細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『華麗なるギャツビー』の混沌とした映像バラエティ。

2013年05月30日 | Weblog

●5月29日(水)13−00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>
M−065『華麗なるギャツビー』The Great Gatsby (2013) warner brothers / village roadshow pictures
監督/バズ・ラーマン 主演/レオナルド・ディカプリオ <142分> 配給/ワーナー・ブラザース ★★★
案の上、これは「ロミオとジュリエット」や「ムーラン・ルージュ」のバズ・ラーマン・ワールド。
たしかにF・スコット・フィッツジェラルドの原作をそのままに、1920年代のニューヨークの狂騒ぶりを描いている。
しかし、あきらかにこれはノスタルジーではなく、当時のモノクロ写真を、最新のiPodで人工着色して、大袈裟に見せた作品。
3度目の映画化だが、最初のアラン・ラッド主演のギャング映画はともかく、1974年のレッドフォード版が印象にある。
でも40年前の傑作を知っているのは、気がつけば、ほんの少しの高齢者、ということになる。だって、もう40年。
おそらく、当のディカプリオくんだって、あのレッドフォードのギャツビーをスクリーンでは見ていないだろう。
という訳で、これはもう今のCG処理でカラフルに、ど派手にブローアップした、パーティ・ムービーの印象。
いい悪いは趣味の問題。派手なセットにエキストラを総動員してオーストラリアで撮影された、冒頭のパーティシーンは圧巻だ。
花火にガーシュイン。といえばウディ・アレンの「マンハッタン」となるが、ここでは、ホワイト・ラップのクラブミュージック。
ま、いまの若い人には、この混沌とした時代感覚無視の趣味性のコラージュも、ファッションとしては面白いかも。
でも、もしフィッツジェラルドが見たら、きっと苦笑するだろう。
というのも、かの原作にある人間の哀しみと悔恨の苦味が、ここにはなく、ラストでギャツビーの老父も出て来ない。
だいいちに、一番の悪女、デイジーが、まったく悪意の本性が描かれていないのは、どういう具合なのか。
おそらく、村上春樹さんも唖然とするだろう。これは悪いジョークだと笑うしかないだろう。

■大きなライト線のファールフライだが、ライトがキャッチ
●6月14日より、丸の内ピカデリーほかでロードショー


●『マーヴェリックス/波に魅せられた男たち』の怒濤の果て。

2013年05月29日 | Weblog

●5月28日(火)13−00 目黒<ウォルト・ディズニー試写室>
M−064『マーヴェリックス/波に魅せられた男たち』Chasing Mavericks (2013) Buena Vista / Twentieth Century Fox Walden Media
監督/カーティス・ハンソン+マイケル・アプテッド 主演/ジェラルド・バトラー <116分>配給/W・ディズニー・スタジオ ★★★☆☆
個人的にサーフィンはやらないが、海を見るのは大好きだ。
これもあの「ビッグ・ウェンズデー」の若者たちと同じように、大波にサーフィンで挑む男の友情を描いた作品。
スポーツではあるが、得点もないし、勝ち負けもなく、高額なギャラもなく、観衆も少ない。
それでも生活を投げ出しても波に挑む男たち。これって、本当は何なんだろう。
実話の映画化だというが、さすがは「L・A・コンフィデンシャル」の名匠だけに、そこに人間性の輝きを見いだそうとする。
監督としては、あのラッパーのエミネムを追いかけた「8mile」のタッチに似ていて、ドラマはさすがに飽きさせない。
カリフォルニアのサンタクルスは、サーファーのメッカだが、そこには全米の強者が集まって来る。
というのも、岬の先の波の合流ポイントには「マーヴェリックス」と呼ばれる、10メートルを超える波がやってくる。
それは気象条件によってポイントを変えるが、ジェラルドのように中年にもなると、その匂いを嗅ぎ分ける。
15歳のジェイも、そのマーヴェリックスに見せられた少年だが、ジェラルドにサーフィンの極意を教えてもらう。
まさに「胸に輝く星」のシェリフ、ヘンリー・フォンダから、ガンプレイを教わるアンソニー・パーキンスの構図だ。
お互いの家族の問題を抱えながらも、次第に強い友情に進化していく感情のプロセスが熱く描かれて行く。
CGエフェクトなしに、その大波に迫る勇壮な飛行撮影と、とにかくドルビー・サラウンドが素晴らしい。
サーファーにはたまらない魅力の映像と音響だし、友情ドラマとしても、かなり熱い。という季節限定かな。

■強引に引っ張った打球がレフトのグラブを弾いてヒット。
●6月15日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー


●『クロワッサンで朝食を』の質素で焼きたてのいい香り。

2013年05月26日 | Weblog

●5月24日(金)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−063『クロワッサンで朝食を』Une Estonienne a Paris (2012) T S production et amarion presents
監督/イルマル・ラーグ 主演/ジャンヌ・モロー <95分>配給/セテラ・インターナショナル ★★★☆☆
どこか「最強のふたり」の女性版を匂わせる、非常に洗練された逆境の人情ドラマだ。
政治的にも窮屈なエストニアに住む家政婦は、新しい生活を求めてパリの富豪老齢未亡人の世話をする住み込み小間使いとしてやってくる。
これは、エストニア出身の監督が知っている実話の映画化だというが、実に質素で誠実なタッチが心地いい。
85歳の高齢になるジャンヌ・モローは、そのままの存在感で、フォーリナーの出稼ぎ家政婦を蔑視して困らせる。
わがままな未亡人はかなり偏屈気ままで、朝食のクロワッサンは、ちゃんとパン屋の焼きたてでないと口にしない。
終日、広いアパルトマントの大きなベッドか、近所のブティックを散策する。このパリの何気ないスケッチが久しぶりに味がある。
老嬢には中年になる年下の元カレがいて、近所にカフェの経営を任せて、身辺の経済的なサポートは任せている。
ま、実に理想的な老後のシンプルな生活だが、家政婦には、ことごとく口煩い。
どうしても馴染めない家政婦は、とうとうキレてしまい、パリを断念して帰国を考えるが、そこでジャンヌはやさしく注文を出してめでたく解決。
実に繊細で、ささやかな感動を秘めた、久しぶりに心に沁みるヒューマンな佳作であった。
ああ、それにしても「現金に手を出すな」や「エヴァの匂い」があったから、好適役ジャンヌ・モローの存在感が光る。
往年の、よきフランス映画の風格が甦った瞬間だ。


■軽いスイングでセカンド塁上を抜けるクリーンヒット
●8月、シネスイッチ銀座でロードショー


●『オブリビオン』の視界不良な未来ファンタジー。

2013年05月24日 | Weblog

●5月23日(木)13−00 半蔵門<東宝東和試写室>
M−062『オブリビオン』Oblivion (2013) universal International
監督/ジョセフ・コシンスキー 主演/トム・クルーズ <124分> 配給/東宝東和 ★★★☆
「トロン・レガシー」の監督の新作なので、まさに夢想空間の時空を超えた不思議ムービーだ。
ま、ゲーム感覚の発達した人々には格好のスペース・ファンタジーだろうが、アナログ人間には、さっぱりワカラナイ。
それもその筈、タイトルの意味が「忘却」なのだ。ああ、「君の名は」、というか、「心の旅路」未来篇。かな。
トムは、2077年、エイリアンとの宇宙戦争の末に壊滅した瓦礫都市の監視官。
5年以上前の記憶はなく、どうやらクローン人間らしく、当局のコントロール下にある。
マンハッタンの廃墟をパトロール中に、球状の攻撃機と戦ったり、自分のそっくりなクローンと闘い「俺、俺」状態。
発見したカプセル仮死状態の美女とは、どうも以前にエンパイアーステイト・ビルで会ったような記憶が甦る。
さっぱりワカラナイままに、ストーリーはパソコンゲームのように、多くの飛行物体とのバトルが展開。
そういえば50歳をすぎたトム・クルーズも、まさにクローンのような若作りの表情で頑張る。
要するに、あのタルコフスキーの「惑星ソラリス」の地球への愛を、逆のアングルで見てみようとしたファンタジーなのだ。
だから「忘却/オブリビオン」の深層を解明しようなんてナンセンスなことは考えても無駄なのだ。

美しい自然に囲まれた家族の家に戻るのは、まさに「心の旅路」への幻想なのか。
どうやら試写室で中途で眠ってしまったらしく、こちらの知能もオブリビオンであった。

■フォアボールで出たものの、ぼんやりしていて牽制アウト。
●5月31日より、日劇などでロードショー


●『トゥ・ザ・ワンダー』のハートに沁み入るテレンス・マジック。

2013年05月22日 | Weblog

●5月21日(火)13−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−061『トゥ・ザ・ワンダー』To the Wonder (2012) redbud pictures
監督/テレンス・マリック 主演/ベン・アフレック <112分> 配給/ロングライド ★★★★
またしても、映像散文家のテレンスが「ツリー・オブ・ライフ」のように、人生観、とくに恋愛論を淡々と描く。
ちょっとクロード・ルルーシュの「男と女」のような流動的な映像でモンサン・ミッシェルの潮の満ち干を舞うように見せる。
作家志望だというベンとパリから来たオルガ・キュリレンコは、この旅先で恋に落ちた。列車のなかのラブシーンが流麗だ。
彼女はシングルマザーで、連れの少女がいる。
その後、3人は、ベンが環境資質の調査をしているので、オクラホマの草原地帯の新興住宅に転居するが、溝ができる。
娘が不毛の環境を嫌い、パリに戻り、オルガの心も動揺して、愛は崩れ出すのだ。
揺れる心の問題を、教会の神父ハビエル・バルデムに相談するが、神も人間の自我には無力。
そしてベンには幼なじみのレイチェル・マクアダムスとつき合うようになる。
あまり会話がないので、彼らの心の動きと溝は、見ていて映像の心象風景で察するしかないが、これがテレンス・マジック。
前作同様に、ごく日常的に見える自然の風景に、心の空間を織り合わせて行くタペストリーなのだ。
遥かなる夕陽、遠いジェット機の迂回する雲、広い庭に揺れる木々の陰、ドアに佇むひと・・・・。
まさに映像による現代詩のコラージュが、流れるように映し出されるのだ。
日々の些細なワンダー(発見)がいっぱいに連なると「ワンダフル」となるのさ。と映画は諭しているようだ。
これは、とりとめのない人生の瞬間をスクラップして見せる映像の詩集であって、既存の娯楽性には距離をおいた傑作だ。

★同期の朋友、池田守男君(前資生堂社長)の急逝を知り、ショックでスケジュールを変更して、「心」の整理をした。
生前の旧友としての数々の厚情に、ご冥福を祈りつつ、心から感謝の気持ちをお送りしたい。どうもありがとう。

■ふらりと上がったレフトフライだが、意外に伸びてスタンドイン。
●8月以降、TOHOシネマズシャンテなどでロードショー


●『言の葉の庭』雨の午前、新宿御苑の不思議な時間。

2013年05月20日 | Weblog

●5月17日(金)13−00 日比谷<東宝本社11F試写室>
M−060『言の葉の庭』Kotonoha no Niwa (2013) toho animation / comic wave film
原作/脚本/監督/新海 誠 キャラクター・デザイン/土屋堅一 <46分> 配給/東宝映像 ★★★☆☆
最新のデジタル手法で描く古典「万葉集」の中の<孤悲>。
キメの細かな自然の佇まいを、実にシャープでデリケートな映像で描いた不思議な中編ドラマ。
雨が音もなく降り注ぐ東京の街。いつも見ている駅やコンコース。舞台は新宿御苑の日本庭園にある東屋。
雨で学校をサボって御苑に来たタカオは、雨宿りして昼前から缶ビールを飲んでいるひとりの女性と会う。
沈黙の雨音。少年は靴のデザインを勉強している。女性は謎めいた溜め息。
アニメーションのデジタル手法だが、天変地異も、強力なヒーローも、ロボットもコミック・キャラの動物もいない。ただの普通の情景だ。
これなら、普通の実写で質素な人物ドラマにすればいいのに・・・と思うが、雨の雫や、かすかな蒸気や、新緑の葉の微妙な色彩は表現できまい。
という風に、この映画の視覚は、普段の周囲の風景に、詩人のようなデリカシーで、その「呼吸」を撮ろうとする。
無口なふたりは、なぜか雨の日の午前中に、そこで会う。恋ではないが、お互いに寂しい心を、無言に語ろうとする。
自然の雨や風の音で、大都会の孤独を見せようとしたのか、ただただ執拗に、その邂逅を繰り返す。
たったの46分だが、濃密な凝視によるデジタル映像であり、あまりにも淡白なドラマだ。
しかし、これは数多くのアニメの中にあって、やはりユニークで孤高な風格はある。一種の映像詩集なのだ。
高度なデジタル技法を駆使した、実にアナログ感覚の小品として、外国では評価が高いだろう。
ラストで「新宿御苑でのアルコール類の飲酒は禁止されています」のスーパーは笑えた。

■意表をついたドラック・バントを慌てたサードがファンブル。
●5月31日より、東宝系でロードショー


●『ペーパーボーイ/真夏の引力』で異様な臭気を放つスワンプ・ノワール。

2013年05月18日 | Weblog

●5月16日(木)13−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−059『ペーパーボーイ/真夏の引力』The Paper boy (2012) millennium film / a nu image
監督/リー・ダニエルズ 主演/ザック・エフロン <107分> 配給/日活 ★★★☆☆☆
久しぶりに悪臭の漂うようなサザーン・ノワールだ。この辛口の不味さが久々にいい。
大都会のガソリン臭い本格ノワールと違って、アメリカ南部のスワンプを背景にした欲情のノワールは強烈な異臭があるのだ。
「夜の大捜査線」「ナイト・ムーブス」「ワイルド・シングス」などよりも、もっと爬虫類のような静かな毒気に満ちていて気味が悪い。
ザックは小心の青年だが、兄の新聞記者マシュー・マコノヒーの事件と情事が絡むおとなの異常な情愛に翻弄される。
ちょっとエルモア・レナードの小説のタッチがある毒味な人物描写も、これはもっとグロテスクだ。
それは「プレシャス」で、見事な人間描写を見せた監督の、あの執拗な人間洞察が異様なほどに細部に迫るからだろう。
やはり見るべきは、殺人容疑で逮捕されたジョン・キューザックの、初めての凶悪なキャラクターの醜悪さ。
いままでは、どちらかというと善良な美男だった彼が、がらりと変貌した異常さを見せる。
同様に中年バンプを演じるニコール・キッドマンも、かなりアクドクて不気味に醜悪。
アカデミー女優だからこそ許される悪のりだ。
この全体に悪趣味な狂気は、B級映画の下品さに慣れてないとたまらなく、試写室を逃げ出した上品な奴もいたほどだ。
あの銀座シネパトスが、もし健在だったら、これぞぴったりの異色欲情ノワールの怪作である。
「真夏の引力」というサブタイトルが判る人は、どうぞ。

■左中間へのライナーが風で流されてセンターがグラブに当てて後逸、スリーベース。
●7月27日より、新宿武蔵野館などでロードショー


●『囚われ人』で体感する誘拐テロの迷走恐怖。

2013年05月16日 | Weblog

●5月14日(火)13−00 六本木<シネマートB1試写室>
M−058『囚われ人』Captive (2012) idier costet / swift productions / arte france cinema 仏
監督/ブリランテ・M・メンドーサ 主演/イザベル・ユペール <120分> 提供/彩プロ ★★★☆
2001年、あのビン・ラディーンとのイスラム関係組織がフィリピンのリゾート、パラワン島で起こした21人もの観光客誘拐事件。
あまりにも長期にわたる犯行の逃亡時間だったせいでか、9−11の陰に隠れていた事実の再現作品だ。
まったく詳報が知られなかった真相は、ここでも明確にされないが、それは政治目的ではなく、身代金要求の団体誘拐だったせいだろう。
どうも、よく目的や作品の狙いが明快でないのは、事件そのものが流動的な組織犯罪のせいだろうか。
困ったのは、事件をリアルに再現したために、どうも闇のなかの行軍のようで、こちらの感覚も迷走を続けるので疲れる。
事実を映画化する作品は非常に多いが、みなそれぞれにエンターテイメント性を強調してテンションを操る。
「欲望のバージニア」も、「ゼロ・ダーク・サーティ」も、「アルゴ」も真実を雄弁にアレンジした。
しかしこの作品は、誘拐された被害者と同様に、何が起こって、どうなるのかが、まったく読めない苛立ちが募るのだ。
それにしては、主演のイザベル・ユペールは災難のわりには気丈でタフである。
結局は身代金が支払われた者が解放されるが、他のものは病死したり殺害されたり、徐々にメンバーは少なくなる。
そして事件は1年以上もの間、未開の密林を迷走し、軍隊との銃撃戦の末に、彼女は解放されるが、事件の実態はいまだに未解決なのだという。
「インポッシブル」の津波災害も、ある意味ではリゾート地での不運だが、何か似たような計り知れない焦燥が残った。
それは、この作品が、事実に拘りすぎたドキュメント感覚のせいだろうか。
むかし、ゲイリー・クーパーが主演した「暁の討伐隊」では、フィリピンの蛮族を颯爽とやっつけたが、あの爽快感は遠いむかしだ。

■ライト線へのヒットを、野手がそらしたのでセカンドを狙い、返球で刺される。
●7月6日より、シネマート新宿ほかでロードショー


●『欲望のバージニア』に匂う硝煙の密造酒と、野卑な男たちのダンディなスタイル。

2013年05月15日 | Weblog

●5月14日(火)13−00六本木<シネマート3F試写室>
M−057『欲望のバージニア』Lawless (2012) benariya pictures / filmnation entertainment
監督/ジョン・ヒルコート 主演/シャイア・ラプーフ <116分> 配給/GAGA ★★★☆☆
まだ禁酒法時代だった1931年のバージニア州の山林地帯フランクリン。
その山奥の隠れた森林のなかで密造酒を作っていた3人兄弟の周囲にも、当局の取り締まりの捜査網が迫っていた。
場所は東部で、密造酒の運搬は車を使用しているが、まさにこれは西部劇のスタンスだ。
シャイアは純真な男兄弟の末っ子だが、長男のトム・ハーディはタフガイで誇り高いリーダーだ。
当局の捜査官ガイ・ピアースは異常なほどの執拗さで、密造摘発を楯にして殺戮を繰り返していた。
まさに「荒野の決闘」のクラントン一味と、ワイアット・アープ三兄弟の対決のようだ。
密造された酒はギャングに売られるが、ドラマの構図は傑作「ムーンシャイン・ウォー」の再現となる。
オーストラリア出身のヒルコート監督は、正統西部劇のタフネスを見せて、まるでラウォール・ウォルシュ監督の再来だ。
時代の激変を背景に匂わせながらも、これもアメリカの歴史の変革期。そこを入念な時代考証で描く。
その時代の荒波に、密造酒醸造にプライドを持って家族で法と戦う兄弟愛には、分厚い人間性の結束が見られる。
ボニー&クライドが、デリンジャーが、アル・カポネが、それぞれに戦っていた時代。
この素晴らしい三兄弟の姿も、あの時代を生き抜いたタフなマシンガンの似合う奴らだったのだ。
分厚い銃撃戦と、男同士の決闘。ああ、これがバイオレンス・アクションの基本。温故知新の快作といえる。
オスカー・ノミネートのジェシカ・チャスティンが荒野の野花のような一輪を飾っていていい。

■豪快なライナーが左中間を破りフェンスに達するツーベース。
●6月29日より、全国ロードショー


●『最後のマイ・ウェイ』は、あのシナトラの名曲誕生の秘話。

2013年05月11日 | Weblog

●5月9日(木)13−00 市ヶ谷<シネアーツ試写室>
M−056『最後のマイ・ウェイ』My Way (2012) studiocanal / ufilm belgacom 仏
監督/フローラン=エミリオ・シリ 主演/ジェレミー・レニエ <149分> 配給/カルチャー・パブリシャーズ ★★★
フランク・シナトラが唄った「マイ・ウェイ」は誰でも知っている曲だろう。
それは、歌手のポール・アンカがシナトラのために曲想を替えてプレゼントしたメロディだが、もとはシャンソンだった。
という辺りの事は周知の裏話だった。
この映画は、その「マイ・ウェイ」を作曲したという、フランスの青年の短い生涯を描いたものだが、映画は長すぎる。
ジェレミーが演じるクロードは1939年のエジプト生まれ。
父のスエズ運河の仕事が政変で破綻して、一家はモナコに移住するが仕事はなくて、少年は好きだった音楽のアルバイトをする。
ミュージック・ビジネスに反対していた父は亡くなり、クロードはパリに進出するが、ジョニー・アリディの人気には敵わない。
それで、アルバイト気分で作ったフレンチ・ポップスのラブソングが、なぜかポール・アンカの耳にとまった。
残念なのは、その契機や、シナトラとの接点がないので、ドラマは70年代のポップス界の実態が繰り返し再現されるのだ。
ま、シルビー・バルタンや、アリデイ、オーティス・レディングなどが活躍したポップス時代の気分は味わえる。
「マイ・ウェイ」という曲の人気は、歌詞をシナトラの高齢に合わせて書き直されてヒットした。
ところが、その名曲の発端は、貧しい若者の恋ごころを切なく唄ったものだった、という不思議な事実だ。
多くのガールフレンドとの失恋。ショウビジネスのために自身の体と生命を代償にした短い生涯。
それは、どこかマイケル・ジャクソンや、ボビー・ダーリンの生涯にもダブって見える。
だから、これはシナトラには関わらないで見るべき、ミュージック志望青春の挫折を描いた作品として見るべきだろう。

■大きな滞空時間の長い、平凡なセカンドフライ。
●7月20日より、Bunkamuraル・シネマなどでロードショー