ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 日本科学技術ジャーナリスト会議 著 「4つの原発事故調を比較・検証する」 水曜社

2013年09月15日 | 書評
四つの事故調でもなお見えてこない無責任大国・日本の宿根ー権力の過ちは忘れさせ・繰り返されるー 第6回

Q5) 東電の全員撤退問題はあったのか、なぜはっきりしないのか
 3月14日深夜から15日未明にかけて東電の清水副社長から官邸の海江田経産相や枝野官房長官に度々電話があり、官邸はこれを「全員撤退・現場放棄」と受け取って大騒ぎとなった。菅首相は未明東電本社に乗り込み「撤退はありえない」と叱責したという。ところが後日になって東電は「全員撤退とはいっていない。必要な人員を残して一部退去させると伝えただけである」と主張し、官邸とは真っ向から対決する姿勢を示した。この問題は1対1の関係者がいるのだから藪の中のことではなく、陰謀か、どちらかの誤解か、嘘がある。東電事故調は一部撤退打診と主張し、国会事故調と政府事故調は「全員撤退」ととった官邸の誤解であるとする。民間事故調は清水社長が深夜に何回も官邸に電話すること事態異例であり、菅首相が東電本社に乗り込んで叱責した事を高く評価している。あるいは誤解を導き政府の責任に転嫁する東電のいつものやり方だ云う説もある。もし官邸の誤解ならば菅首相が東電に乗り込んだ際に、東電から誤解を解く弁明がなされれて当然なのだが、撤退はありえないとする菅首相の檄に対して東電清水社長は素直に「分かりました」と答えている。もうひとつのなぞは菅首相が東電本社に乗り込んだ場面の、東電のテレビ映像記録から音声が消えていることである。本書は一部撤退なら、それ以降の福島原発事故処理で水素爆発や2号機の危機的状況において、現場の判断で何度も福島第2原発への避難は行なってきたことで、官邸の了解は必要とはしない。朝日新聞の記事「プロメテウスの罠」において、伊藤哲郎内閣危機管理監と東電のやりとりが記録されている。伊藤氏の「第1原発から撤退するとしたら、原発はどうなるのか」という質問に足して、「1号機から6号機すべては放棄することになります」という東電の返答が記録されている。ということで本書は民間事故調の主張を是とし、他の事故調は官邸の誤解にする論調である。

Q6) なぜテレビ会議の映像に音声がないのか
 4つの事故調報告書が全く気がついていないのか、東電で記録された映像に音声が入っていない(消えている)時期がある事に関する記述がない。危機管理において情報共有が第1歩である。東電の現地対策本部と本店、官邸や原子力安全・保安院などの関係機関をテレビ会議で結ぶことがマニュアルでは想定されいたが、オフサイトセンターが機能せず、電話通信が不通となって、政府と現場との間の情報共有が疎外されそれが相互不信に繋がったと考えられる。ただ東電本店と事故現場はテレビ会議でつながれていた。この記録映像は2012年8月6日に約150時間分が公開された。そしてそれは11日午後6時27分から始まって翌12日の午後11時まで28時間30分の映像から音声が消えていた。そして前章でいったように菅首相が東電に乗り込んだ15日未明分の映像にも音声はなかった。東電の言い訳は「録音スイッチの入れ忘れ」というが、誰が信用できるだろうか。敦賀の増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故の映像隠しは国民の不信感を一気に高めたが、同じようなことが福島第1原発事故でもあったと見るべきではないか。「意図的に音声記録が消されたのではないか」という疑念は払拭できない。東電はプルトニウムMOX燃料のデーター捏造、原発事故隠しなどを繰り返してきた常習犯ではないか。あまりになまなましく、後手後手の泥縄式の対応をせざるを得なかった事故対応が後日の調査で破綻をきたさないように証拠隠滅を図ったというべきであろう。

(つづく)