まるのは見苦しいものです。何事にも不案内なのはよくありませんが、ただ心の内にしっかりした考えを秘めていて、うわべは穏やかにしているのこそ、見よいというものです――

◆紙屋紙(かんやがみ)=京都の朝廷所属の紙屋院で漉いた紙。紙は貴重であったため、反故紙の漉き返しもした。

◆けどほかり=気遠し=人気がなく物さびしい。遠く隔たっている。「け」は接頭語。

これで【玉鬘(たまかづら)】の巻】  終わり。

ではまた。


源氏物語を読んできて(細長・1)

2008年12月07日 | Weblog
◆細長(ほそなが)1

 細長は、諸説があってその形状は明確には判明していません。女性の装束として用いられた細長は、袿(うちぎ)または表着の上に重ねるもので、身幅が狭く裾の長い衣裳だったと推測されています。衽(おくみ)がなく腋(わき)の開いた身丈の長い衣とする説が有力です。

 また、後身頃がふたつに分かれているとの説もあり、風俗博物館で展示しておられる細長は、この説を採用して、後身頃が上半身の部分からふたつに大きく分かれ、長く裾を引く形になっています。

写真:風俗博物館

源氏物語を読んできて(細長・2)

2008年12月07日 | Weblog
◆細長(ほそなが)2

細長  前姿

 材質は、綾織物や浮織物の他、羅などの薄物も用いられ、紅梅・桜・山吹・藤などの花を表した華やかな重ね色目が好まれたようです。
略礼装として認められた小袿とは違い、日常生活の延長上にありつつ重袿姿よりはきちんとした、着飾った装いという位置付けだったのだろうかと推測されます。

写真:風俗博物館