ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

林 良祐著 「世界一のトイレ・ウォシュレット開発物語」 朝日新書

2012年08月30日 | 書評
新時代のトイレをリードするTOTOの開発史 第1回

温水洗浄便座
 ローテクの衛生陶器から、お尻洗い、脱臭、暖房などハイテク機能の数々で、電子機器制御の洗浄器一体型便器の機能満載製品に変身させ、常に業界のトップを走り続けているTOTOの開発思想とその歴史が語られる。もちろん成功物語である。日本の衛生陶器メーカーといえば、断トツ1位のTOTO(東洋製陶)と、それに肉薄するINAX(伊奈製陶)の2つの独占場の感がするが、それに温水洗浄器という分野でパナソニック(松下電工)ががんばっているという構図であろうか。衛生陶器(便器)のシェアーは日本においてTOTO、INAX(現・LIXIL)の2社による製造が大半を占め、ジャニス工業、アサヒ衛陶、ネポンなどがこれに続いている。そのなかでも最もシェアが高いのは約50%のシェアを持つTOTOであり、約25%を持つINAXがこれに続く。温水洗浄器のシェアー(2011年11月7日-13日 価格.comより)は、1位TOTO(ウォシュレット) 48.08% 、2 位パナソニック( ビューティ・トワレ)28.37% 、3位 東芝(サムスン製 クリーンウォッシュ) 11.72% 、4位 INAX(シャワートイレ) 9.60% 、5 位三洋電機(ki・re・i) 1.10% である。TOTOが1980年に温水洗浄器「ウォシュレット」を上市して30年が経過し、ウォシュレットの累積出荷台数は3000万台を超え、家庭での普及率は71%に達した。便器に多機能を満載し「至れり尽くせり」、「かゆいところに手が届く」製品は携帯電話の機能と同じく日本独特の製品開発姿勢である。口の悪い人はこれを「ガラパゴス的製品」(日本独特の進化)と呼ぶ。「たかがトイレ、されどトイレ」である。日本ならではの繊細な感性と徹底したものづくりの精神は誇るべきか、製品差別化のやりすぎというべきか。ひとつの製品をめぐって多数のメーカーが乱立し恐ろしいほどの価格低下と製品数の氾濫はたしかに日本独特である。たとえば板ガラスメーカにしても欧州では1社しかないのに、日本ではざっと5社はある。自家用自動車メーカも7社ある。したがって価格競争と製品開発は熾烈を極める。その中でトイレ分野でTOTOは常にトップを維持している。
(つづく)

読書ノート 鈴木宗徳 編 「リスク化する日本社会ーウイルリッヒ・ベックとの対話」 岩波書店

2012年08月30日 | 書評
グローバル化社会で生きる道  理論社会学の視点 第8回

2)第1部 「再帰的近代化の中の個人と社会」 (2)
 第2の論者である神戸大学国際文化学教授の三上剛史氏が、ベック理論の解題と問題提起を行なった。個人とはグローバルスタンダードやネオリベラリズムの浸透によって見え難くなり、均質化(等質化)され徹底した管理と誘導が進行したという。個人と社会は自明な存在であったが、第2の近代化過程で社会とはなんだったのかという問いがなされる。ここで三上氏はベック氏はギデンズと同じ「グローバル化に新たなチャンスを見出そうとする理論である」と規定した。産業社会学から新たな社会学を創造する意図であろう。ベック氏は第1の近代化を「方法論的ナショナリズム」と批判し、「コスモポリタン化」で場所に限定されない社会理論を再編成したいようだ。「境界線」の引きなおしに対応した理論である。これはEUを指導するドイツの立場を反映し、国家再編成の「脱埋め込み」と「再埋め込み」のプロセスをいっているようだ。ベックは社会と「個人」とは自立した閉じた存在と見ているが、個人は閉じているのか再編成可能で液状態な存在なのかを巡って、現在の個人概念は展開されている。ベックは個人は分割不能なIndividuumではなく、分割可能で多元的存在とみる「擬似主体」の立場をとる。三上氏はベックの個人と社会の関係論をデュルケーム・パーソンズの流れで捉える。ベックは「歴史上初めて個人が社会的生産の基本的単位になった。単に社会的構成要素ではない個人が生み出された」と讃美するが、三上氏は疑問を呈している。社会が個人を「包摂・内在化型」するというデュルケームに対して、ルーマンは「分離・接続型」の理論構成をとる。ベックは個人と社会の接着剤である「コスモポリタン」により「人間性の宗教」で架橋する「参加・編集型」と呼べるのかもしれないという。
(つづく)

筑波子 月次絶句集 「早 秋」

2012年08月30日 | 漢詩・自由詩
残暑猶長葉未疎     残暑猶を長く 葉未だ疎ならずも

朝冷便覚早秋初     朝冷便ち覚ゆ 早秋の初め

碧花籬落催荒菊     碧花の籬落に 荒菊催し
 
白露庭除有嫩蔬     白露の庭除に 嫩蔬有り


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(韻:六魚 七言絶句仄起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)