日本では無名?な存在ですが、 著者のアジャン・ブラムは海外では仏教法話では有名で、著書は英語、ドイツ語、タイ語などで出版されています。今年7月には日本で2冊同時に刊行されました。そのうちの1冊は108の法話がまとめられています。彼のタイの森(タイの森林地帯で活動している宗派)の仏教の古くからのお話や実話まで気づきの多く、生きる糧を与えてくれます。
本書では私は3点に注目したい。まず、最初の小話「2枚の不揃いなレンガ」では、寺の建築も僧侶が司るわけですが、壁を施工したところ、2枚だけ不揃いなレンガを見い出してしまった。レンガを組んだ本人はこの2枚に執着しやり直しを希望するが、壁の機能としては問題はなく、2枚への執着を手放すと問題は残りません。全体か部分か、どちらに視線を投げかけるかで幸せへの道が開けます。
「賢い人は(中略)あるがままの姿を受け入れ、欠点や改善点に考えを」及ぼすことなく、罪悪感を感じることもなく過ごす。」
次に、人間は恐れや怒りを抱き、幸せに生きていけないと感じています。恐れは「未来のうまくいかないことに目を向けること」であり、怒りは「何かがうまくいかなかった」ために起こる感情です。「思い通りにしたいという思いを捨て、今その時に意識を集中し、未来の不確定をうけいれることで、我々は恐れの牢獄から解放される」し、怒りに対しては、180度視点を変えて、怒る対象に対して「許し」を敢えて与えることが大切であると説きます。31番目の「怒りを食べる化け物の話」はしみじみと胸に突き刺さります。
最後は、2つの自由について。自由には「欲求する自由」と「欲求から解放される自由」がありますが、幸福に生きていくためには、「自分の今に満足する」充足感を醸成する心を磨いていかなければなりません。欲求は達成すると、さらなる欲求が現れますが、それと同時に恐れや怒りも訪れます。「吾唯足るを知る」という言葉の通り、いまここを考えることを習慣化しなければなりません。
マインドフルになるには瞑想や座禅などだけではなく、愉しい法話を読むことでも優れた気付きを持てる人になるでしょう。
『マインドフルな毎日へと導く108つの小話』(アジャン・ブラム著、浜村 武訳、北大路書房、本体価格1,800円)