永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(613)

2010年01月09日 | Weblog
2010.1/9   613回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(28)

 夕霧は、

 「にはかにと思すばかりには、何事か見ゆらむ。いとうたてある御心の隈かな。よからず物聞こえ知らする人ぞあるべき。あやしう、もとよりまろをばゆるさぬぞかし。」
――急にあなたがそのように思うのは、一体私が何をしたというのです。いやにお疑いですね。誰か告げ口をする者がいるのでしょう。まったく昔から私を毛嫌いしている人がいるのでね――

「なほかの緑の袖の名残、あなづらはしきことにつけて、もてなし奉らむと思ふやうあるにや、いろいろ聞きにくき事どもほのめくめり。あいなき人の御為にも、いとほしう」
――(雲井の雁の乳母で、暗に大輔の乳母が)やはり、例の六位だったときを侮る気持ちが残っていて、それを口実にあなたを私から遠ざけようと思うのか、いろいろと厭な噂を撒き散らすようだ。そんな疑いを受けられる筋合いでもない方(落葉宮)にとってはお気の毒な事だ――

 と、おっしゃりながら、夕霧はお心の内で、

「つひにあるべき事と思せば、ことにあらがはず」
――きっとあの落葉宮との関係は、遂げられる筈だと確信していますので、これ以上に強くは争われない――

 大輔の乳母は、傍らで心苦しく聞いて辛く思いますが、さりとて何も申し上げずにおります。雲井の雁は、

「とかく言ひしろひて、この御文はひき隠し給ひつれば、せめてもあさり取らで、つれなく大殿籠りぬれば、胸はしりて、いかで取りてしがな、と、御息所の御文なめり、何事ありつらむ、と、目もあはず、思ひ臥し給へり。」
――(雲井の雁が)何かと意地を張ってそのお手紙を隠してしまわれましたが、夕霧は無理に取ることもせず、平気な風で夜具にお入りになったものの、胸騒ぎがして、何とかしてあれを取り返したい、きっと御息所からのお文だろう、何事があったのか、と、眠れず横になっていらっしゃる――

 雲井の雁が寝入ったらしいので、昨夜の雲井の雁のお部屋を探ってみましたが、見つかりません。翌朝もそここことお探しになりますが、どこに隠されたのか、どうしても見つかりません。

◆かの緑の袖の名残=かつて雲井の雁の乳母の大輔が「袍の緑・六位の」身分の低さを言って、軽蔑したこと

◆言ひしろひ=言い合う。言い争う。

ではまた。