永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(184)

2008年11月26日 | Weblog
11/26  233回

【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(12)

 右近たちの居場所は、ご本尊の右手に近い間にとってありました。姫君の一行は、ご祈祷師の御師とは、まだ馴染みがないせいでしょうか、西の間で遠いところでしたので、右近は近くにと計らったのでした。そして、

「かくあやしき身なれど、ただ今の大殿になむ侍ひ侍れば、かくかすかなる道にても、らうがはしきことは侍らじと頼み侍る。田舎びたる人をば、かやうの所には、よからぬ生者どもの、あなづらはしうするも、かたじけなきことなり。」
――私はこうしたつまらない身ですが、ただ今の太政大臣(源氏)の御邸にお仕えしておりますから、こうした忍びの道中でも、無体を働く者はあるまいと安心しております。田舎びた人を見ますと、初瀬のような所では、つまらぬはしたない者たちが馬鹿にしますので、もったいないことです。――

 などと、もっとゆっくりとお話をしたいと思いますが、物々しい勤行の声にかき消されて、あたりの騒がしさに巻き込まれて、ともかくも仏を拝み申し上げます。心の内で、「あの姫君玉鬘をどうにかしてお探ししようと、長年お願いをしてきましたが、やっとこうしてお会いしましたので、源氏の君があれ程までに探し出したいというご熱意に、お知らせをし、姫君にこれからのご幸福をお恵みください。」と一心にお祈りをします。

 乳母と右近は、ここに三晩参籠して、その後ゆっくりとお話をしますには、右近、

「覚えぬ高きまじらひをして、多くのひとをなむ見あつむれど、殿の上の御容貌に、似る人おはせじ、となむ、年ごろ見奉るを、またおひ出で給ふ姫君の御さま、いと道理にめでたくおはします。(……)」
――思いがけず高貴の方にお仕えしまして、多くの女君を拝見しましたが、源氏の御方さまの紫の上のご容貌に並ぶ方はいらっしゃいませんし、また明石の姫君も当たり前のことですが、お可愛くいらっしゃいます。(この玉鬘の姫君は旅やつれなさっていらっしゃっても、あちらの方々に劣らないようにお見えになりますのは、驚かれるほどです。こちらの玉鬘さまのお美しさは、その方々に比べてどこが劣っておられましょう)――

と、微笑みながら言いますので、乳母もうれしく、

「かかる御さまを、ほとほとあやしき所に沈め奉りぬべかりしに、あたらしく悲しうて、家かまどをも棄て、男女の頼むべき子供にもひき別れてなむ、かへりて知らぬ世の心地する京に参うで来し。(……)」
――こちらの姫君を、危うく田舎に埋もらせ申すところでしたが、それが惜しく悲しく、家も竈も捨てて、頼りとする男女の子たちとも別れて、今ではかえって他国のような都に帰って来ました。(おお、右近どの、一日も早く、何とか良いようにお世話くださいまし、あなたのように高貴な方にお仕えしておられれば、自然、内大臣邸へお出入りする序でもありましょう。)――

と、言いますのを聞かれてか、玉鬘は恥ずかしそうに後ろをお向きになっていらっしゃいます。

◆あたらしく=惜しく(あたらしく)


源氏物語を読んできて(長谷寺・本尊)

2008年11月26日 | Weblog
「本尊」、十一面観世音菩薩

「本堂」に祀られている「本尊」、十一面観世音菩薩は、高さ10mを超す大きな仏像で、楠で造られている。本堂内の拝所から本尊の全身を拝観することはできないが、金色をした仏像を仰ぎ見るとき、やはりその大きさに圧倒される。

 右手に錫杖を持ち、左手に宝瓶を持つ姿は長谷型観音と呼ばれ独特な形式であり、全国の長谷観音の根本像とされれいる。

 「本尊」は何回もの火災でその度に、焼失しているようである。現在の本尊は天文7年(1538年)に造られたものといわれている