ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

天狗のミイラ №2 「トンビが鷹を産む」

2011-01-30 | Weblog
子母澤寛の小説に『父子鷹』(おやこだか)があります。海舟勝麟太郎と父の勝小吉を描いた名作ですが、このブログでも紹介したことがあります。少年麟太郎が野良犬に金玉の片方を喰いちぎられ、瀕死の重傷を負ったときの話しです。キーワード「勝海舟 金玉 山麓」。このような言葉でヒットすると思います。金玉話しに興味ある方はご一読ください。「坂本龍馬 金玉」でも、連載「金玉」につながります。

 さて、今日は「金玉」ではなく、鷹タカや鳶トビ、トンビの話題です。海舟の父親の小吉は、どうしようもない無頼漢のように思われていますが、なかなかの人物でした。この親にしてこの子あり。親子ともに鷹であったのです。小吉は決してトビではありません。トビがタカを産んだのではなく、タカの子は、当然ですがタカだったのです。だからタイトルは「父子鷹」な訳でしょうね。「父鳶子鷹」ではありません。

 鳶が鷹を産むという諺ですが、本当は間違っています。トビはワシタカ科の鳥類です。トビは本来、タカの仲間なわけです。タカであるトビの子は、だからタカであるのです。
 小林桂助著『原色日本鳥類図鑑』保育社刊をみますと、タカもワシもトビも、みなワシタカ科に属しています。全鳥名22種を列挙します。
 ハヤブサ・シロハヤブサ・チゴハヤブサ・コチョウゲンボウ・チョウゲンボウ・イヌワシ・カタシロワシ・オオノスリ・ノスリ・ケアシノスリ・クマタカ・チュウヒ・ハイイロチュウヒ・オオタカ・ハイタカ・ツミ・トビ・オジロワシ・オオワシ・ハチクマ・サシバ・ハゲワシ。
 この22種が「ワシタカ科」に分類されています。「トビ」トンビは堂々とワシやタカの仲間な訳です。「トビの子は、タカそのものである」と言って、間違いはないのです。
 同図鑑によると、タカは4類に分類されています。
 ハヤブサ類
 ノスリ類
 オオタカ類
 チュウヒ類
 トビの姿はタカの「ノスリ」にそっくりです。ただノスリとトビのいちばんの違いは尾羽。ノスリの尾先は丸いのですが、トビの尾羽はV字型に切れている。それ以外は見分けが付かないほどよく似ています。
 食性をみると、ノスリはほかのタカ同様、生きたノネズミや小鳥、ヘビやカエルなどを捕食します。生食です。鳴き声は「ピーエー」。
 ところがトビは「ピーヒョロロ」で、死魚や小動物の死体を食します。トビが蔑まれる原因は、死肉ばかりをあさるいやしい食生活にあるようです。

 ところでトビにそっくりなノスリは、俗名を「糞鳶」(くそとび)といいます。立派なタカなのに、なぜクソトビなのか? この呼び名はいまも各地に方言として残っていますが、最古の記載は平安時代初期につくられた辞典『和名類聚鈔』(略「和名抄」)です。
 <鴟は一名を鳶。和名は「土比」。また一名を「鵟」(のすり)という。音は「狂」で「久曾止比」。喜食鼠…>
 屎(糞)クソをみますと和名「久曾」とありますから、「久曾止比」は糞鳶・屎鴟にちがいありません。

 天狗は「トビ」トンビと同類と信じられていましたが、天狗「糞鳶」とも平安時代から記されています。これは「ノスリ」を意味するのか、それとも蔑称として「糞」を付けて呼ばれたのか? 天狗の「糞鳶」「屎鴟」のことは、これからの宿題にしておこうと思っています。

 ところで今回の参考書、小林桂助先生の『原色日本鳥類図鑑』ですが、わたしの手持ち本は、昭和31年初版で33年の3刷版です。実は小学生のとき、小遣いを貯めて買った、超高額図書だったのです。奥付に定価1200円とありますが当時、これだけの金額は月収の数倍だったのです。眼の玉が飛び出すほどの高額ですが、少年は清水の舞台から飛び降りたわけです。
 著者の小林先生とはその後、たびたび文通し、少年は教えを受けました。確か小学6年から中学生のころでした。

 そしていま、手元に『小林桂助コレクション鳥類標本目録』2006年刊があります。ご子息の小林博司氏から贈られた図書です。桂助先生は2000年に91歳で亡くなり、これまで収集された世界の鳥類標本約15000点が、博司氏から兵庫県立「人と自然の博物館」に寄贈されました。日本最大最高級の鳥類剥製標本のコレクションです。
 目録をみると、ノスリはドイツ・スイス・国内の標本が15点。トビは千島・色丹・国内・ロシア・中国など18点が掲載収蔵されています。
 不思議なことにこの目録と図鑑が機縁になり、最近に森岡弘之先生(国立科学博物館・山階鳥類研究所)との交流もありました。かつての野鳥少年が、数十年ぶりにトビとノスリで復活し出したようです。これからは、ノスリ、トビそしてテングのことなどを、考えてみようと思っています。小林桂助先生の不肖の旧少年弟子として。
<2011年1月30日 南浦邦仁>
コメント
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