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世界で一番美しい少年

2021年12月28日 | 映画(さ行)

美少年の50年

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ルキノ・ビスコンティ監督による「ベニスに死す」(1971)で、
主人公を破滅に導く美少年・タジオ役を演じた、ビョルン・アンドレセンの50年を描きます。

「世界で一番美しい少年」と賞賛された彼は、当時15歳で、
スウェーデンのオーディションで監督に見出されました。
そのオーディション時の映像もちゃんとありまして、これはすごく貴重です。
監督に上半身を脱いで欲しいといわれ、若干躊躇する彼に、リアルな15歳を見ました。
その表情がまた、すごく良かったりするなんて思うことこそ不謹慎なのかも、
と思ったりもしますが・・・。

さて、映画が公開されると、彼のその美貌は世界中で賞賛のマトとなり、
日本でも熱狂的に迎えられます。
なんと日本でCM撮影をしたり、日本語で歌いレコ-ディングまでしたのですね。
作中でその曲が流されましたが、そういえば、うっすらと聞き覚えがあるような・・・。
今そのレコードを持っていたら、ちょっとしたお宝モノでしょうか?

本作には池田理代子さんまで出演していて、
あの「ベルサイユのばら」のオスカルのモデルが、
ビョルン・アンドレセンであることを明かしています。
確かにそう聞くと、若き日の彼はもう、オスカルにしか見えてきません。

ただただ、少年が大人の都合で引き回されていただけだと思うのですが、
彼の中では日本にはイヤな印象がないようで、そこだけは救いでした。

それにしても、ただでさえ多感な年頃、世界中からの注目と賞賛の渦のなか、
本当の自分を見失って行くのは無理もありません。
それで高飛車になれるようならまだ良かったけれど、
映像の中の彼はただ戸惑っていたように見受けられます。

人は彼の容姿ばかりをみて勝手に盛り上がる。
女性ばかりでなく、成人男子の絡みつく視線もまた、
耐えがたいモノだったでしょう・・・。
彼は、誰も彼の内面を知ろうとしないことに絶望と孤独を感じていたのかも知れません。

15歳という大人と子供の狭間、ほんの一時の一番繊細で美しい時間。
それはそういう瞬間だったのでしょう。
その時が過ぎれば、途端に世間は彼に無関心になってしまう。
彼のその後の苦しみについて、本作は多くは語っていませんが、想像にはあまりあります。

 

本作は次に彼のおいたちについて語っていきます。
彼の母はシングルマザーで、父親のことは未だに全く分かっていません。
そしてその母はビョルンがまだ子どもの頃に突然家を出て行方不明となり、
後に死体となって発見されます。

その後、彼は祖母に育てられたのですが、この祖母が目立ちがりやで、
言ってみればステージママならぬステージグランマでしょうか、
率先してまだ少年の彼を「仕事」につかせたのです。
もしこのときに、しっかりとした両親がついていて彼のことを護っていれば、
彼の人生はまた違ったモノになったのかも知れません。

これも作中で言っていたわけではありませんが、
世間に忘れられほとんど世捨て人のようになった彼を
スクリーンにまた引っ張り出したのが、最近の「ミッドサマー」というホラー作品。
この作品、当ブログでも取り上げていますが、
残念ながらビョルン・アンドレセンについては言及していません。
でも、彼が出演していて、どんな役だったかはちゃんと覚えていますよ!

ここで再び注目されて、このドキュメンタリー制作の運びになったのでは、
と私は思うのですが、実のところはよく分かりません・・・。

たしかに15歳の美しさは、とうに失われている。
けれど、誰にとっても同じく年月は流れるわけで・・・、
50年ですか。
いやはや、この方私と同年生まれですから!! 
自分の老化を棚に上げて人のことなんか言えないです。
でも、私だって50年前なら誰も注目はしなかったと思うけれど、
それなりに輝いていただろうと思いますよ・・・。
若さって、そういうモノですよねえ・・・、と、しみじみ。

むしろ彼はこの年でもお腹に脂肪がたっぷりついたりせず、
スリムでシャッキリしている。
カッコイイです。
まだまだお元気で頑張れそうですね。

 

<シアターキノにて>

「世界で一番美しい少年」

2021年/スウェーデン/98分

監督:クリスティーナ・リンドストロム、クリスティアン・ペトリ

出演:ビョルン・アンドレセン

 

時の流れ度★★★★★

栄光と破滅の軌跡度★★★★★

満足度★★★★☆

 



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