永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(219)

2008年11月12日 | Weblog
11/12  219回

【乙女(おとめ)】の巻】  その(29)

 式部卿宮(紫の上の実父)は、来年ちょうど、五十歳になられるということで、その御賀のことを、紫の上は念入りにご用意なさっておいでになりますので、源氏もなるほど、知らぬ顔もできないと思われて、それならば新邸でとお考えになって準備なさいます。

 年が明けて、

 六条院のご普請と御賀のご用意のこと、精進落としのこと、経文や仏像を供養すること、楽人、舞人などの選定などを心をこめて源氏はなさいます。紫の上は、法事の日のお召し物、賜り物などを花散里と分け合って準備なさっておいでで、お互いにお文のやりとりもなさっていらっしゃいます。

 式部卿宮は、このことをお聞きになって、

「年ごろ世の中にあまねき御心なれど、このわたりをば、あやにくに情けなく、事にふれてはしたなめ、宮人をもご用意なく、憂はしきことのみ多かるに。(……)」
――今までこのかた、源氏は世間一般にはお情けをかけられますが、自分に対しては妙に素っ気なく、なにかにつけて辱め、召使の者たちにも遠慮会釈なく辛いお仕打ちが多かったので(それもこれも昔自分がしたことで、覚悟はしているものの、実の娘の紫の上が格別のご寵愛を受けていることは誇らしく、このように世間に鳴り響くまでの五十の賀を準備してくださるとは、思いもよらぬ晩年の名誉だ。)――

とお思いになります。しかし北の方(紫の上の義母)は、不愉快でならず、

「女御の御まじらひの程なども、大臣の御用意なきやうなるを、いよいようらめしと思ひしみ給へるなるべし。」
――娘を女御として上げられた折など、源氏がお心をかけず、お構いくださらなかったのを、いっそう恨めしいと思いこんでおられるのでしょうか。――

 八月にはいよいよ六条院を造り上げて、お引き移りになります。

「未申の町は、中宮の御ふる宮なれば、やがておはしますべし。中宮の御町をば、もとの山に、紅葉の色濃かるべき植木どもを植ゑ、泉の水遠くすまし、遣水の音まさるべき岩をたて加へ、瀧おとして、秋の野を遥かに作りたる、その頃にあひて、盛りに咲き乱れたり。」
 ――西南の一廓は、もともと秋好中宮(梅壺中宮を、この時からこう呼ぶ)の古い御住いの地でしたので、そのまま秋好中宮(あきこのむ ちゅうぐう)が住まわれるでしょう。このお住いは、元からありました築山に紅葉の色の濃やかな木々を植え、泉の水を遠くまで流し、その遣水の音がいっそう増すように岩を立てて滝の水を落し、見渡す限り秋の野の趣にしてありますのが、ちょうど今がその季節ですので、今を盛りに草花が咲き乱れております。――

◆御賀(おんが)=四十の賀、五十の賀といって、長寿を祝う。この時代の平均寿命は短く、貴族では30歳~40歳。

◆精進落とし=精進明けともいう。精進の期間が終わって肉食すること。ここでは御賀の前の精進期間を終えて、そのあとの振舞のお食事。

ではまた。


源氏物語を読んできて(六条院・秋の御殿)

2008年11月12日 | Weblog
◆未申の町

 南西に面し、秋の御殿と呼ばれて、秋好中宮(あきこのむ中宮)のお里の御住いとなる。元々は母の六条御息所が住んでおられた。

 寝殿はすべて南面に造られており、庭を配して泉を引き、季節の植物を楽しんだ。正門は西になる。(「六条院とは」の図、左下)