映画と本の『たんぽぽ館』

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「はてしない物語 上・下」 ミヒャエル・エンデ 

2017年01月01日 | 本(SF・ファンタジー)
あるがままの自分でありたい

はてしない物語(岩波少年文庫) 上・下セット
ミヒャエル・エンデ、佐藤真理子(訳)
岩波書店


* * * * * * * * * *

バスチアンはあかがね色の本を読んでいた
-ファンタージエン国は正体不明の〈虚無〉におかされ滅亡寸前。
その国を救うには、人間界から子どもを連れてくるほかない。
その子はあかがね色の本を読んでいる。
10歳の少年-ぼくのことだ! 
叫んだとたんバスチアンは本の中にすいこまれ、この国の滅亡と再生を体験する。


* * * * * * * * * *

本作、「ネバーエンディング・ストーリー」として映画化されたものを見たのも、
随分前のことだと思います。
当然内容は全く覚えておらず、全く未知のものとして読みました。
でも実のところ、映画ではかなり原作と変えているところがあったのではないかと思います。
でも、今本作を読み終えて思いますが、
本作で改変するべきところなどどこにもない。
一つ一つの冒険にも意味のある大切な物語、
作り変えてはいけないものだと確信します。
そもそも、本を読むことにしか楽しみを見いだせなかったバスチアンが
本の中へ旅する物語のわけですから、
これを映画になどしてはいけません。
本で読まなければダメなのです!!


と、いきなり熱く語ってしまいましたが・・・


バスチアンは太っちょでガニ股のいじめられっ子です。
お母さんは亡くなり、お父さんとも上手く行っていない。
運動も苦手だし、勉強も特にできるわけではない。
そんな彼が、古本屋で見かけた本を盗んでしまいます。
本を読んでいるときだけが、彼の気持ちの休まる時間だったから・・・。
その日はもう家にも帰らないつもりで、
学校の物置部屋にこっそり忍び込んで、バスチアンは本を読み始めます。
「はてしない物語」というその本を・・・。


この文庫は上・下の2巻。
「上」が、バスチアンが本の中に描かれたファンタージエンの国に入り込んでゆくまでのストーリー。
作中ではアトレーユという少年が勇気を持って冒険の旅に出ます。
彼の旅の目的はこのファンタージエンに人間の子を呼び込むこと。
そうでないとファンタージエンの世界は虚無に呑み込まれてなくなってしまうのです。
バスチアンは、自分こそが呼ばれていると感じるのですが、
でも一体どうやって・・・?


ということで、「下」巻。
今度はようやくファンタージエンにやってきたバスチアン自身の物語になります。
ところが、これが想像以上に苦しく辛い旅でした。
そこらのファンタジーなら、ものすごく強くて邪悪な敵が現れて、
困難を乗り越えながらも主人公が打ち勝っていきますね。
しかしこの物語の真の敵は、言ってみれば彼自身なのかもしれません。


本作はやはり「行きてかえりし物語」。
バスチアンはファンタージエンに行って、そして帰ってこなければならないのです。
けれども、バスチアンは「幼ごころの君」からもらったアウリンというメダルによって、
なんでも願いが叶うのですが、
願いが叶うごとに、なにか彼の記憶が失われていくのです。
ファンタージエンに行ってからの彼は、
ルックスも素敵になり素晴らしい力と勇気も得ました。
でも、本当は自分はでぶっちょのいじめられっ子だったことを始めとして、
家族のことや、しまいには自分が何者かさえも忘れてしまうのです。
そんな彼が元の世界へ帰りたくなるはずもなし・・・・。
良き友のアトレーユのことさえ信じられなくなる彼に、
苦い思いが湧き上がり、読んで行くのが辛くなるほどでした。


そんなバスチアンの旅の終盤に、彼は「アイゥオーラおばさま」に会います。
そこで彼はすっかり赤子のようになって、おばさまの母そのものの無償の愛を注ぎ受けます。
何をかもを失いかけた彼に注がれた愛で、彼の中の何かが蘇ります。
愛されることのなんと幸せなこと。
そして彼は思うのです「愛したい」と。
そのことがたったひとつの彼の希望となり、道がつながっていく・・・。


なんと崇高な物語なのでしょう。
最後にこちらの世界に戻ったバスチアンのことが力強い言葉で描写されています。

「生きる悦び、自分自身であることの悦び。
自分が誰か、自分の世界がどこなのか、
バスチアンには、今ふたたびわかった。
新な誕生だった。
今は、あるがままの自分でありたいと思った。
そう思えるのは何よりも素晴らしいことだった。
あらゆるあり方から一つを選ぶことができたとしても、
バスチアンはもう他のものになりたいとは思わなかっただろう。
今こそ、バスチアンにはわかった。
世の中には悦びのかたちは何千何万とあるけれども、
それはみな、結局のところたった一つ、
愛すことができるという悦びなのだと。
愛することと悦び、この二つは一つ、同じものなのだ。」


引用が長くなりましたが、
胸のつかえがおりて、
こちらまで幸せな気持ちになってしまうこの文章で締めくくらせていただきます。


新年の一番にこの作品をご紹介できて、幸せ

「はてしない物語 上・下」 ミヒャエル・エンデ 岩波少年文庫
満足度★★★★★



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