ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 新倉朗子訳 「ペロー童話集」 岩波文庫

2013年05月07日 | 書評
フランスの民間伝承に材を得た教訓に満ちた口承童話集 第6回

第2部 「過ぎし日の物語ならびに教訓」
1) 眠れる森の美女


 この話はグリムの童話集にも伝承され、KHM 50 「いばら姫(野バラ姫)」という題で出ています。違うところは仙女の数がペローの話では7人、グリムの話では12人というどうでもいいことです。ペロー童話集では、王子が棘に囲まれた古城で眠り姫を目覚めさせて後、グリム童話にない王子様の父王と人食いの王妃の後日譚をつけています。王子が父の城に報告に帰りますと、王子は眠り姫との婚約の話を秘密にして、帰りが遅れた理由を適当な嘘でで報告します。父は信じますが妃(人食いの噂のある)は信じません。そのうえ後日何度も外泊をする息子にはきっと恋人がいるに違いないと信じ込みました。王子と眠り姫の間には二人の子供ができました。上の姫をオーロール(暁姫)といい、2番目の息子をジュール(日の子)となずけました。2年後に父の王がなくなって王子が君主となると王子は結婚を宣言しました。そして妻と子供を呼びました。それから王は戦争のため外国へ出ましたが、留守の間王大后は恐ろしい野望をいだき、王妃と皇子らを別荘へ連れて行き、料理長に子供オーロールを料理するように命じました。料理長は驚いて子羊を料理して誤魔化しました。次の日ジュールを食べたいと料理長に命じると、料理長は子山羊を料理して騙しました。次の日には王妃を食べたいと料理長に命じますと、料理長は雌鹿を料理して出しました。ところが皇子らが泣いている声を聞くと、役人に王妃らを捕え蛇などが入った大きな桶に投げ込むよう命じました。投げ込もうとした寸前に王が帰還し、事の成り行きを正そうとしたや、人食い王大后は大桶に飛び込み、蛇の餌食となりました。グリムの童話の方が残虐な話に満ちていますが、この眠り姫の話にかぎってペロー童話集の方がよけいな残虐話を掲載しています。前半で終っておけばハッピーエンドでメルヘンなのに、本質的でない後日譚を挿入するのはなぜだろうか。
(つづく)

読書ノート 山岡淳一郎著 「原発と権力ー戦後から辿る支配者の系譜」 ちくま新書

2013年05月07日 | 書評
原発というシナリオに群がった人々 第11回 最終回

4)権力の魔の轍「核燃料リサイクル」-中曽根康弘と六ヵ所村プルトニウム基地 (4)
 1998年動燃の東海再処理工場で爆発火災が発生し、1999年9月東海のJOCで高速増殖炉「常陽」の燃料処理中に臨界事故が発生した。いい加減な作業マニュアルの横行が原因であった。これらの事故で科技庁の権威は失われ、2001年には文部省に統合され、原子力安全委員会は内閣府へ、原子力安全・保安院は経産省資源エネルギー庁に組みこまれ、事実上の科技庁解体となった。科技庁解体後、原子力行政の実権は電力・経産連合へ移った。その電力・経産連合も2002年GE社の自主点検結果の虚偽報告が発覚し、権力の腐敗の進行はやむところを知らなかった。相次ぐ事故と不祥事で原子力ムラが揺れる90年代末から21世紀初め、経産省内で電力自由化をめぐる電力派と自由化派の争いが発生した。これは欧州統合に向け国境を越えた電力取り引き市場の創設を眼の前にした経産省改革派が電力自由化を唱えたからで、従前の原発路線で潤っていた電力会社と資源エネルギー庁の守旧派の主導権の争いの図式で見ることが出来、原子力安全・保安院の情報隠蔽のリーク情報源は自由派官僚からであったと見られている。自由派の頭領は元事務次官の村田成二氏だった。小泉政権の規制改革に乗って、自由派の発送電分離方式まで議論が進むかどうかが注目されたが、アメリカの電力自由化のシンボルエンロン社の粉飾決算により逆風が吹き、東電の南社長は「責任ある発送電一環システムが日本において役割を果たしている」と分離方式を拒絶した。その直後から東電のトラブル隠しが露呈するのである。村田事務次官は東電の荒木浩会長、南社長、平岩外四を解任し責任を取ったとされるが、自民党の甘利明経産大臣、元東電副社長の加納時男らが巻き返しを図り、経産省の電力会社派が勝利し、結局国策は改められなかった。世界が見捨てた技術である高速増殖炉と核燃料サイクルという魔の轍からの脱却は、核武装潜在力を放棄することであり、核燃料サイクル堅持の国策には権力者の欲望が横たわっている。
(完)