ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

読書ノート 荒畑寒村著 「寒村自伝」 岩波文庫

2012年08月04日 | 書評
老兵が語る、日本労働運動・社会主義革命運動の誤謬と失敗の歴史 第1回

序(1)
 荒畑寒村という名前を知る人も少なくなったのではないだろうか。荒畑 寒村(あらはた かんそん)は1887年(明治20年) - 1981年(昭和56年)という明治ー大正ー昭和の戦後まで生きた、日本の社会主義者・労働運動家・作家・小説家、戦後2期衆議院議員であった。なんとバブル期の1981年まで長寿を全うし94歳で死去された。オールドマルクスボーイといっていいのか、忘れられた社会主義運動の敗残兵といってよいのか、社会や思想に興味の無い人には説明のし様がないが、明治・大正時代の天皇制政府によって虐殺された幸徳秋水や大杉栄らと志を同じくした革命家であったといえば、大概の人は驚かれるに違いない。永井荷風著「断腸亭日乗」に、秋水逮捕の馬車をみて小説書きの荷風は無力を恥じたという。司馬遼太郎の「坂の上の雲」のえがく明治時代建設期の偉人伝などと違って、労働運動・社会主義運動の歴史は戦後までは抹殺され弾圧され暗いイメージを植えつけられた。私は寒村の著作では、足尾銅山鉱毒事件を世に知らしめるために田中正造翁から依頼されて書いたといわれる荒畑寒村著 「谷中村滅亡史」(岩波文庫 1999)を読んだだけである。これは寒村氏の処女作だそうだ。たしかに日本の社会主義運動は戦前までは徹底的に弾圧され、一般大衆から切り離された。明治政府の文明開化が翻訳文化だとすれば、幸徳秋水・大杉栄らの社会主義運動もまた翻訳文化であった。まずいことに彼らは権力を握っていなかったので、天皇制政府からは排斥されたのである。大隈重信や板垣退助らの民権運動は薩長藩閥政府に対する土佐・肥後藩士の分け前争奪戦であって、ともに権力側の分裂に過ぎない。日本の社会主義運動はロシアの革命運動や中国の共産革命と同じく専制政府に対する未熟な労働者階級の闘争であったが、ロシアではレーニンという革命の天才を生み、中国では毛沢東という農民運動の天才を生んだが、日本では惜しいかな革命運動の有能な士は生まれずにどんぐりの背比べて的な、現在の政争と同じレベルでの足の引っ張り合いと個人的な感情の分裂の上にあって、当局の弾圧のもとで運動は支離滅裂に分裂し自滅した。それが戦争後占領軍によって一時期民主化の便宜に利用されたに過ぎないのである。それが日本の社会主義革命運動であった。その支離滅裂の歴史が本書の荒畑寒村自伝である。
(つづく)

読書ノート 坂岡洋子著 「老前整理」 徳間書店

2012年08月04日 | 書評
元気なうちに不要な物をそぎ落とし、新しい生き方に備えよう 第3回 最終回

 著者が唱える老前整理の五原則とは、
①一度で片付けようとはしない、
②最初から完璧を目指さない、
③家族のものには手を出さない、
④片付けに収納用具は買わない、
⑤使えると使うはちがう、
ということです。要するに気長に楽しみながら使わないモノを減らしてゆきましょうということに尽きる。そして整理するものはモノだけでなく人間関係も必要です。退職した会社関係者や、何十年合っていない人への年賀状もそろそろ止めにしましょう。明るい老後はお付き合いの整理も必要です。子供の巣立ち時に子供部屋の整理のチャンスである。特に男性は片づけが下手であると著者はいう。たしかに重いもの大きいものの整理の男性の力が必要で、しかも力のあるうちにやらなければならない。人間関係、お付き合い、対話などコミュニケーションに関することは、これからの人生にとって最大の関心事である。だからこそ棚卸しが必要なのです。「もったいない」という言葉が今エコ分野で流行しています。大量消費時代にはなかった言葉です。すくない物を大事に使おうということであって、大量の物資は全部使い切れるものではない。だからもったいないという言葉の前に、いらないものは持たないということが必要となる。老後の家が「ごみ屋敷」にならないように。
(完)

筑波子 月次絶句集 「鞍 馬」

2012年08月04日 | 漢詩・自由詩
山城鞍馬絶塵埃     山城鞍馬 塵埃を絶し

翠蓋紅妝含露開     翠蓋紅妝 露を含んで開く

暁色青冥香世界     暁色青冥 香世界

恐秋風早月徘徊     秋風の早きを恐れ 月徘徊す


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(韻:十灰 七言絶句平起式  平音は○、仄音は●、韻は◎)
(平仄規則は2・4不同、2・6対、1・3・5不論、4字目孤平不許、下三連不許、同字相侵)