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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

シンシン SING SING

2025年04月16日 | 映画(さ行)

自己肯定の場

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ニューヨーク、シンシン刑務所における
収監者更生プログラムの「舞台演劇」を題材にしています。

無実の罪で収監された男、ディヴァインG(コールマン・ドミンゴ)。
刑務所内更生プログラム「舞台演劇」のグループに所属。
仲間たちと日々演劇に取り組んでいます。

そんなある時、刑務所内でもワルとして恐れられている男クラレンスが
演劇グループに参加することに。
この新人を加えて、彼らは次の公演に向けた新たな演目の準備に取りかかります。

本作は、シンシン刑務所の元収監者で、
舞台演劇プログラムの卒業生や関係者たちが多数参加しています。
このクラレンスも、ご本人が演じているのです。
なので、初めて演劇に触れるクラレンスと私たちの視点が重なって、感情移入しやすい。

クラレンスはあまり気が進まないながら、このチームに参加したのですが、
始めのうちはとまどいばかり。
なんのためにこんなことをするのか、よく分からない。
それが次第にのめり込んでいく様が興味深くうかがえます。

演劇は、1人でできるものではありません。
(1人劇はあるけど・・・)
そしてどんな端役であっても、欠けるとなり立たない。
チームとしての力も問われる。

そもそも刑務所にやってくる人たちというのは、
おそらくこれまであまり自己肯定感を持ったことがないのではないでしょうか。
けれど演劇に取り組むことによって、それが得られる。
自分はみんなの中で役に立っている。
一つの作品作りに貢献している。
そうした感覚。
実際に舞台に立って、拍手喝采をあびたりすればもう、それは確実。

映画やドラマでは刑務所内はいかにも殺伐としていますが、
こうしたプログラムが用意されているということにホッとします。

 

「シンシン SING SING」

<シアターキノにて>

2023年/アメリカ/107分

監督:グレッグ・クウェーダー

出演:コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、
   ポール・レイシー、デビッド・ジローディ

刑務所のリアリティ度★★★★★

自己再生度★★★★☆

満足度★★★.5


先生の白い嘘

2025年04月12日 | 映画(さ行)

男女間の「暴力」のこと

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高校教師の原美鈴(奈緒)。
日々、女であることの不平等さを感じています。

親友の美奈子(三吉彩花)から、早藤(風間俊介)と婚約したと告げられますが、
その早藤こそ、美鈴に女であることの不平等さの意識を植え付けた張本人。
早藤は、表向き人当たりの良いサラリーマンですが、
裏では女を見下し、暴力を振るう最低な男。
美奈子と付き合いながら美鈴に乱暴し、
その後も何食わぬ顔で、美鈴を呼び出します。
美鈴はそんな早藤を忌み嫌いながらも、
性の欲望が芽生え、呼び出しに応じてしまうのです。

ある日、美鈴の担当クラスの男子生徒・新妻(猪狩蒼弥)から
性の悩みを打ち明けられ、思わず美鈴も自身の本音を漏らします。
そして新妻は自分に本音をさらけ出してくれた美鈴にひかれていきます。

 

美鈴と新妻の共通点は、双方とも「暴力」によって犯されたと思っていること。
美鈴は男によって力尽くで。
だから彼女ははじめ新妻に、
「相手は女なのだから、本気で抗えば避けられたでしょう」
と言うのですが、
人妻に魅入られたようになって、逃れられなかった、と。
彼にとっては犯されたのと同様だったのでしょう。
男であれ、女であれ、相手の強引さに逆らうことができず、
ただ自分の弱さ、無力感を思い知るということがあれば、
それは立派な「暴力」ということかも知れません。

女だから無力で、相手の言いなりになるしかないのだと思っていた美鈴は、
次第にそうではないのではないかと思うようになっていきますね。

絶対的強者として彼女の上に君臨していた早藤ですが、
徐々に逆に美鈴から追い詰められるようになっていくという展開は見事でした。

本作、なかなか描写が強烈で、オトナの作品。
特に、風間俊介さんがこんなえげつない最低男を演じるとは
思っていなかったので、焦りました。

早藤があんな風に女性を見下し乱暴をふるうのは、
実は彼の弱さの裏返しであるということが次第に見えてくるのです。
実際、世にあるドメスティックバイオレンスというのも、そんなところに根がありそうです。

そして又、早藤の本性など何も知らずに結婚しようとしている
おバカな女と見えていた美奈子が実は・・・というところもすごいですね。
女は恐いですよ。

気持ちが繊細な新妻を演じていたのは、HiHi Jetsの猪狩くん。
あ、違った。
今度はなんというグループのメンバーになったのだっけ? 
ときおりバラエティ番組などで見る彼のイメージとはまったく違っていて、
これも楽しかった。


<Amazon prime videoにて>

「先生の白い嘘」

2024年/日本/117分

監督:三木康一郎

原作:鳥飼茜

脚本:安達奈緖子

出演:奈緒、猪狩蒼弥、三吉彩花、風間俊介、板谷由夏

暴力度★★★★☆

覚醒度★★★★☆

満足度★★★.5


35年目のラブレター

2025年04月02日 | 映画(さ行)

ほっこり、じんわり

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2003年に朝日新聞で紹介され、
創作落語にもなるなど話題を集めた実話を映画化したもの。

 

戦時中に生まれ、貧しく、十分な教育を受けることができず、文字の読み書きができない
65歳、西畑保(笑福亭鶴甁)。
最愛の妻、皎子(きょうこ)(原田知世)と暮らしています。

若き日、保(重岡大毅)は皎子(上白石萌音)と出会い、結婚しましたが、
その幸せを手放したくないばかりに、字の読み書きができないことを打ち明けることができず、
やっと話したのは結婚の半年後。
しかし皎子は「今日から私があなたの手になる」と言って、
ずっと寄り添い支えてくれたのです。

そんな皎子に、感謝の手紙(=ラブレター)を自分で書きたいと思った保は、
定年退職を機に夜間中学に通い始めます。

 

保の生まれ育ったのは山奥の貧しい家。
そこでいろいろな事情が重なって、
字の読み書きを学習する機会を失ってしまっていたのですね。
今時そんなことが・・・とは思いますが、
保が通う夜間中学の先生(安田顕)が言うことには、
今でも稀にはあることだと・・・。
けれど、65歳になってからそれを学習するのがいかに大変か、
というのは同年代としてよく分かります・・・。

それで本作はその苦労話の物語かと思っていたのですが、
もちろんそれもありますが、夜間中学の
様々な事情を抱える人たちのことも絡めてあったのがとても良かったのです。

やはり保の字の読み書きの練習は、そう簡単ではありません。
何年経っても一向に上達しないことに苛立って、
もう止めてしまおうとすら保は思う。
けれど、先生は保の入学時からのテスト用紙をすべてとってあって、彼に見せます。
少しずつではあるけれど、確実に進歩しているのが分かります。

年齢差のある様々な同級生たちや先生との輪の中で、
保は学校生活の楽しさとかけがえのなさを今になって体験できた・・・。
素晴らしいですね。
そしてそれは、妻の支えがあったからこそ。

なんというか本作、終始どこかじんわりと温かくほっこり感が漂うのですよ・・・。
保の読み書きができないということでさえ、
もちろん本人は悔しく残念に感じてはいるのですが、
それでもなおどこか楽天的な感じがある。
これはもうやはり笑福亭鶴瓶さんのお人柄なのかも知れません。
そして又、若き日の保、重岡大毅さんのお人柄でもある。

はじめ、重岡大毅さんの老後が笑福亭鶴瓶さんって、あり得ないでしょ!
と思ったのですが、人物の雰囲気として、なくはないかも・・・という気がしてきました。

 

それにしてもラストはやはり悲しすぎるのですが・・・、人の世の常。
これも仕方のないこと。
泣けます・・・。

でも結果として保は良い仕事(寿司職人)に就き、結婚して子供ができて、孫もできる。
念願の、読み書きもできるようになる。
良き人生ですね。
そしてそれは又、良き人々との出会いのおかげでもある。
オススメ作品です。

<シネマフロンティアにて>

「35年目のラブレター」

2025年/日本/120分

監督・脚本:塚本連平

出演:笑福亭鶴瓶、原田知世、重岡大毅、上白石萌音、徳永えり、ぎぃ子、江口のりこ、笹野高史、安田顕

努力度★★★★☆

ほっこり度★★★★☆

満足度★★★★★


少年と犬

2025年03月26日 | 映画(さ行)

一匹の犬の、奇跡の旅

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馳星周さんの原作は大好きだったので、映画化された本作も待ちかねていました。

震災から半年後の仙台。

和正(高橋文哉)は、震災で飼い主を亡くした犬の多聞と出会います。
聡明な多聞は、和正とその家族にとっても大切な存在となります。
でも、多聞はいつも南の方角を気にしている様子・・・。

ある時、お金のために危険な仕事に手を染めた和正。
そのどさくさのうちに、多聞は姿を消してしまいます。

その後。
場所は滋賀県に移ります。
悲しい秘密を持つ美羽(西野七瀬)が、多聞と出会います。
多聞と過ごすことで、平和な日常を取り戻していく美羽。
そして、彼女の前に、多聞を追ってきた和正が現れ、二人は親しくなっていきます。
この時、多聞はしきりに西の方向を気にしている様子。

さて、多聞が本当に目指す先とは・・・?

原作では、多聞はもっと多くの人々と関わりを持ちながら、
徐々に、真の目的地へと近づいていきます。
映画でそれをすべて描いていては散漫になってしまいそうですので、
多少エピソードを割愛したのはやむを得ないところですね。

いずれにしても、多聞がかかわる人々はどこか「死」の匂いを漂わせる人たち。
けれど、多聞といることで心がほぐれて、
己の運命に向き合うようになっていくのです。

 

多聞が最終的に向かうところにもやはり「死」が近くにあるのだけれど、
でも、多聞が目指していたのは「光」ですよね。
だから、つらく悲しくはあるけれど、暗くはない。
そう思わせてくれる作品でした。

小説ではそうなっていないのですが、
本作では、多聞の旅にずっと「和正」が付きそうのです。

「和正」には多聞の目的地は分からないから、ただ付いていくだけなのですが、
それでも、多聞がひとりぼっちではないところが、すごくいい演出だと思いました。

馳星周さんの原作ならこんな展開はそぐわない感じなのですが、
本作には本作なりの情感。
これも悪くはありません。

 

<シネマフロンティアにて>

「少年と犬」

2025年/日本/128分

監督:瀬々敬久

原作:馳星周

脚本:林民夫

出演:高橋文哉、西野七瀬、伊藤健太郎、伊原六花、江口のりこ、柄本明、斎藤工

犬の聡明度★★★★★

満足度★★★★.5

 


仕掛人・藤枝梅安2

2025年03月07日 | 映画(さ行)

それぞれの影にある愛憎

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先日見た、「仕掛人・藤枝梅安」シリーズの第2部。
前作から続きの物語となっています。

梅安(豊川悦司)と彦次郎(片岡愛之助)が連れ立って京都への旅をしています。
その道中で、彦次郎がある侍(椎名桔平)の顔を見て、憎しみを露わにします。
その男は、彦次郎の妻と子を死に追いやった絶対に許せない男だというのです。

しかしやがて、この男・峯山又十郎は彦次郎の仇ではなく、
その双子の弟・伊坂惣市(椎名桔平)こそが、仇であることが分かります。
そして京へ着くと、梅安は、上方の仕掛けの元締めから
伊坂の仕掛けを依頼されるのです。

そんな折、梅安を付け狙う武士の姿があります。
それは梅安を仇と思い探し回っている井上半十郎(佐藤浩市)で・・・。

輻輳する憎しみ・・・。
梅安ももとからの人格者というわけではなく、
人一倍愛憎をたぎらせ、揺れ動く人物でもあったのでしょう。

今彼が行っている仕掛けの裏にも、彼の相知らない事情や愛憎があるのかもしれず、
人の命を奪うということは、どんな恨みを買っても仕方のないことと、
はじめから大きな覚悟が必要なことなのかも知れません。

しかしその恨みつらみに人生を乗っ取られて、本来歩むべき道をそれてしまう人もいる・・・。
それが半十郎ということになりましょう・・・。
人の心というのはやっかいなものです。

前作同様、こちらも豪華キャスト。
シビアな時代劇をたっぷり楽しみました。

 

こんな話の中では、高畑淳子さん演じる「おせん」の登場が、まことに心をほっこりさせてくれます。

 

<Amazon prime videoにて>

「仕掛人・藤枝梅安2」

2023年/日本/119分

監督:河毛俊作

脚本:大森寿美男

出演:豊川悦司、片岡愛之助、菅野美穂、椎名桔平、佐藤浩市、一ノ瀬颯、高畑淳子

時代劇度★★★★★

満足度★★★★☆


仕掛人 藤枝梅安

2025年03月01日 | 映画(さ行)

非情を貫く、仕掛人

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江戸郊外、品川台町に住む、鍼医者の藤枝梅安(豊川悦司)。
腕のいい医者ではありますが、実は裏の顔を持っています。
それは、生かしてはならない者たちを闇に葬る冷酷な仕掛人。

この度、ある料理屋の女将の仕掛けを依頼されます。
梅安がまずはその本人のことを調べるために料理屋に出向き、
女将の顔を見た瞬間、思わず息をのみます。
どうやら梅安は、彼女とは浅からぬ因縁があるらしいのですが・・・。

本作は池波正太郎さん原作で、
よく知られているTVドラマシリーズ「必殺仕事人」の、もととなったものですね。
2023年に、池波正太郎生誕100年を記念して制作された2部作のうちの一作目です。

最近少なくなった本格的な時代劇。
トヨエツ演じる渋~い藤枝梅安。
シビれます。

仕掛人は本来、依頼の請負人から仕事を受け、
その依頼者のことは知らないままということが多いようです。

考えてみれば、高い仕掛けの料金を払えるのは相当なお金持ち。
だから本当は、金持ちが自分の儲けのために邪魔になる人物を殺害したいという思いで
仕掛けを依頼することが多くなってしまうような気がします。

けれど、他の人はどうか分からないけれど、少なくとも梅安は
「決して世のためにならないあくどいヤツ」を消したいと思っている。
そのためには、殺人依頼を差配する「請負人」の人格が重要なんですね。
同じような志のあるものと組まなければ、
単なる金儲けのための殺し屋になってしまう。
それではドラマになりませぬ・・・。

この度の仕掛けの標的おみの(天海祐希)は、
確かに周囲の評判もあまり良くはないのですが、
実は梅安は、この女将の前の女将、
つまりこの家の主人の前妻の仕掛けを依頼されて、実行したことがあったのです。
そのため、此度の仕掛け依頼には何か引っかかりを覚えてしまう。
あの時は誰が依頼人かなどは詮索もしなかったけれど、
一体どういうことだったのだろう・・・。
今さらながら真相が知りたくなってくる梅安。
彼の仕掛人仲間である彦次郎(片岡愛之助)とともに、
この料理屋の周辺を探り始めます。

本作ではおみのの正体が知れるにつれて、梅安の過去も分かってくるのですが、
それにしては、あまりにも非情な終わり方・・・。
いやいや、それが仕掛人というものなのでしょう。
キビシイ・・・。

渋い作品ながら豪華キャストで、天海祐希さんが存在感あったなあ・・・。
菅野美穂さん演じる、梅安と情を交わすことになる女中さんも、いい雰囲気でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「仕掛人・藤枝梅安」

2023年/日本/134分

監督:河毛俊作

脚本:大森寿美男

出演:豊川悦司、片岡愛之助、菅野美穂、高畑淳子、柳葉敏郎、天海祐希

時代劇度★★★★★

満足度★★★★☆


366日

2025年02月05日 | 映画(さ行)

互いのことを思えばこそ

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沖縄出身バンド「HY」の同名楽曲をモチーフに、
沖縄と東京を舞台に20年の時を超えて織りなされるラブストーリー。

2003年。

沖縄に住む高校生の湊(赤楚衛二)と、同じ高校の後輩・美海(上白石萌歌)が出会います。
音楽の趣味が合う2人は、自然と惹かれ合い、
湊の卒業式の日に告白し、付き合い始めます。

母を病で亡くして、音楽を作るという夢も行き場をなくしていた湊でしたが、
美海に背中を押されて、東京の大学に進学します。
2年後には美海も上京。
東京での2人の幸せな日々がスタートします。

やがて湊は音楽会社に就職。
夢が叶った就職先ではありますが、思ったよりも激務。

美海は通訳になるという夢を果たすべく、熱心に学んできましたが、
就活が始まってもなかなか苦戦しています・・・。

そんなある日突然、湊が美海に別れを告げます・・・。

 

 

沖縄の美しくのどかな光景は少年少女2人が出会って恋をするには非常に適した背景ですね。
それに対して、東京のビルの林立する街並みはどこか少し不穏な気がしてしまう。

湊が美海に別れを告げた理由。

そして、失意の中で故郷に帰って、新たに1人で生きようと決意する美海の気持ち。

結局は双方の幸せを思ってのことなのが、いかにも切ない。
そしてまた泣けてしまうのは、
美海の幼馴染みで、変わらずすっと美海のことを思い続けている琉晴(中島裕翔)。
いやいや、この人の思いこそが本当に純粋。
なんてイイ奴なんだ!!

そしてそれからまた20年ほどが過ぎて織りなすストーリーがもう、泣けて、泣けて・・・。

もっと少女漫画っぽい単純なラブストーリーかと予想していましたが、
なかなかどうして、感動の物語でありました。

<シネマフロンティアにて>

「366日」

2024年/日本/122分

監督:新城毅彦

脚本:福田果歩

出演:赤楚衛二、上白石萌歌、中島裕翔、玉城ティナ、齋藤潤

 

純愛度★★★★☆

気持ちのすれ違い度★★★★☆

満足度★★★★.5


しあわせのマスカット

2025年01月22日 | 映画(さ行)

お菓子でも果物でも、おいしいものは人を幸せにする

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「消えた初恋」以来、福本莉子さんのファンなもので・・・。

北海道から修学旅行で岡山を訪れた相馬春奈(福本莉子)。
入院中の祖母へのお土産に、ぶどうの女王、マスカット・オブ・アレキサンドリアを
買おうとしていたのですが、財布を落としてしまい買うことができません。
しかたなく手元に残ったお金でアレキサンドリアを使った
和菓子「陸乃宝珠」を買い、祖母に持ち帰ります。
祖母はとても喜んでくれて、春奈自身もそのおいしさに感激。
やがて春奈は、その和菓子を製造している岡山の老舗和菓子メーカーに就職します。

しかし、何をやっても失敗ばかり。
いろいろな部署をたらい回しにされたあげく、
会社が提携しているぶどう農家の援農に派遣されます。
その農家の主、秋吉(竹中直人)は、とんでもなく偏屈で、
手伝いなどいらないと春奈を拒否。
それでもなんとか頑張ろうと春奈は思うのですが・・・。

マスカットと言うことで、農家で頑張る話かと思いきや、和菓子屋さんに就職。
これは「和菓子のアン」の流れかと思いきや、
結局やはりぶどう農家へと向かう話なのでした。

何をやっても失敗ばかりという春奈ですが、
その失敗の影には人の良さがあって、よきキャラクターですね。
北海道出身というのにもちゃんと彼女の背景があるのです。

心が温かくなるお仕事ストーリー。

この和菓子屋さんは、大手の「源吉兆庵」で、「陸乃宝珠」も実在します。
今度買ってみようかな・・・。

<Amazon prime videoにて>

「しあわせのマスカット」

2021年/日本/93分

監督:吉田秋生

脚本:清水有生

出演:福本莉子、中河内雅貴、本仮屋ユイカ、田中要次、長谷川初範、竹中直人

一生懸命度★★★★★

満足度★★★.5

 


シビル・ウォー アメリカ最後の日

2025年01月04日 | 映画(さ行)

絵空事ではない

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近未来、連邦政府から19の州が離脱したアメリカ。

テキサス州、カリフォルニア州からなる西部勢力と政府軍の間で内戦が勃発。
各地で武力衝突が起こります。
就任3期目の権威主義的大統領は、勝利が近いことをテレビの演説で訴えますが、
その実、ワシントンD.C.の陥落が目前に迫っています。

戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)を始めとする4人のジャーナリストが、
大統領の単独インタビューを行おうと、
ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出ます。



これは戦場と化した道路を行く、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにする過酷なロードムービー。
米国内の分断と、来たるべき再選大統領の独裁化を思うと、
どうにも絵空事とは思えない空恐ろしい作品です。

私は、めちゃめちゃになった米国の未来人が、
タイムトラベルをしてトランプ氏を狙撃しようとしたというのが、
あの2024年7月13日の事件の真相では?などと思ったりしています・・・。

かつてはアメリカも国内2分して争ったという歴史もありますし、
こんな話もあり得ないとは思えない・・・。

本作でさらに恐ろしいのは、いつしかイデオロギーも何も関係なく、
ただ闇雲に人々が殺し合うような場面があること。

集団リンチや虐殺・・・。

平和はあって当たり前のものではない、ということを心しなければなりません。

<Amazon prime videoにて>

「シビル・ウォー アメリカ最後の日」

2024年/アメリカ/109分

監督:アレックス・ガーランド

出演:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、ケイリー・スピーニー、
   スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン

来たるべき近未来度★★★★☆

満足度★★★☆☆


聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団

2024年12月25日 | 映画(さ行)

笑えない・・・

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神の子イエスと仏の悟りを開いたブッダが、
「休暇」と称して、東京立川の6畳一間のアパートで2人暮らしをするという、
ギャグ漫画「聖☆おにいさん」の実写映画化。

私は原作を読んだことはないのですが、
テレビドラマ版はしっかり見ていてファンですので、
本作もまあ見てみようかと・・・。
でも、本作の面白さはダラダラとした日常生活をこの2人が送る
というところにあるのだけれど、悪魔軍団と戦うなんてことは
すでに日常生活を逸脱していて、単に子供だましなのでは、とイヤな予感も。
ただまあ、単純に笑い飛ばすのもアリかとも思った次第。

結果、つまり悪魔軍団と戦うというのは、ドラマの撮影の話だったわけ・・・。

でもやはり、その前段階の、2人の日常の生活部分は楽しかったけれど、
悪魔との対決シーンになってからはサッパリ笑えず、正直くだらなかった・・・。

ムダに豪華なキャストも、本当にムダでした。

これは、Amazon prime videoで無料で見られるようになってからで十分だったなあ、
というのが私の偽らざる感想です。

<シネマフロンティアにて>

「聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団」

2024年/日本/93分

監督・脚本:福田雄一

原作:中村光

出演:松山ケンイチ、染谷将太、賀来賢人、岩田剛典、白石麻衣、勝地涼、仲野太賀、神木隆之介、窪田正孝

 

コスプレ度★★★★☆

満足度★★☆☆☆

 


侍タイムスリッパー

2024年12月09日 | 映画(さ行)

時を超えて、ここにいる意味

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2024年8月、当初一館のみで封切りされた本作。
東映京都撮影所の特別協力のもと撮影されたという自主制作作品です。
その後、口コミで話題が広まり上演館が増加していきまして、
興味はあったけれどもタイミングが合わずに見逃してしまっていた私も、
やっと見ることができました。

会津藩士、高坂新左衛門(山口馬木也)は、家老から長州藩士を討つよう密命を受け、
標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまいます。

目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。
周囲は江戸時代の服装をした人ばかりなので、
新左衛門はしばらくこの異変に気づきません。

が、さすがにここは自分が元いた世界とはまるで異なることに気づきます。
江戸幕府は140年前に滅んだことを知って、愕然とし、
どうして良いのか分らなくなってしまう新左衛門。

でも、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していきます。
そして自らの磨き上げた剣の腕を頼りに、撮影所で斬られ役として生きていくことに。

そして順調に進み始めた新左衛門の新たな人生。
そんな時、彼に思わぬ出会いが訪れます。

 

さて、新左衛門と同時に落雷に討たれた長州藩士はどうなったのか、
そんなところも本作の重要なポイントです。

また、新左衛門が消えた後に、
故郷会津藩がたどった悲惨な運命を知ったときの彼の心境。

まったく偶然に起こったタイムスリップではありますが、
自分が時を超えてこんなところで生きている意味をも探ることになる新左衛門。

現代の撮影所近辺の人々が、ほのぼのと新左衛門を受け入れてくれるところが救いでもあります。
新左衛門は記憶喪失になってしまった、というテイでこの地に住み着いているのです。

特別にタイムスリップなどというSFになじみのない方でも、
すんなり受け入れられるストーリーだと思います。

ラストの緊迫感もよし。

映画は予算をかければよいというモノでもないのがよく分ります。

時代劇は今、確かに斜陽かもしれないけれど、
人の心の有り様は今も昔も変わらないので、
きっとまた一回りして、流行るときが来るのではないかな? 
月9で時代劇ラブストーリーなんていかが・・・?
あ、すでに今年の大河ドラマは平安ラブストーリーだったな。

<サツゲキにて>

「侍タイムスリッパー」

2024年/日本/131分

監督・脚本:安田淳一

出演:山口馬木也、冨塚ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎

武士の生き様度★★★★☆

満足度★★★★★


正体

2024年12月02日 | 映画(さ行)

逃亡を続ける真の目的

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本作は私、WOWOWのドラマを見て、原作も読んでいるので、
とてもなじみ深い作品です。
でもやっぱり、横浜流星版も見てみたくて・・・。

 

一家3人を殺害した凶悪犯で、死刑判決を受けている鏑木慶一(横浜流星)が脱走します。

鏑木は様々な場所で潜伏生活を送り、
様々な人と知り合い、交流を持っていくのですが、
やがて警察の手が迫り間一髪の逃走を繰り返します。

最初の逮捕時から鏑木に向き合っている刑事・又貫(山田孝之)は、
鏑木がそれぞれの場所で出会った人々を取り調べますが・・・。
やがて、彼が必死に逃亡を繰り返す真の目的が明らかになっていきます。

内容を知っているので、いまさら驚きはない・・・と思っていたのですが、
意外にも(?)感動させられてしまいました。

潜伏生活、できるだけめだたないようにしていたいはずの鏑木ですが、
つい人の良さがでてしまい、余計なお世話までしてしまう・・・。
そう、どう見ても彼が殺人犯であるわけがないと、私たちも納得していきます。
逃走先のエピソードは本当はもっと多くて、
その全貌を知りたい方はぜひ原作の方を読んでください。
でも、原作のラストは映画とはちょっと違いますね。
映画の方が好きです!

鏑木が事件で誤認逮捕されたのは17歳のとき。
本作の冒頭では21歳になっています。
そんな彼が終盤でこんな風に言う。

「逃亡生活の中で、初めてお酒を飲んで、友達ができて、好きな人ができて・・・」

通常ならば、青春を謳歌しているはずの年代。
逃亡生活という過酷な状況にありながら、
ごくごくささやかな人らしい幸せを手にできたことを喜んでいるのです。
ちなみに彼は親がいなくて、施設で育ったのですね。

あまりにも幸薄いこれまでの人生が思いやられて、実に切ない。
そして、こんなささやかな体験すらも、
その機会を失わせてしまう「冤罪」というものの恐ろしさ。
あってはならないことです。

WOWOWドラマの亀梨和也さんももちろんよかったのですが、
本作の横浜流星さんも文句なしによかったです。

原作はこちら→「正体」染井為人

 

<シネマフロンティアにて>

「正体」

2024年/日本/120分

監督:藤井道人

原作:染井為人

出演:横浜流星、吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、田中哲司、松重豊、山田孝之

冤罪の残酷さ★★★★☆

満足度★★★★.5


十一人の賊軍

2024年11月04日 | 映画(さ行)

生き残るために

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戊辰戦争時を舞台とするストーリー。
私、かねてからの会津贔屓ですので、賊軍の話、大歓迎と思って見始めましたが、
これはそういうものとはまた別の話。

1868年、旧幕府軍と新政府軍(官軍)が争いを繰り広げていたわけですが、
越後の新発田(しばた)藩は、どちらにつくべきか、決断がつかずにいたのです。

奥羽越列藩同盟に加わっていた長岡藩は、
当然新発田藩も加わるもはずとして圧力をかけてきますが、
冷静に状況を見れば官軍の方が有利。
そのため、官軍と通じようとしているところへ、
長岡藩士がこちらの決断を確かめに来る・・・。

切羽詰まった溝口内匠(阿部サダヲ)は、ある計画を立てます。

さて一方、妻を寝取られた怒りから新発田藩士を殺害し、
死罪を言い渡された政(山田孝之)やその他の罪人たちは、
新発田藩士・入江(野村周平)や鷲尾(仲野太賀)から、こんな話を持ちかけられます。

これからやってくる官軍から砦を守り抜けば、無罪放免とする、と。

どうせこのままなら死罪で終わり。
それならば、なんとかやってみよう、と決意する罪人たち。

官軍につくか、それとも旧幕府軍か・・・という話、
少し前にも見たなあ・・・と思い起こせば、
それは長岡藩の内情を描く「峠 最後のサムライ」という作品でした。
役所広司さん演ずる藩士が状況は官軍に有利だけれど、
奥羽越列藩同盟の義理の方を重んじ、立派に戦って死んでいく・・・と、
武士の滅びの美を描いたものでしたが、
その時にいみじくも私は
「どんなにみっともなくても、生き残る人間くささも嫌いじゃない」
と書き記していました・・・。

で、本作はまさに、何が何でも生き残ってやろうともがく者たちの物語なのです。

彼ら咎人たちは、つまり新発田藩家老にとって使い捨てのコマにしか過ぎません。
そうした真実を知った彼らは、もう官軍も賊軍も、正義も、何も関係ない。
とにかく生き抜こうともがくのです。

死罪を申し受けた罪人は政ら11人。
でもうち一人は女性で、実際に戦闘に加わるわけではありません。
では本当の11人目は誰なのか? 
そこがミソであります。

武士ではない罪人たち(武士も含まれてはいますが)の戦いぶりは
決してカッコ良くはないのですが、何しろ迫力があります。
血みどろ、汗みどろ・・・。
一人、また一人と倒れていきます・・・。
壮絶。

とにかく息を潜めて見入るのみ・・・。

 

話は変わりますが、この日は久しぶりにサツゲキにて鑑賞。
でも、どうしてこの頃ここに足が遠のいていたのか分った気がしました。
あまりにも空いているので、居心地が悪いのです・・・。
だいじょうぶなのか、サツゲキさん・・・。

 

<サツゲキにて>

「十一人の賊軍」

2024年/日本/155分

監督:白石和彌

原案:笠原和夫

脚本:池上純哉

出演:山田孝之、仲野太賀、尾上右近、岡山天音、一ノ瀬颯、野村周平、玉木宏、阿部サダヲ

 

血まみれ度★★★★☆

迫力度★★★★☆

満足度★★★★★

 


静かな情熱 エミリ・ディキンスン

2024年10月16日 | 映画(さ行)

深い思索の中で生きた1人の女性

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1800年代を生きたアメリカの女性詩人、エミリ・ディキンスンの生涯を描きます。
正直、私は存じませんでしたが・・・。

エミリ・ディキンスンは、北米の小さな屋敷から出ることなく、
生前にわずか10編ほどの詩を発表したのみで、無名のまま生涯を終えました。
しかしその死後に、1800編もの詩が発見され、
繊細な感性と深い思索の中で綴られた詩の数々は、
後世の芸術家に大きな影響を与えたのです。

本作中のエミリは、気性が荒く、偏屈。
人と気安く打ち解けるような人物ではありません。
若い頃に寄宿学校へ入っていたのですが、
自分の信条と合わずに、戻って来てしまいました。
以後、ほとんど実家に籠もりきり。
思いを寄せる人は既婚者で、もちろん自分の思いを伝えることはしない。
逆に、彼女に思いを寄せる相手もいたのに(希少価値!)
そちらには手ひどく冷たい仕打ち。

ただ夜な夜な詩を書くときのみが彼女の安らぎの時。
しかしその詩は、当時「女が書く詩なんて・・・」と編集者に軽んじられて、
まともな評価を受けることができなかった訳です。

ただ1人の親友は結婚で離れて行ってしまい、
彼女の詩作を許してくれた父も亡くなり・・・、
いよいよ孤独の淵に立つ彼女を、さらにまた難病が襲います。

当時としては結婚もせず実家にいて、
自分のやりたいこと、詩を書くことだけをして生きていたというのは、
女性の生き方としてはまことに希有でありましょう。
つまり実家は並以上には裕福であったということで、
病気のことを除けば実は幸福であったのかも知れません。

彼女を見守る妹や兄、兄嫁もいて、
これで孤独だなどと言ったらバチが当たる。

逆に言うと、こういう境遇だからこそできた多数の詩編。
人生のままならなさは、そのままならなさから生まれる何かもある、
ということですね。

ちょっと退屈な作品かな・・・などと思いながら見ていたのですが、
今思えば、女性の生き方を考える上では意義深い作品のようです。

 

<Amazon prime videoにて>

「静かな情熱 エミリ・ディキンスン」

2016年/イギリス/125分

監督・脚本:テレンス・デイビス

出演:シンシア・ミクソン、ジェニファー・イーリー、キース・キャラダイン、
   ジョディ・メイ、ダンカン・ダフ

頑迷度★★★★☆

満足度★★★☆☆


ザ・ハッスル

2024年09月20日 | 映画(さ行)

だまし、だまされ・・・

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1988年映画「ペテン師とサギ師 だまされてリビエラ」で
マイケル・ケインとスティーブ・マーティンが演じた主人公の
性別を変えてリメイクしたもの、ということです。
・・・そちらの元作は見ていませんが・・・。

 

南フランスの海辺の町。

男を騙して小金を稼ぐペニー(レベル・ウィルソン)が、
凄腕のサギ師ジョセフィーヌ(アン・ハサウェイ)と出会います。
ペニーはジョセフィーヌに師事する形で、一緒にサギを働くように。

男たちから次々に金を巻き上げて行く2人。
いつまで経っても分け前をもらえないことに業を煮やしたペニーは、
ジョセフィーヌと決別。

2人は、莫大な財産を持つ純朴そうな青年トーマスをターゲットに、
サギの腕を競い合うことになってしまいますが・・・。

 

女性のサギ師が男を騙して金を巻き上げるというストーリーが気に入りました。
そしてこの2人は息が合って協力関係、というのではなく、
なにかと反目しあっているというところも。

2人の標的となってしまった純朴そうな青年がお気の毒・・・と見ていましたが、
なんと!!というストーリーも洒落ていますね。

おちゃらけてばかりのペニーが意外にもプロ意識が高いど根性の持ち主というのも伝わりました。
なかなか熾烈。

でも、最後のオチもまた良くて、とてもオシャレな仕上がりの作品だと思います。

 

「ザ・ハッスル」

2019年/アメリカ/93分

監督:クリス・アディソン

出演:アン・ハサウェイ、レベル・ウィルソン、アレックス・シャープ、ディーン・ノリス

ペテン度★★★★☆

満足度★★★.5