永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(622)

2010年01月18日 | Weblog
2010.1/18   622回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(37)

 夕霧は、

「今宵しもあらじと思ひつる事どものしたため、いと程なく際々しきを、いとあへなし」
――まさか今夜はなさるまいと思っておられたご葬儀の準備が、短い間にてきぱき運ばれたのを、あっけなく――

 お感じになって、この付近のご自分の荘園の人々を召して、葬儀に関する事をするように指図なさってお帰りになりました。急いでの事とて簡略であったご葬儀も、夕霧のお口添えで堂々として、僧や参列者の数も揃って盛大に執り行われたのでした。前大和の守も「真似のできない夕霧殿のご配慮よ」と御礼を申し上げます。

 落葉宮は、

「名残だになくあさましき事」
――御亡骸の跡形さえ無いとはあまりなこと――

 と臥してお嘆きになりますが、なすすべもありません。お側の侍女たちも、この有様では、宮のお身の上にも不吉なことが起こりはすまいかとお案じ申し上げます。大和の守が万事雑事を済ませて、宮に申しますには、

「かく心細くてはえおはしまさじ。いと御心の隙あらじ」
――こんな所にお一人ではおられますまい。ご悲嘆の紛れる時もないでしょう――

 と申し上げますが、落葉宮としては、

「なほ峯煙をだに気近くて思ひ出で聞こえむと、この山里に住み果てなむと思いたり。御忌にこもれる僧は、東面、そなたの渡殿下屋などに、はかなき隔てしつつ、かすかに居たり。西の廂をやつして、宮はおはします」
――それでもせめて、母君の火葬の煙でも身近に思い出したくて、この山里に最後まで住もうと思っていらっしゃる。忌中の仏事にお仕えになる僧は、東の廂の間や、そちら側の渡殿、召し仕えの住む雑舎などにちょっとした仕切りをして、ひっそりと住んでおります。落葉宮は西の廂の間の装飾などを取り払って、そこにおいでになります――

 お悲しみで日の経つのもしかと覚えぬご様子のうちに、月日はいつの間にか九月になりました。

ではまた。