永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(218)

2008年11月11日 | Weblog
11/11  218回

【乙女(おとめ)】の巻】  その(28)

 夜が更けましたが、この折に大后(朱雀院の御母で、元右大臣の一の姫君の弘徽殿女御と言われた方)の宮の御住いを素通りしては、つれないことと冷泉帝はお思いになって、お帰りの折にお立ちよりになります。太政大臣もご一緒にお供申し上げます。帝は亡くなられた母宮(藤壺宮)を思い出され、このように長くこの世にいらっしゃる方もあるのにと、残念でなりません。

 大后はお喜びになって、それぞれが、その場にふさわしいご挨拶をなさったのでした。

みながお帰りになって、大后(おおきさい)は、
「のどやかならで帰らせ給ふ響きにも、后は、なほ胸うち騒ぎて、いかに思し出づらむ、世をたもち給ふべき御宿世は、けたれぬものにこそ、と、いにしへを悔い思す。」
――なにやら忙しそうに帰られる源氏のご威勢を拝見させられるにつけて、后は、胸のうち穏やかではなく、源氏という方は、昔の事をどう思い出されているのでしょう。今のように天下を掌握される御宿世は、やはりどうすることもできないものだったと、昔の自分の仕打ちを悔やまれるのでした。――

 后は、このごろ帝にさまざまなことをご奏上申し上げても、なかなかお聞きいれ下さらないことが多く、長生きしたためにこんなにつまらない目に逢う事よ、と朱雀院の御代に戻せるものならば、と万事に不機嫌な日々を送っていらっしゃる。

「老いもておはするままに、さがなさもまさりて、院もくらべ苦しく堪へがたくぞ、思ひ聞こえ給ひける。」
――年をとられるにつれて、大后はやかましさもひどくおなりで、朱雀院もお相手しにくく、困ったことにお思い申されていらっしゃいます。――

 かくして、大学の君(夕霧)は、その日立派に作詩をされて、進士になられ、秋の司召しには、五位に叙せられて侍従になったのでした。かの雲井の雁を忘れることはないのですが、内大臣がしっかり姫君を監視しておられるのも辛く、無理をしてまで逢おうとはお思いにはなりません。

「大殿、静かなる御住いを、同じくは広く見所ありて、(……)六条京極のわたりに、中宮の御旧き宮の辺を、四町を占めて造らせ給ふ。」
――源氏は、落ち着いた御住いをとかねてからお思いで、同じことならば、広くて眺めの良い所に、(別れて暮らしている、気がかりな明石の御方のような方を、一所に集めて暮らそう)と、六条京極のあたりに、今の梅壺中宮の旧いお屋敷の近くに、四町ほどの土地を占めてお造らせになります。――

◆一町(ひとまち)=今の換算で120メートル四方の区画。二条院も、二条院の東の院も、六条御息所の御屋敷も、一町と思われます。

ではまた。

源氏物語を読んできて(六条院とは)

2008年11月11日 | Weblog
六条院

 六条院は、六条京極あたりに四町を占める源氏の大邸宅である。一町(ひとまち)は40丈(約120メートル)四方、したがってこの敷地は中に小路を含むので、約252メートル四方、総面積63,500㎡となる。それをほぼ4等分した各町に、それぞれ春夏秋冬の趣向をこらした庭園をつくり、その季節にゆかりのある女性たちが住んだ。東南の町(右下)は春の御殿とも呼び、源氏と紫の上の住まいである。

 内裏からは南に下がって当時の都の中では東よりで、鴨川の近くにあったことになります。