映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「楽園のカンヴァス」原田マハ 

2013年01月17日 | 本(その他)
著者の経歴を注ぎ込んだ力作

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原田マハさん作品は、私、今回が初めてです。
本作は2012年、様々な賞を受賞していますね。
デビュー作「カフーを待ちわびて」は、日本ラブストーリー大賞も受賞していますし・・・。
残念ながら映画の方も見ていないのですが、
新進気鋭、波に乗っているのは間違いない、と見ました。
さて今作もすぐに引き込まれてしまいます。


早川織絵は、大原美術館の監視員。
母と、どうにも気持ちの通わない高校生の娘と3人暮らし。
まあ、普通のオバサマと、思えたのですが・・・。
時は17年ほどさかのぼります。
彼女はヨーロッパで画家アンリ・ルソーの研究をしており、
ある収集家に招かれて、ルソー作と思われる絵画の真贋を判定して欲しいと依頼されます。
しかしその依頼を受けたのは彼女だけではなく、
もう一人、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のティム・ブラウンとその判定を競うことになります。
ルソーの「夢」と非常によく似たその作品は「夢をみた」と題され、
その出自も謎に満ちていますが、
更にもう一つ、衝撃的な秘密が隠されていた・・・!


ルソーの生きた当時、「遠近法も明暗法も知らない日曜画家」とバカにされ、
ついに不遇のまま終わったというその画家のことが、本作には詳しく書かれています。
絵画にはそう詳しくない私ですが、
この本のカバーに問題の「夢」の絵が配されているので、助かります。
確かに見たことはありますよね。
ついでにネットでも調べてみました。
不思議に魅力のある絵です。
鬱蒼としたジャングルに潜む猛獣たち。
笛を吹く黒人。
長椅子に横たわる裸婦。
彼女の指の指し示す方にはなにがあるのだろう。
この夢の続きはどんなだろう・・・。
いつしか自分もその密林に引きこまれ、その奥に隠されたものを探してしまいそうな・・・。
彼を認めた数少ない人物の一人が、かのピカソ。
当時彼を嘲笑したという作家たちは、
自分がどのようにしても書けない物を、安々とルソーが書いてしまうことに
焦りを感じていたのかも知れません。


作中にピカソの思いを表した部分として、こんな文章があります。

傑作というものは、すべてが相当な醜さを持って生まれてくる。
この醜さは、新しいことを新しい方法で表現するために、
創造者が戦った証なのだ。
美を突き放した醜さ、それこそが新しい芸術に許された「新しい美」。


ベル・エポックのパリの雰囲気満載ですね。
このルソーの絵画にまつわる薀蓄とミステリで、
非常に充実した読書時間を持ちました。
ちょっぴりロマンスもあり。
素敵です。


さて、そうしたところで改めて著者の略歴を眺めてみると・・・
文学部日本文学科卒業の後、
美術史学科まで出ていますね!
伊藤忠商事、森ビル美術館設立準備室、そしてニューヨーク近代美術館にいたこともあり、
ついにはフリーのキュレーター・・・!!
なんと圧倒される経歴の持ち主なのでしょう。
その上さらにまた、小説家に転身したとは!!
つまりはこれまでの彼女の来歴そのまま活用した作品とも言うべきもので、
まさに本領発揮。
いやそれにしても、いくつもの才能に恵まれた人というのはいるものなのですねえ・・・。

楽園のカンヴァス
原田 マハ
新潮社


「楽園のカンヴァス」原田マハ 新潮社

満足度★★★★★