永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(235)

2008年11月28日 | Weblog
11/28  235回

【玉鬘(たまかづら)】の巻】 その(14)

 これは、秋風の肌寒い季節で、勤行が果てて帰途につきます前に、お互いの家を知らせ合い、別れたのでした。右近の家は六条院のちかくで、九条の豊後介とは、そう遠くないので、お互いに相談するにも都合がよいと思うのでした。

 右近は六条院の紫の上の御殿に参上します。源氏に、玉鬘に逢ったことを少しでも早く申し上げる折もあろうかと伺候しておりますと、次の夜紫の上から召し出されました。
源氏も右近をご覧になって、

「などか、里居は久しくしつる。例ならず、やまめ人の、ひきたがへ、こまがへる様もありかし。をかしき事などありつらむかし」
――なぜ、里下がりを長くしたのだ。いつもと違って独り者が、急に若がえることもあるらしい。何か面白いことでもあったようだね――

 と、例によってうるさく絡んで冗談をおっしゃる。右近が、

「罷でて、七日に過ぎ侍りぬれど、をかしき事は侍り難くなむ。山踏みし侍りて、あはれなる人をなむ見給へつけたりし」
――宿下がりして、七日余りになりますが、別に面白いことなどございません。山寺に詣でまして、何とも感に堪えない人を見つけたのでございます――

 源氏が「それは誰か」とお聞きになりますが、思いつきのように申し上げますなら、まだ、紫の上に申し上げてもいませんので、源氏にだけ特別に申し上げては、紫の上が後でお聞きになって、ご気分がお悪いでしょうと、「そのうちに」と申し上げます。
 大殿油(おおとなぶら)を灯して、源氏と紫の上がおくつろぎになっていらっしゃるご様子は、まことにお見事です。右近は、玉鬘がなるほどお美しく成長なさったと思うものの、やはり紫の上に並ぶ御方はなかなか居まいと拝見されるのでした。

 源氏がお寝すみになるというので、御脚をさすらせに右近をお呼びになり、

「若き人は、苦しとてむつかるめり。なほ年経ぬるどちこそ、心交はして睦びよかりけれ」
――脚をさすることは、若い女房はやりきれないと言って渋るが、やはり年寄り同士は気が合って具合がよさそうだね――

他の女房達が、これを聞いて、「嫌がるなどとそんなことあるものですか。困った御冗談をおっしゃるので、それが面倒で」などと忍び笑いをしております。

◆やまめ=やもめ
 こまがへる=若返る
 どち=たち、同志

ではまた。