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ここ数年来の全国的な沖縄ブームには目を見張るものがある。
芸能界を中心に沖縄芸能、食べ物、そして沖縄大和口(沖縄訛り)に至るまで今では全国区に成りつつある。
青雲の志を抱いて初めて大和の地を踏んだ半世紀程前に比べると正に隔世の感がある。
沖縄大和口で意思の伝達に苦労もしたが、食文化の違いによる珍談、奇談も数々聞いた。
そば屋に入って「ソバ」を注文して驚いた人がいた。
ネズミ色のソバらしきものががドス黒い醤油汁に浸っている。
沖縄そばなら普通に入っているカマボコ、三枚肉も無い。
もしかして宮古そばでは、と丼の底を穿り返しても愛しき三枚肉の姿を見ることは出来なかった。
因みに沖縄そばは麺にそば粉を含まずに「そば」を呼称出来る唯一のそば。
従って沖縄そばは黄色で一見ラーメンとうどんが合体したもののように見える。
ダシは作る人によって秘伝があるようだが、主に豚骨とカツオダシが使われている。
味付けは塩だけで普通は醤油は使わない。
蕎麦やうどんの汁とは違いが一目でわかる。
敢えて云えば塩ラーメンの汁に見た目は似ている。
麺の食感はうどんというより太目のラーメンといったほうが近い。
麺に添える具は沖縄カマボコと三枚肉が定番。
三枚肉は沖縄料理を代表する豚肉の甘辛煮で、間違っても三枚の牛肉のことではない。
◇ ◇ ◇
O君は何事にも探究心の強い男で、路地の店にぶら下がっている赤提灯が気になってしょうがなかった。
居酒屋には違いないが若いオノボリサンのO君には入るのには勇気が必要だった。
それに今とは違って居酒屋を若者が占拠するのが似合う時代ではなかった。
当時の居酒屋は仕事帰りの中年オジサンが昼間の生活の「憂さを捨てる場所」といった暗い雰囲気があった。
昨今のように若者集団がジョッキでイッキ、イッキといった陽気な場所では無かった。
アルコールはビールと言うより清酒、そして勿論2級酒が似合った。
その2級酒という言葉さえ今では死語になってしまった。
O君が気になっている店は居酒屋の中でも、より「大衆的」な店だったようだ。
時々出入りする客を見るとタオルを頭に巻いたオヤジさんや地下足袋のお兄さん達が主だった。
懐のあったかい或る日の夕暮れ、O君は一大決心の末、初めてその赤提灯の暖簾をくぐった。
≪ヤマトゥーになめられたらいかん≫
≪たかが、安酒場じゃないか≫
≪俺は泡盛で鍛えている、ヤマトゥーには負けんぞ≫
O君は気負いで肩に力が入ったままカウンターに陣取った。
「お飲み物は何にしますか。」
店主の声をぐっと飲み込んだ。
≪ここでビールなんか注文したら舐められる≫
「焼酎をくれ!」
店の壁には品書きがずらっと張り巡らしてある。
夕食前で腹が減っていた。
何かツマミでも取らなければすきっ腹に焼酎では直ぐ酔ってしまう。
品書を見ても何を注文したらよいのか分からなかった。
隣の客はコップ酒を飲みながら★ナカミをどす黒く煮込んだようなモノを肴にしている。
意を決してその客が食べている肴は何かと店主に問うと、
「この店の自慢の、ニコミだよ。 安いよ!」と足元を見すかされるように「安いよ」に力が入ったように聞こえたのは僻(ひが)みのせいだったのか。
ナカミはやはり汁が透明に澄む程洗いこんだものでなければ食えたモンじゃない。
あんなどす黒いドロドロに煮詰まったナカミ―なんかごめんだ。
そうだ、先に食事をしよう。
こんな時はお茶漬が無難だ。
飲酒のシメにお茶漬けを好むヤマトゥーの食文化には無縁なO君。
壁に並んだ品書きを仰ぎ見た。
海苔茶漬け、梅茶漬け、・・・・・・・・・・!!
次の品書きを見てO君は全身が固まってしまった。
サ・サケ茶漬け、酒茶漬け!!
O君は焼酎をほとんど残したままその店を後にした。
≪やっぱり、ヤマトゥーには負ける。≫
≪いくら泡盛で鍛えてはいても、・・・・・・・・・・≫
≪酒で茶漬けは出来ない≫
その昔、アメリカ人にとって日本料理といえばスキヤキとテンプラに限られていた。
刺身や寿司を勧めると眉をひそめられた。
それが今では刺身と寿司を食するのはステータス・シンボルにさえなっている。
その頃ゴーヤ―やアシティビチ(豚足)を大和人に奨めたら同じように眉をひそめられたであろう。
それが今ではゴーヤ―はビタミン豊富で健康に良く、アシティビチはコラーゲン豊富で美容に良いと、これらを食するのは今では芸能人たちの「食通」のシンボルとさえなっている。
復帰直後初めて沖縄を訪れた客は先ず琉球料理の店を探した。
その頃琉球料理と言えば、料亭で代表される伝統料理が主だった。
ゴーヤーチャンプルーとかトーフチャンプルのような沖縄の庶民料理は「琉球料理」の範疇には入れてもらえなかった。
或る時腹を空かした沖縄初体験の客と食事をする事になった。
その男、全国各地を出張で廻るのが仕事で、その土地の郷土料理を食べるのが楽しみだといった。
当然のように琉球料理を所望した。
気を使って琉球料理は特殊なので、口に合わないのではないかと縷縷(るる)説明した。
が、件の男、好き嫌いは無く何でも食べるという。
それで某料亭に案内した。
結局、一人前5000円(当時の物価から言えば15000円~20000円)ほどの琉球料理をほとんど残したまま其処を出た。
男の好き嫌い無しも「琉球料理」には勝てなかったようだ。
そして、その男、平然と言ってくれた。
「サー、口直しに寿司でも食いに行きましょう」
念のために付け加えると、その時の勘定は全てその男の奢りだったのがせめてもの救いであった。
★蛇足:「ナカミ」→豚の臓物(中身)を使った料理。 「ナカミ汁」と「ナカミイリチ」がある。
「ナカミ汁」は水を何度も替えて下洗いしたナカミを椎茸等と一緒に澄まし汁にしたもの。
「ナカミイリチ」はナカミの油炒め。 強めに炒めると外側がカリカリして泡盛やビールのツマミに最適。
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