2010.1/29 633回
三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(48)
落葉宮は、このままこの小野で出家して、ここにお住みになりたいと決意しておられることを、そっと朱雀院に奏上した人がおりましたようで、朱雀院から、
「いとあるまじき事なり。げにあまたとざまかうざまに、身をもてなし給ふべき事にもあらねど、後ろ見なき人なむ、なかなか然るさまにて、あるまじき名を立ち、罪得がましきとき、この世後の世、中空にもどかしき咎負ふわざなる」
――(出家なさるのは)良くないことです。なるほど幾人も夫を持たれることはよくありませんが、世話をしてくれる人のいない女が出家などして、かえって浮名を立て、罪を作るときは、この世でもあの世でも中途半端で世間の非難をうけるものですから――
「ここにかく世を棄てたるに、三宮の同じごと身をやつし給へる、末なきやうに人の思ひ言ふも、棄てたる身には思ひ悩むべきにはあらねど、必ずさしも、やうのことと、あらそひ給はむもうたてあるべし。」
――私がこうして出家しましたところへ、女三宮が同じように姿を変えられたことを、子孫が絶えたように世間で噂をしていますが、出家の身で気にする訳ではありませんが、必ずしも皆が皆、同じように出家を競われるのは感心しません――
「世の憂きにつけて厭うは、なかなか人わろきわざなり。心と思ひとるかたありて、今すこし思ひしづめ、心すましてこそ、ともかうも」
――世の中が辛いからと言って出家するのは、却って人聞きが悪いものです。心から悟るところがあって、今少し心を落ち着かせてから、どうしたらよいかご判断なさい――
と、度々申されますのも、落葉宮と夕霧との浮名をお聞きになってのことなのでしょう。落葉宮がこの事に悩まれて世間が厭になられたことも、朱雀院はご心配になりますが、かといって、夕霧の意のままに靡かれるのはまして気に入らぬこと。やはり干渉じみたことは慎むのがよいと、これ以上このことについては、お口には出されません。
ではまた。
三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(48)
落葉宮は、このままこの小野で出家して、ここにお住みになりたいと決意しておられることを、そっと朱雀院に奏上した人がおりましたようで、朱雀院から、
「いとあるまじき事なり。げにあまたとざまかうざまに、身をもてなし給ふべき事にもあらねど、後ろ見なき人なむ、なかなか然るさまにて、あるまじき名を立ち、罪得がましきとき、この世後の世、中空にもどかしき咎負ふわざなる」
――(出家なさるのは)良くないことです。なるほど幾人も夫を持たれることはよくありませんが、世話をしてくれる人のいない女が出家などして、かえって浮名を立て、罪を作るときは、この世でもあの世でも中途半端で世間の非難をうけるものですから――
「ここにかく世を棄てたるに、三宮の同じごと身をやつし給へる、末なきやうに人の思ひ言ふも、棄てたる身には思ひ悩むべきにはあらねど、必ずさしも、やうのことと、あらそひ給はむもうたてあるべし。」
――私がこうして出家しましたところへ、女三宮が同じように姿を変えられたことを、子孫が絶えたように世間で噂をしていますが、出家の身で気にする訳ではありませんが、必ずしも皆が皆、同じように出家を競われるのは感心しません――
「世の憂きにつけて厭うは、なかなか人わろきわざなり。心と思ひとるかたありて、今すこし思ひしづめ、心すましてこそ、ともかうも」
――世の中が辛いからと言って出家するのは、却って人聞きが悪いものです。心から悟るところがあって、今少し心を落ち着かせてから、どうしたらよいかご判断なさい――
と、度々申されますのも、落葉宮と夕霧との浮名をお聞きになってのことなのでしょう。落葉宮がこの事に悩まれて世間が厭になられたことも、朱雀院はご心配になりますが、かといって、夕霧の意のままに靡かれるのはまして気に入らぬこと。やはり干渉じみたことは慎むのがよいと、これ以上このことについては、お口には出されません。
ではまた。