11/2 209回
【乙女(おとめ)】の巻】 その(19)
さて、話が変わって、
「大殿には今年五節奉り給ふ。(……)過ぎにし年、五節などとまれりしが、さうざうしかりし積もりも取り添へ、うえ人の心地も、常よりもはなやかに思ふべかめる年なれば、所所いどみて、いといみぢくよろづをつくし給ふ聞こえあり。」
――大殿(源氏・太政大臣)の御殿では、今年は新嘗祭(にいなめさい)の節会に五節の舞姫をお差し出しになります。(これといって大騒ぎするほどのこともありませんが、童女の装束など、その日が近づいてきましたので、お急がせになります。)去年一年は藤壺の諒闇のため、五節なども停止させられましたのが物足りなかったこともありまして、今年は殿上人たちの心持も、例年よりも華やかにと思っているらしく、舞姫をお出しする家は競争して、とりわけ立派に贅をつくされるという、前からの評判です。――
「按察使の大納言、左衛門の督、うえの五節には、良清、今は近江の守にて左中弁なるなむ、奉りける。」
――他に公卿・上達部からは、按察使の大納言(雲井の雁の義父君)、左衛門の督(内大臣の弟君)です。殿上人からの五節には、良清といって今は近江の守で左中弁を兼ねている者から差し上げます。――
「殿の舞姫は、惟光の朝臣の、摂津守にて左京の大夫かけたる、女、容貌などいとおかしげなる聞こえあるを召す。」
――源氏からの舞姫は、惟光朝臣の今は摂津守で左京の大夫を兼ねている娘で、器量などとりわけ良いと評判なのをお召しになります。――
惟光は迷惑に思いますが、人々は「按察使大納言さえ、妾腹の娘を出されると言いますのに、あなたが愛娘を出すのに何の恥でしょうか」と文句を言われますので、愚痴をこぼしながら、同じ出すのであればそのまま宮仕えさせようと決心します。
「舞ならはしなどは、里にていとようしたてて、かしづきなど、したしう身に添ふべきは、いみじう選り整へて、その日の夕つけて参らせたり。」
――舞の練習などは、惟光の家で十分にさせて、介添えなど親しく娘に付き添う女房を十分厳選して、当日の夕方に参上させました。――
ではまた。
【乙女(おとめ)】の巻】 その(19)
さて、話が変わって、
「大殿には今年五節奉り給ふ。(……)過ぎにし年、五節などとまれりしが、さうざうしかりし積もりも取り添へ、うえ人の心地も、常よりもはなやかに思ふべかめる年なれば、所所いどみて、いといみぢくよろづをつくし給ふ聞こえあり。」
――大殿(源氏・太政大臣)の御殿では、今年は新嘗祭(にいなめさい)の節会に五節の舞姫をお差し出しになります。(これといって大騒ぎするほどのこともありませんが、童女の装束など、その日が近づいてきましたので、お急がせになります。)去年一年は藤壺の諒闇のため、五節なども停止させられましたのが物足りなかったこともありまして、今年は殿上人たちの心持も、例年よりも華やかにと思っているらしく、舞姫をお出しする家は競争して、とりわけ立派に贅をつくされるという、前からの評判です。――
「按察使の大納言、左衛門の督、うえの五節には、良清、今は近江の守にて左中弁なるなむ、奉りける。」
――他に公卿・上達部からは、按察使の大納言(雲井の雁の義父君)、左衛門の督(内大臣の弟君)です。殿上人からの五節には、良清といって今は近江の守で左中弁を兼ねている者から差し上げます。――
「殿の舞姫は、惟光の朝臣の、摂津守にて左京の大夫かけたる、女、容貌などいとおかしげなる聞こえあるを召す。」
――源氏からの舞姫は、惟光朝臣の今は摂津守で左京の大夫を兼ねている娘で、器量などとりわけ良いと評判なのをお召しになります。――
惟光は迷惑に思いますが、人々は「按察使大納言さえ、妾腹の娘を出されると言いますのに、あなたが愛娘を出すのに何の恥でしょうか」と文句を言われますので、愚痴をこぼしながら、同じ出すのであればそのまま宮仕えさせようと決心します。
「舞ならはしなどは、里にていとようしたてて、かしづきなど、したしう身に添ふべきは、いみじう選り整へて、その日の夕つけて参らせたり。」
――舞の練習などは、惟光の家で十分にさせて、介添えなど親しく娘に付き添う女房を十分厳選して、当日の夕方に参上させました。――
ではまた。