永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(630)

2010年01月26日 | Weblog
2010.1/26   630回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(45)

 日が高くなってから、小野からお返事が届きました。深い紫色の料紙をきちんと畳んで、例によって小少将が書いたものです。やはり落葉宮は何のお返事もなさらない由が書かれてあるのでした。夕霧はお心の中で、

「人の上などにて、かやうのすき心思ひ入らるるは、もどかしう現し心ならぬ事に見聞きしかど、身の事にては、げにいと堪え難かるべきわざなりけり、怪しや、などかうしも思ふべき心いられぞ」
――他人のことなら、こうして恋に溺れているのを見ると、もどかしく、正気の沙汰に思えなかったものだが、自分の事となると、なるほど堪え難く我慢の出来ないものだ。全く妙なことだ、なぜこうもいらいらしてしまうのだろうか――

と、反省なさいますが、やはりお心を抑えようもない。

 さて、このことを、六条院(源氏)もお聞きになって、

「いとおとなしうよろづを思ひしづめ、人の誹り所なく、めやすくて過ぐし給ふを、おもだたしう、わがいにしへ少しあざればみ、仇なる名をとり給うし面おこしに、うれしう思しわたるを、いとほしう何方にも心苦しき事のあるべきこと」
――(あの夕霧は)たいそう落ち着いていて、万事に思慮深く、人に非難される点もなく、無事に過ごしておられるのを、自分も面目に思い、自分が若いころ少し浮名を流した名誉回復ともなるなどと、嬉しく思っていたものを、これでは気の毒に、双方(雲井の雁と落葉宮か?)ともに困ったことが生じよう――

「さし離れたる中らひにてだにあらで、大臣なども如何に思ひ給はむ、さばかりの事たどらぬにはあらじ、宿世といふもののがれわびぬる事なり、ともかくも口入るべき事ならず」
――(落葉宮と雲井の雁は)全く赤の他人でもないのだから、致仕大臣などもどうお思いになるだろう。夕霧がそれほどのことに気がつかないことはないだろうに、運命というものは、逃れようとしても逃れられないものだ。とにかく自分などが口を挟むべきことではない――
 
と、お思いになりますものの、女の側に立って見れば、どちらにも気の毒なことだと、当惑なさるのでした。

◆おもだたし=面立たし=名誉、晴れがましい。

◆あざればみ=戯ればむ=ふざけているように見える

◆仇(あだ)なる名をとり給うし面(おもて)おこし=仇(かたき)をとるように面目をほどこせる

◆さし離れたる中らひにてだにあらで=まったく赤の他人の関係ということでもない。
  雲井の雁の祖母(大宮)と落葉宮の祖父(桐壺帝)は兄妹

ではまた。


源氏物語を読んできて(和紙・料紙)

2010年01月26日 | Weblog
料紙
 
 宮廷文化の花開いた平安時代は、平仮名、片仮名など、かな文字文化の発達の時代でもあった。「かな料紙」はその時代に、書道のかな文字用紙として生まれたものである。女文字として生まれた優美なかな文字の歌や書が「かな料紙」に記されると、その美しさはいっそう引き立つのである。

 草木染めや刷毛染めで染色した和紙に、金・銀箔や雲母の砂などをちりばめ、下絵を施す。草木染めには地元産の楢、クヌギなどの皮や実、葉を使う。すべての工程が手作業で、1枚1枚違った色、絵模様が仕上がるのが特徴である。