永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(614)

2010年01月10日 | Weblog
2010.1/10   614回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(29)

 「女は、かくもとめむとも思ひ給へらぬをぞ、げに懸想なき御文なりけり、と、心にも入れねば、君達のあわて遊びあひて、雛つくりひろひすゑて遊び給ふ。(……)取りし文のことも思ひ出で給はず。」
――女(雲井の雁)は、夕霧がそれほどお文を探そうとはなさらないらしいので、あれはやはり恋文ではなかったのかしらと、気にも留めず、子供たちが遊び騒いでいるので雛遊びなどにご一緒になって遊んでいらっしゃる。(その上に小さい子が這いまわり、着物をひっぱったりしていますので)昨夜、取り上げたお文のことなどすっかり忘れてしまっているようです――

「男は他事の覚え給はず、かしこに疾く聞こえむと思すに、よべの御文のさまも、えたしかに見ずなりにしかば、見ぬさまならむも、散らしてけるとおしはかり給ふべし」
――男(夕霧)は、他のことは考えられず、早く小野の山荘へお返事を出したいと思われますが、何しろ昨夜の御文の内容も確かめずに終わってしまったこととて、文面を拝見していない風なお返事をしたためては、きっとお文を失くされたのだとお思いになろうから――

 と、思い乱れていらっしゃる。お昼のお食事が終わって何となくのんびりとした
頃、夕霧は思案にくれて、雲井の雁に、

「よべの御文は何事かありし。あやしう見せ給はで。今日もとぶらひ聞こゆべし。なやましうて、六条にもえ参るまじければ、文をこそは奉らめ。何事かありけむ」
――昨夜のお手紙には何が書いてあったのですか。変にお見せにならないで。今日も六条院の花散里(母・葵の上亡きあと、母代わりに世話をしてくださった方。もちろん源氏の女である)の御方をお見舞いに伺わなくては。私は気分が悪くて六条院に参上できそうもないので、お文を差し上げようと思うのです。何と書いてありましたか――

 と言われますが、ごくさりげなくおっしゃるので、雲井の雁は、手紙を隠すなどと愚かなことをしたのが恥ずかしく、そのことにはわざと触れず、

「一夜の深山風に、あやまち給へるなやましさななりと、をかしきやうにかこち聞こえ給へかし」
――先日の夜、小野へ行って、山の風邪を引きこんで気分が悪くて困ります、と、面白ろ可笑しく書いてお上げなさいまし――

 とおっしゃる。

ではまた。