境内で開かれてきた、この「椿組」の大テント・野外公演。
今年も、7月13日から23日まで、毎夜19時開演で行われている(写真・左上)。ちなみに、木戸銭4000円。
演目は、9年前に初演した「20世紀少年少女唱歌集」。
映画「月はどっちに出ている」の脚本で、一気に知られるようになった鄭義信(ちょん・ういしん)のオリジナル脚本だ。
近年では、シンガー・ソングライター 松山千春の「旅立ち」を映画化にあたって、見事に脚色・脚本化。感動的なものに仕上げる一方、自ら演劇の演出をも手掛けるなど、幅を広げている。
この舞台は、戦後日本の国有地に住みついて生活しているあばら家の一帯。北朝鮮から豊かな新天地を求めてきたはずのその人達の何人かが、また”向こう”に帰国しようとする。
しかし、それには、ウラがあった。
そんな、幻の夢を見ようとする人間たちが織りなす喜怒哀楽に満ちた群像劇が、これだ。全30名。 出演者、とりわけ少年や少女たちに扮する役者たちが歌う昭和歌謡は、あの時代を鮮やかに浮かび上がらせる。
そこに、それから数十年後の、いまどき珍しいミシンの訪問販売員2人の「今」が、絡む。
鄭そのものが、在日でもあり、複雑な感情もにじませた、よく練り上げられた脚本だ。
そして、物語の鍵を握る、少年ミドリ役を演じているのが、青木恵(けい)。50人余りのオーディション参加者の中から選ばれた女優だ。(写真・左下)
彼女は、現在「文学座付属研究所」の、研究生。そして、演出は、同じ文学座の松本祐子。しかし、松本は、いまや超売れっ子。いろんな劇団での演出を次々とこなしている。「オーディションに応募した動機ですか? 松本さんの演出を受けたかったからなんです」
オーディションに合格後、バッサリと髪を切った。それが、今の髪型。役は、少年ミドリ。ちなみに、髪を切る前の顔は、「椿組」の、この公演を検索してみると、出てきます。違う印象に、驚くはず。
「今? 21歳です。高校時代から演劇部に入ってました」
この舞台では、歌うだけじゃない。昭和にいた、いつも外で遊び回る、走り回る元気いっぱいの少年になり切らなきゃいけない。
そして、見事になり切っていた。全く、違和感なく。演技、セリフ回しも自然。実は、これが一番難しいことなのだが、難なくこなし切っている。上手い!
「ちょっと低酸素状態になっちゃって」と、明るい表情のまま笑う。キツイ日もあったが、なんとか乗り切っている。この芝居は、体力勝負でもある。
「将来ですか? 舞台女優をやっていきたいです」と、きっぱり。
この人、清楚、清潔感溢れる印象。この先、役柄に応じて、何色でも染まっていけそうだ。無限の伸びしろを感じさせる。
この青木恵という名前を、頭の片隅にちょいとだけ記憶しておいてほしい。
次に、椿組のいわば看板女優として、以前から一目置いていた、井上カオリに今回、初めて話しが、聴けた。
写真は、撮っていないので、やはり検索すると見られます。ねっ、いいオンナでしょう? 修正なし。すっぴんも、まんまの妖艶さ。
9年前の初演時は、石田えりが演じたと、自らのブログで、その石田と一緒に撮った写真とともに明かしている。
少し足が不自由な、道ならぬ切ない恋に溺れる女を、演じている。
「実は、稽古中にホントに足をケガしちゃつて(笑い)」
じゃ、足を気持ち引きずってて(笑い)
そうそう。先に「道ならぬ」と書いたが、そのやるせない、騙されていると知りつつも身をまかすオンナの性(さが)と、揺れる心を、さりげない目線ひとつで演じ分けているのに、客席で思わず絶句!
ホントに、時にうなってしまうほど、上手い!
それも、なに演らしてもだから、まいってしまう。
一見、色っぽいので、役柄が限定してしまいそうだが、この人の揺れ幅は大きく、硬軟なんでも違和感なくこなしきる。
なんで、テレビ、映画界は、こんな上手い女優を見いださないんだろう? と、時に信じられぬ思いにかられる。
いくつか出てはいるが、まだ広く知られるに至っていない。それが口惜しい。
違うタイプで、伊東由美子がいる。以前、彼女が所属する「劇団 離風霊船(りぶれせん)」の公演を見続けて、その演技の巧みさを痛感してほしくて、書いたことがある。
彼女も初演に、乞われて同じ役で出ていた。役は、先に書いたミシンの訪問販売員。そして、実は彼女は・・・・・・・
その秘めた事実は、この芝居を見れば分かる。
この芝居では、共演者でさえぶっ飛ぶ、得意のアドリブこそ出さないものの、舞台に出てきただけで、ワクワクさせる、伊東由美子。
もはや”演劇界の古今亭志ん生”と言ってもいい。酒や打ち上げの席では、キリリとタオルを鉢巻き代わりに頭に巻いて、あぐらをかく。サマになっているから、おかしい。
一見、オンナおやじ。その飾らないキャラクターも手伝い、ものすごい顔の幅広さ。
この芝居のあと、新作を書きつつ、9月に客演。そして11月15日から11日間、離風霊船の公演を中野で行なう。
「なんだかねえ、忙しくなってしまうことが分かっているのに、頼まれると、どんどんスケジュール入れてしまってさあ」
「今回のギャラ? わかんない。聞いてないもん」
なんだか、楽しそうに、ひょいひょいと、こなす。
演らしてみたいのは、市原悦子が演じて当たり役となった「家政婦は見た」の伊東版。
演劇業界の知人・友人がいたら聞いてごらん?
「伊東由美子さんで、いける?」
おそらく、その「絵」を頭に浮かべて、ニヤッ。そうしてこう言うだろうさ。
「市原さんより、面白くなるんじゃない? 笑えるし。かなり、いけるだろうね」
なにしろ、伊東。市原と違い、家事、洗濯、掃除、出来ますもん。ちょいと、色っぽいし。
本当に実力のある「女優」だけが、テレビドラマの主役をはって欲しいなあ。
製作の裏側を長年知っているから、本気でそう想う。
「女優」とは、名ばかり。「優しい」「女」は、少ないうえに、性格ブスが、多すぎますもん。ホントっすよ~
楽日まで、もう少し。それにしても、観劇した夜の豪雨の前の、雷と雷鳴!
効果音と、演出照明と思っていた。そのくらい、物語の流れにピッタリとはまっていた。だから、観劇はやめられない。だから、ナマモノは感激する。
うまい、ほんまもんの演技と一緒に、たっぷり2時間40分、味わえます