細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『メランコリア』で魅せるクールな地球最期の映像美学。

2011年11月29日 | Weblog

●11月28日(月)13−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−147『メランコリア』Melancholia (2011) Zentoropa Entertainment デンマーク
監督/ラース・フォン・トリア 主演/キルスティン・ダンスト <135分> ★★★★
非常にクールに計算された、地球最期の日の人間像だ。
豪勢なヨーロッパの湖畔の城で、結婚披露宴が開かれていた。
しかし当の花嫁や、出席者たちには場違いな異常な行動をとる者が多い。
これもブルジョワジーの傲慢なわがままかと思っていたが、庭に出ると美しい月が二つある。
計算されたシュールな映像。庭のゴルフ場で馬は倒れ、鳥は落下して、大きなヒョウが降って来る。
あの「マグノリア」のように、ドロドロとした人間たちの愛憎に果てに、自然が崩壊していく。
その異様な展開が、まるでハリウッドのSFパニック映画を嘲笑するように、人の心を少しずつ異常にしていく。
監督自身がウツ病にかかっていた後の復帰作だけに、メランコリア彗星の接近で、崩壊していく人間たちの心の落下が見事に描かれて行く。
あの<ドグマ21>とかいう、手持ちカメラの映像も、今回は静的でスムーズ。
それに、冒頭で見せるシュールで美しいショットが、まず絵画的で素晴らしく魅了される。
キルスティンは、この演技で、カンヌ国際映画祭で主演女優賞受賞。
映画の結末は、明かさないで欲しいという配給会社の希望なので、ラストは明かさない。
ただ結婚式を通じて描かれる、ふたりの姉妹の心の移ろいは、見事に描かれている人間のドラマに違いはない。
自然災害の圧倒的脅威を背景に、さすがに鮮明な人間描写を見せた北欧の映画センスに魅了された。

■大きな飛球はドームの天井に接触して、エンタイトル・ツーベース。
●2月17日より、TOHOシネマズみゆき座などでロードショー


●フレッド・アステアとジャズを踊ろうか。

2011年11月27日 | Weblog

●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)
今夜の放送/ Vol.073 『フレッド・アステアとジャズ・フレンド』Fred Astaire Dancing Jazz    
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎

★11月27日(日)午後8時ー9時放送
●好評につき、毎翌週金曜日の午後7時からも再放送されています。
★曲目メニュー紹介

1/『イージー・トゥ・ダンス』唄/トニー・ベネット
2/『ダンシング・イン・ザ・ダーク』唄/ダイアナ・クラール(映画『バンドワゴン』より)
3/『チーク・トゥ・チーク』演奏/ニコラ・ビオヴァー二(映画『ジンジャーとフレッド』より)
4/『サムシング・ガッタ・ギブ』唄/メル・トーメ(映画『足ながおじさん』より)
5/『オール・オブ・ユー』唄/フレッド・アステア&シド・シャリース(映画『絹の靴下』より)
6/『セイム・オールド・ソング・アンド・ダンス』唄/フランク・シナトラ
7/『トップ・ハット、ホワイト・タイ』演奏/オスカー・ピーターソン&フレッド・アステア

★今週の映画紹介/『ハード・ロマンチッカー』主演/松田翔太

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★来週の、この番組は「モア・ダンシング」と題して、ジーン・ケリーの映画と踊れるジャズを。
ご期待ください。


●『ウォーキング・デッド』近未来悪夢からの連続サバイバル。

2011年11月25日 | Weblog

●11月24日(木)13−00 九段下<角川映画試写室>
M−146『ウォーキング・デッド』The Walking Dead (2010) american movie classic com.
監督/フランク・ダラボン 主演/リック・グライムス <シリーズ1、2話/112分> ★★★☆
あの「ショーシャンクの空で」や「グリーンマイル」などの名匠ダラボンが、企画制作監督したという作品。
原作本がヒットして、テレビ・シリーズで、全米で高視聴率をマークしたという噂のシリーズだ。
ジョージア州郊外で交通違反の取り締まり中に、犯人の銃弾を受けたリックは意識不明で搬送された。
病室のベッドで意識が戻ると、病院に人の気配がない。
しかし、外に出ると周囲は一変して、死体の列と徘徊するゾンビの世界だった。 
これは、その死の世界から脱出して、家族の行方を探すサバイバル・アクションの連鎖。
要するにあの「逃亡者」のように、毎回生死の危機を乗り越えていく、1時間ドラマのシリーズだ。
さすがにダラボン監督は、ただのゾンビ映画ではなく、サスペンスの演出には入念なアイデアが詰め込まれている。
現在はセカンド・シーズン中で、驚異的な視聴率をマークしているというが、確かに面白くて目は離せない。
以前と違って、高度なCGテクニックも多用できるので、ゾンビの上半身だけの徘徊も可能だ。
とくに、特殊効果で再現されるハイウェイや都市部の崩壊は、近未来の地獄絵。
要は映画的なアイデアが、毎回フルににトライできるので、映画作家としては、おいしい仕事に違いない。
しかし、ダラボンには、ちゃんとした映画も、また期待したいものだ。

■センターバックスクリーンへの大飛球だが、フェンス手前で失速。
●来年2月、シリーズ1(全6話)DVDで全国リリース


●『果てなき路』のフォーカスを惑わす分かれ道。

2011年11月23日 | Weblog

●11月22日(火)13−00 六本木<シネマート試写室B1>
M−145『果てなき路』Road to Nowhere (2010) entertainment one 米
監督/モンテ・ヘルマン 主演/シャ二ン・ソサモン <121分>★★★☆☆
ミステリー映画の撮影中に、そのテーマに似た殺人事件が現実に起こる。
現実と虚構の映像。しかも主演女優の過去も謎めいて絡んで来る。
まるで不揃いなパズルのピースと格闘するような、多重構造の犯罪映画だ。
監督は、かつて「断絶」で印象の深い異才21年ぶりの作品。
劇中にも「レディ・イヴ」のシーンをからめたり、「孤独の場所で」の台詞がでたり、クラシック映画のファンには嬉しい。
なるほど、「ローラ殺人事件」や「めまい」のように、美女のダブル・イメージを前後させて見る者を惑わす。
でも、ノワールかというと、どうも、その美意識は感じられなかった。
とくに、「さらば愛しき女よ」のヴェルマの名前を語るほど、シャ二ンには妖しい翳りがない。
やはり、この種の犯罪映画は、主演女優とそれに絡む男優に存在感が強くないといけない。そこが弱い。
ときどき挑発的にセスナ機の事故シーンを見せるものの、本筋とは関係がなく不発。
いろいろ映画製作のレトリックをモンタージュで欺く技法は面白いのだが・・・・・。
若い映画学生には、勉強になるだろうが、犯罪の毒性も淡白で衝動的で、恐ろしさもない。
ノワールとして見るには、残念ながらどうもお手軽な印象だった。

■高く上がったショートフライが風に流されてポテンヒット。しかしセカンドで封殺。
●1月、渋谷イメージフォーラムでロードショー


●キャッツ&ドッグスのジャズで愉しく。

2011年11月20日 | Weblog

●映画とジャズのFMサウンド・カフェ●
『シネマッド・ジャズ・カフェ』CINEMAD JAZZ CAFE(FMたちかわ/84−4mhz)
今夜の放送/ Vol.072 『愛犬愛猫とジャズを楽しむ』Cats & Dogs  Jazz Cafe    
司会/鵜飼一嘉+選曲・解説/細越麟太郎

★11月20日(日)午後8時ー9時放送
●好評につき、毎翌週金曜日の午後7時からも再放送されています。
★曲目メニュー紹介

1/『ウォーク・オン・ア・ワイルドサイド』演奏/ジミー・スミス
2/『サムシング・フォー・キャット』演奏/ヘンリー・マンシーニ(映画『ティファニーで朝食を』より)
3/『キャット・ウォーク』演奏/マル・ウォルドロン・トリオ
4/『ヒーズ・ア・トランプ』唄/ダイアン・ハブカ(映画『わんわん物語』より)
5/『ベイビー・マイン』演奏/ヨーロッパ・ジャズ・トリオ(映画『ダンボ』より)
6/『ビ・ウィッチド』唄/フランク・シナトラ(映画『夜の豹』より)
7/『ドルフィン・ドリームス』演奏/リー・リトナー

★今週の映画紹介/『コンテイジョン』主演/マット・デイモン

●<FMたちかわ>のホームページから、サイマル放送で検索すれば、パソコンでも聞こえます。
★来週の、この番組は「ダンシング、ダンシング」と題して、フレッド・アステアの映画と踊れるジャズを。
ご期待ください。


●『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』の圧倒的な連続活劇について行けるか。

2011年11月19日 | Weblog

●11月17日(木)13−00 半蔵門<東宝東和試写室>
M−144『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』The Adventures of Tintin (2011) paramount / amblin
監督/スティーブン・スピルバーグ 主演/ジェイミー・ベル <108分> ★★★☆☆

このところ精力的に沢山の娯楽作品のプロデュースをしてきたスピルバーグが、久しぶりの監督。
それほど演出をやりたかったテーマは、彼が少年時代に熱狂したというアニメ活劇。
まさに「宝島」や「アラビアン・ナイト」のような、宝探しの冒険が、連続アクションで展開する。
オートバイのサイドカー、海賊難破船、水上飛行機、まさに水陸空の超特急映像だ。
当然、実写では無理があるので、いまやハリウッドの主流となった<パフォーマンス・キャプチャー>での映画化。
一応キャスティングした俳優に、基本的な演技を演じてもらい、そのベースを3Dのアニメーションに転換作業する。
このことで、当然無理なスタントも、まるでアニメの絵のように、なんでもござれ!、という次第。
ことしも「ランゴ」のような傑作もあったので、見ているこちらは何があっても驚かない。
それでもスピルバーグは、自分の夢を強引に映像化して、そのスピード展開は息もつかせない。
宝物の地図が、悪漢や船長の間を転々として、少年タンタンと愛犬スノーウィは走りっぱなしの大奮闘だ。
恐らく紙の上の漫画で親しんだ監督にとっては、これこそが、連続活劇による映画作りの原点なのだろう。
その情熱には、「ET」以来の熱気を感じさせる。かなり圧倒された。
問題は、ほとんど休むシーンがないので、一気にスピードに飲み込まれて映画酔いしてしまうほど、なのだ。
正に108分のジェットコースター。
テレビゲームに慣れている若いファンには、これでもいいだろう。でも正直、疲れてしまった。
この飽くなきスピルバーグの連続アクションに挑戦する勇気のある方は、どうぞ。

■右中間のフェンスへの長打だが、サードに向かうには息切れしてしまった。
●12月1日より、全国ロードショー


●『リアル・スティール』で見せる父子の絆と不屈の闘魂。

2011年11月18日 | Weblog

●11月16日(水)13−00  目黒<ウォルト・ディズニー試写室>
M−143『リアル・スティール』Real Steel (2011) dreamworks / touchstone pictures
監督/ショーン・レヴィ 主演/ヒュー・ジャックマン <128分> ★★★☆☆
近未来のアメリカ。ロボットでのボクシングが、人々を熱狂させている時代。
元ボクサーだったヒューは、別れたカミさんとの間に10歳の男の子がいるが、離婚で扶養権はない。
借金だらけのロボット・ボクシングの巡業で、一時的に息子を預かり苦戦する。
よくある「チャンプ」や「シンデレラマン」のような、家族とボクシングの苦節の人生物語。
それをスピルバーグと、ディズニーの、それぞれのコーポレイト・カラーを合体して知恵を出した作品。
その接点が「トランスフォーマー」のような、怪力ロボットが演じて人情をくすぐる。
話はアメリカン・ドリームの定番で「ロッキー」のような結果は判っているのに、ラストではホロリ。
それは、基本的に、ダメな父親とよく出来た息子の情愛を基軸にしていて、それがブレないのがいい。
ま、いまのロボット技術で、何年後のことかは別として、相変わらずスピルバーグは、子供の夢を追って行く。
出来過ぎで、サービス過剰のエンターテイメントだが、悪く言うほどヤボでもない。
いまのハリウッドとしたら、最上の出来だと言っていいだろう。
親子連れで、大きな劇場のサウンドで楽しむ絶好の健全娯楽、お正月映画だろう。

■左中間のフェンス上段に当たり、エンタイトルのツーベース。
●12月9日より、全国ロードショー


●『人生はビギナーズ』で無言で示される人生の達観。

2011年11月17日 | Weblog

●11月16日(水)10−00 六本木<アスミック・エース試写室>
M−142『人生はビギナーズ』Beginners ( focus features / olympus pictures 米
監督/マイク・ミルズ 主演/ユアン・マクレガー <105分> ★★★☆☆
父が75歳で亡くなった。末期ガンだった。
末期の告知を受けた父はカミング・アウトを宣言。ボーイフレンドと最期は生活した。
息子のユアンは38歳の独身アート・ディレクター。イケメンのナイスガイなのに未婚。
いつもガールフレンドに逃げられるのは、その優柔不断な性格から。でも結婚の焦りはない。
映画のタイトルもなく、のらりくらりとした展開だが、妙に味のある演出で退屈はさせない。
人間の情感は、実に静的なスケッチショットで暗示して見せる。これがよろしい。
どうやら「アニー・ホール」症候群の男と女のテーマに、父が最期のメッセージを示したかったのだろう。
「人生は永くない」「みんな未熟者」「でも、言葉はいらない」。だから本当にやりたいことは、早めにやろう。
父を演じるクリストファー・プラマーが、実にいい味だ。
そして父の愛犬だったテリア犬が、よく人間を観察していて、本音をもらす。
ユーモラスで、取り留めのないソフト・コメディだが、実に爽やかな印象の小品だ。
結局、人生は、誰でも「初心者」なのさ。と、映画は笑う。

■バスターのつもりが、サード頭上を超えたラッキーなヒット。
●2月4日より、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー


●『ハード・ロマンチッカー』の過激なバイオレンス美学。

2011年11月16日 | Weblog

●11月14日(月)13−00 西銀座<東映第二試写室>
M−141『ハード・ロマンチッカー』The Hard Roman ticcer (2011) 東映/木下グループ
監督/グ・スーヨン 主演/松田翔太 <101分> ★★★☆☆☆
下関在住の在日韓国人二世のグ監督が書いた原作を、自ら演出。
キューブリックの映画『時計じかけのオレンジ』にインスパイアされたストーリーは理由なき暴力の日々。
憤懣だらけの日常を、暴力の連鎖で語る徹底した過激な、しかしシャープなバイオレンス映画だ。
乾いた映像は粒子を敢えて荒く飛ばし、レゲエ風のパンク・ミュージックが軽くていい。
何しろ高校中退と思われるフリーター集団が、組織の手先となって下関の繁華街をわがもの顔に暴れ回る。
ここには知的な会話や優雅な時間のニュアンスなどは微塵もなく、一種の暴力依存の無法集団の抗争。
ひとつ間違えれば、俗悪な暴力映画になるが、そこは監督の映画的センスはギャスパー・ノエ風で冷静で乱れない。
狂気の暴走ではあっても、映画的な新しい美しさは時々煌めくので見逃せないのだ。
ブロンドに髪をブリーチした翔太も、聞き取れないような下関弁で威嚇し、中村獅童と、いいコントラストだ。
過激な暴力シーンも強烈で、健全な娯楽とはほど遠いが、これが、彼らの言語なのである。
名作『G0』とは違った在日の描写も、鋭い毒性があって、これも東映ならではの強気だろう。
ともかく、映画的な感覚の新しさは、韓国の優れた犯罪映画に肉薄して、中々力強く凄まじい。

■レフト線の痛打でセカンドへ暴走気味だが、野手に激突してツーベース。
●11月26日より、東映系で公開。   


●『夢二』で甦る清順風の大正浪漫ミステリー遊戯。

2011年11月15日 | Weblog

●11月14日(月)10−00 五反田<イマジカ第二試写室>
M−140『夢二』YUMEJI (1991) 荒戸源次郎事務所
監督/鈴木清順 主演/沢田研二 <128分> ★★★☆
大正浪漫三部作という、清順監督の3作品がリバイバルされるが、その一作。
竹久夢二の恋の放浪を、かなり幻想的なイメージで描いた意欲作品。
金沢周辺の湖や大正時代を思わせる家屋などで再現された、妖艶な映像と古風な音楽。
どこか田舎芝居のような奇妙さが、ノスタルジーであり、懐かしい。
とくに殺人事件なのか、失踪事件なのか、奇妙なストーリーはあるが、それは問題外。
沢田研二の演じる夢二に、いろいろな美女が絡み、ビアズレー風のスケッチが被さる。
いかにもレトロで実験劇団の芝居を見るような時間は、妙に懐かしかった。
金髪の原田芳雄や、大正ダンディズムの坂東玉三郎など、いまの若者にはいい勉強になる。
田舎の村祭りのサーカス小屋の、あの奇妙なザワメキが妙に懐かしく、哀しかった。
同時期に監督の『ツィゴイネルワイゼン』と『陽炎座』もリバイバル公開される。

■高く上がったセカンドフライが、風に流されてポテンヒット。
●1月中旬、渋谷ユーロスペースほかでロードショー