ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 柿崎明二著 「検証 安倍イズム」 胎動する新国家主義 (岩波新書 2015年10月)

2016年11月30日 | 書評
安倍流国家介入型政治(国家先導主義)は、戦前型政治体制へのノスタルジア その情緒的イメージ戦術に惑わされるな 第2回

序(その2)

「いま私たちは歴史的転換点に立っているが、その未来は厳しく難しいものであるかもしれない。」という書き出しで本書は始まる。プロフィールから著者の柿崎明二氏の思想信条を探るには難しいが、プロフィールだけは簡単に記しておこう。1961年秋田県生まれ、早稲田大学文学部卒業、毎日新聞社を経て、共同通信社に入社。政治部で首相官邸、外務省、厚生省および政党などを担当した。政治部次長を経て2011年より編集委員、2013年より論説委員を務めている。著書に「空白の宰相 チーム安倍が負った理想と現実」(共著 講談社)、「次の首相はこうして決まる」(講談社現代新書)がある。Kyodo Weekly 2014年5月12日によると共同通信社の柿崎明二論説委員は、「安倍晋三首相が祖父の岸信介元首相と同じ北一輝の影響下にある国家社会主義者と指摘した」とある。著者が安倍晋三の心情まで立ち入ってその政策と行動を裏付ける試みである本書が読者にどんな心証をあたえるか、若干心配なところがある。安倍に免罪符を与えることではないことは明白であるとしても、「気持ちはわかる」式の許容を与えてはいけないからだ。気持ちはどうあろうとも私たちには理解できない支配者の論理に一抹の同情は不要である。安倍の発言集から、支配者の論理に見え透いた文学的・情緒的粉飾を施したキャッチコピーの数々を示しておこう。
① 美しい国 日本 
② 美しい国へ 
③ 日本を取り戻す 
④ 瑞穂の国の資本主義(市場主義) 
⑤ 慎みを持った政府の関与 
⑥ 女性の活躍 
⑦ 戦後レジームからの脱却 
⑧ 最高責任者は私です(国会答弁で連呼した) 
⑨ 先の戦争が侵略かどうかは歴史家の判断にまつ 
⑩ 現行憲法は正常ではない。恥ずかしい状態である 
⑪ 国家が危機に瀕するとき、国民の皆様にも協力をしていただかなければならない 
⑫ 愛国心とは両親の対する愛に似ている 
⑬ アメリカのリベラルではない、開かれた保守主義が私の立場である 
⑭大切なものを守るためには、時には思い切って勇気をもって変えてゆく 
などである。安倍に文学趣味があるとは思えないが、チーム安倍のコピーライターが発案したものであろう。徹底した合理主義計画経済主義者の岸信介のおじいさんと違って、おじいちゃん子の孫の安倍はやたら情緒的な甘い言葉を好んで公的な場で発言する。三代目の気恥ずかしくて言えないような言葉のオブラートに騙されてはいけない。その言葉の裏には必ず支配者の論理が隠されている。「きれいごとには眉唾を」これが庶民の知恵である。
私は安倍政権の施策について、いろいろな本を読んできたが、中でも直接安倍イズムを総括する本を三冊を紹介したい。いずれも岩波新書です。
①中野晃一著 「右傾化する日本政治」(岩波新書 2015年7月)
②服部茂著 「アベノミクスの終焉」(岩波新書 2014年8月)
③豊下楢彦・古関彰一著「集団的自衛権と安全保障」(岩波新書 2014年7月)
です。本書の安倍政権の捉え方は他の著者と較べると、ずいぶん異なる。そこで本書に埋没する前に、いろいろな安倍政権評価を知っておくことは必要である。3冊の本の概要と主張を概観しておこう。

(つづく)