図形の科学としての平面幾何の論理と現代数学の論理 ユークリッドとヒルベルト 第6回
第2章 数学としての平面幾何 (その1)
平面幾何で最も重要な文献は、ユークリッドの「原論」と、ヒルベルトの「幾何学の基礎」です。原論は紀元前3世紀ギリシャの数学者ユークリッドが著したもので、公理的に構成されたろんしょう数学の体系をまとめた。原論は平面幾何の他、数論と立体幾何を圧あっているが、その平面幾何の公理的構成は見事で、その後2千年以上にわたって学問の典型とされてきました。原論は日本語訳が中村幸四郎訳で共立出版から1971年に刊行されている。576頁で6000円でとても読み切れないと思われる。もっと洗練された展開は本書でなされている。つぎにヒルベルト「幾何学の基礎論」は中村幸四郎訳でちくま学芸文庫から2005年に刊行された。この本は私は読んでみて、途中で挫折した経験を持っている。再度チャレンジしてまた別の機会に読書ノートを作ってみよう。19世紀に入ってから数学の批判的精神の発達に伴って、原論の平面幾何の公理的要素の不備が指摘されてきた。1899年ヒルベルトは「幾何学の基礎論」において、平面および立体幾何の論理的に完全な公理的構成を考えた。ヒルベルトはユークリッド幾何学の全公理を、結合・順序・合同・平行・連続の5種の公理群にまとめ、相互の無矛盾性・独立性を完全に証明したといわれ、数学全般の公理化への出発点となった。ヒルベルトの「幾何学の基礎」の序はカントの純粋理性批判の引用で始まり、ドイツ観念論哲学の伝統を引き継いだ形で数学を考えてゆこうとするものである。「幾何学の論理的構成は、少数の簡単な基本命題(公理)のみから始まる。ユークリッド以来、幾何学の公理を設定しその相互関係が論究されてきた。この問題は我々の空間的直観を論理的に解析することに他ならない。以下の研究は、幾何学に対し完全な、できる限り簡潔な公理系を設け、種々の公理系の意義と各個の公理から導かれる結論の限界とを明確にしようとする一つの試みである」と実に簡潔な「序」を述べている。「幾何学の基礎論」は付録論文を除くと180頁ほどの本であり、短いから読みやすいと思ったらけがをする。途中で挫折するのが落ちである。ではヒルベルト「幾何学の基礎」の構成を目次に従い述べると以下である。定理集を公理の帰結という。
第1章 五つの公理群:
Ⅰ結合の公理(A,Bを結合する直線は1本だけある)
Ⅱ順序の公理(直線状の3点のうち一つは間にある)
Ⅲ合同の公理(線分の合同、三角形の合同)
Ⅳ平行の公理(交わらない2本の直線が存在する)
Ⅴ連続の公理(アルキメデスの公理 直線の長さの測定可能性、分割性)
第2章 公理の無矛盾性及び相互独立性
第3章 比例の理論
第4章 平面における面積の理論
第5章 デザルグの定理
第6章 パスカルの定理
第7章 幾何学的作図
付録論文 「数の概念について」、「公理論的思惟」、中村幸四郎氏による解説
(つづく)
第2章 数学としての平面幾何 (その1)
平面幾何で最も重要な文献は、ユークリッドの「原論」と、ヒルベルトの「幾何学の基礎」です。原論は紀元前3世紀ギリシャの数学者ユークリッドが著したもので、公理的に構成されたろんしょう数学の体系をまとめた。原論は平面幾何の他、数論と立体幾何を圧あっているが、その平面幾何の公理的構成は見事で、その後2千年以上にわたって学問の典型とされてきました。原論は日本語訳が中村幸四郎訳で共立出版から1971年に刊行されている。576頁で6000円でとても読み切れないと思われる。もっと洗練された展開は本書でなされている。つぎにヒルベルト「幾何学の基礎論」は中村幸四郎訳でちくま学芸文庫から2005年に刊行された。この本は私は読んでみて、途中で挫折した経験を持っている。再度チャレンジしてまた別の機会に読書ノートを作ってみよう。19世紀に入ってから数学の批判的精神の発達に伴って、原論の平面幾何の公理的要素の不備が指摘されてきた。1899年ヒルベルトは「幾何学の基礎論」において、平面および立体幾何の論理的に完全な公理的構成を考えた。ヒルベルトはユークリッド幾何学の全公理を、結合・順序・合同・平行・連続の5種の公理群にまとめ、相互の無矛盾性・独立性を完全に証明したといわれ、数学全般の公理化への出発点となった。ヒルベルトの「幾何学の基礎」の序はカントの純粋理性批判の引用で始まり、ドイツ観念論哲学の伝統を引き継いだ形で数学を考えてゆこうとするものである。「幾何学の論理的構成は、少数の簡単な基本命題(公理)のみから始まる。ユークリッド以来、幾何学の公理を設定しその相互関係が論究されてきた。この問題は我々の空間的直観を論理的に解析することに他ならない。以下の研究は、幾何学に対し完全な、できる限り簡潔な公理系を設け、種々の公理系の意義と各個の公理から導かれる結論の限界とを明確にしようとする一つの試みである」と実に簡潔な「序」を述べている。「幾何学の基礎論」は付録論文を除くと180頁ほどの本であり、短いから読みやすいと思ったらけがをする。途中で挫折するのが落ちである。ではヒルベルト「幾何学の基礎」の構成を目次に従い述べると以下である。定理集を公理の帰結という。
第1章 五つの公理群:
Ⅰ結合の公理(A,Bを結合する直線は1本だけある)
Ⅱ順序の公理(直線状の3点のうち一つは間にある)
Ⅲ合同の公理(線分の合同、三角形の合同)
Ⅳ平行の公理(交わらない2本の直線が存在する)
Ⅴ連続の公理(アルキメデスの公理 直線の長さの測定可能性、分割性)
第2章 公理の無矛盾性及び相互独立性
第3章 比例の理論
第4章 平面における面積の理論
第5章 デザルグの定理
第6章 パスカルの定理
第7章 幾何学的作図
付録論文 「数の概念について」、「公理論的思惟」、中村幸四郎氏による解説
(つづく)