細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『麦子さんと』に見られる家族という名の疎遠な絆。

2013年11月30日 | Weblog

11月28日(木)13-00 <六本木>シネマートB1・3試写室

M-150『麦子さんと』(2013)プロダクション・ステアウェイ ファントム・フィルム

監督・吉田恵輔 主演・堀北真希 <95分>配給・ファントム・フィルム ★★★☆☆☆

やっと、久しぶりに素敵な日本映画に出会った。ちゃんと人間同士の生き様を正面から見据えた傑作だ。

絶縁状態で長いこと疎遠だった母親(余 貴美子)が、突然、東京の息子と娘、麦子の住むアパートに転がり込んで来た。

フリーターの兄(松田龍平)にうんざりして、喧嘩ばかりしている妹の堀北も、声優を夢見てアニメショップでアルバイトしている。

カスカスの生活なのに飛び込んで来た母を、兄は「ばばあ」と呼び、妹は「あんた」と呼ぶ。しかし、これも親子である。

実は末期がんだった母は突然死してしまい、困った麦子は、遺骨を持って、故郷の山梨の田舎の墓に行くことになる。

歌手を夢見て、18歳のころに村を出た母は、実は人気のアイドルで現在の麦子にそっくりだったもので、村の大評判になる。

ここで、18歳の頃の母を、娘の麦子が演じるという発想は、とても自然でいいし、村の人々のリアクションも納得できるのだ。

埋葬許可証を忘れて来たために、3日ほどその村で過ごす事になった麦子に、昔、母に熱をあげていたジジイたちは当然のように、親切に尽くすのだった。

軽蔑しきっていた母も、実は大変な人気者だったことを知り、次第に麦子は、不運な人生を送って突然に逝った母の愛情に胸を締めつけられる。

村祭りのステージに上げられて、昔、母が歌った松田聖子の「赤いスイートピー」を音痴で歌う麦子の戸惑いには、不覚にもナミダ。

いまの若者たちの粗暴な言動を、実にリアルに活かして、アニメ感覚も時折カットインする吉田監督の感覚は、すこぶる柔軟で暖かい。

「てめえ、ばかか」「ばばあは死ね」「ぼけ、じゃまだよ」・・・と、乱雑な日常会話が、少しずつ暖かく感じられるようになる演出が素晴らしい。

キャスチィングのアンサンブルも「ばっちり」で、ラスト近くなると、もっと、このドラマが続いていって欲しくなった。

このお正月、一番の、おすすめ邦画の一本だ。

 

■前進守備のレフトの頭上を越えたライナーがフェンスに転々のスリーベース。

●12月21日より、テアトル新宿ほかでロードショー 


●『小さいおうち』の昭和への回帰と現代のズレ。

2013年11月29日 | Weblog

11月26日(火)12-30 築地<松竹本社3F試写室>

M-149『小さなおうち』(2013)松竹映画・文藝春秋・テレビ朝日

監督・山田洋次 主演・松 たか子 <136分>配給・松竹株式会社 ★★☆☆

「東京家族」の印象を引きずるように、タイトルも最初のカットワークも小津安二郎の映画のようだ。

しかし中島京子の原作に惚れ込んだという山田監督は、その昭和初期という時代設定にこだわりを見せて、前半はもたつく。

というのも、あの時代は天国から地獄へと、社会生活が急速に転落した時代で、その特殊な状況説明に時間をかけすぎなのだ。

だから主婦の松 たか子の心理状態と片岡孝太郎夫婦関係。ましてや吉岡秀隆と夫との三角関係、それに女中の黒木 華との位置などが平板で波がない。

しかも、その女中の死によって浮き上がる筈の、あの昭和という時代と、家族の肖像が、いつまでたっても魅力がない。

なぜか現在の倍賞千恵子の老婆と、女中時代のイメージが一緒にならない。それではドラマに軸がないように、曖昧なままに終始した。

これは演出というよりもキャスティングの問題だろうが、誰が主役で、誰が見た昭和の家族なのかが、どうも不鮮明なままなのがもどかしいのだ。

もしルイス・ブニエルの「小間使いの日記」のようにするのなら、もっと女中目線で強く三角関係を見つめてほしかった。

孤独死した女中の遺品に、未開封だったラブレターがあったというなら、ディターレの「ラブ・レター」や、シラノ・ド・ベルジュラックといういい先例もあった。

しかし映画は、あの昭和と今の平成を行ったり来たり。だから、またしても妻夫木青年の「泣き」があっても、さっぱり実感がないのだ。

これだけの長尺になったのは、ふたつの時代を描いたせいだろうが、そのタイムスリップには、どうもテンションが低すぎたようだ。どうせなら、もっと現代風の辛辣な視線があってもよかったのに。この原作では、無理かな。

それにしてもどうせ回想映画にするのなら、木下恵介先輩のように、恥かしげもなく、松竹映画伝統の大涙映画にすればよかったのに、残念だ。

 

■ファールでフルカウントまで粘ったのに、見送り三振。

●来年1月25日より、全国松竹系で公開 


●『スノーピアサー』はアメイジングな脱出サバイバル・ゲーム列車。

2013年11月26日 | Weblog

11月22日(金)13-00 六本木<シネマートB1試写室>

M-148『スノーピアサー』Snowpiercer (2013) CJ entertainment / union investment partners 韓、米

監督・ポン・ジュノ 主演・クリス・エヴァンス <125分> 配給・ビターズエンド ★★★☆☆

地球温暖化防止策が失敗して、氷河期を迎えてしまった近未来の2031年。一面の白銀の世界を疾走する列車が舞台だ。

高度の技術で開発された列車<スノーピアサー>の車両は、後部車両にはホームレスのような下層階級の人間たちが詰め込まれていた。

これはその監獄のようなスペースからの必死の逃亡、あのシナトラのナチスからの「脱走特急」みたいな設定のハード・アクションかと咄嗟に感じた。

ところが次元はまったく違っていたのだ。だって、あの「グエムル」や「母なる証明」のポン・ジュノ監督の最新作である。

ただの脱走アクションじゃないだろう、とは思っていたが、とんでもない意外な映像遊戯の異常な展開が待っていたのだ。

最後部車両の監房セクションのクリスは、仲間たちとどうにか前部車両へと脱出を試みるが、情報通のジョン・ハートの知恵で成功した。

兵士たちのよって管理されている前部車両のティルダ・スウィントン総理は凄腕で、このガードも強靭だが、ひとつずつ勝利していく。

なるほど。この作品は、かなりの難易度のPCゲームの世界なのだ。同じ列車で外は厳寒の地獄なので、とにかく目前の敵を負かすしかない。

その異様な状況が、前の車両に進行するたびに、世界は激変していくのだ。植物園や保育園もあればディスコ車両もあったりして、それは玉手箱。

おそらくポン監督は、この制約された極限のなかで、人間はどのように思考して、戦うのか。その究極の課題を突きつけて行く。

少しずつ前方の車両に行くに従って、資本主義社会の構造のような別世界が前方に開けて行くのは、アミューズメント・ワールド。

フランスのコミックをベースにしたという<ノアの箱船>は、ノンストップで異次元に突入していく。その映画的な意外性は飽きさせない。

まるでエンキ・ビラルの地下隔離世界だった「バンカーパレス・ホテル」(84)のように、この天国の地獄は、壮絶なラストを迎える。

 

■左中間を割るロングヒットで、余裕のツーベース。

●2014年2月7日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズなどでロードショー 


●『47RONIN』はハリウッド感覚のチャンバラ・ファンタジー。

2013年11月24日 | Weblog

11月22日(金)10-00 半蔵門<東宝東和映画試写室>

M-147『47RONIN/フォーティセブン・ローニン』(2013)universal picture studio

監督・カール・リンシュ 主演・キアヌ・リーブス <121分> 配給・東宝東和 ★★★☆

「忠臣蔵」の四十七士のハリウッドでの本格映画化は、相当以前から報じられていたが、紆余曲折して、いよいよ完成公開となった。 

ワーナーが「最後の忠臣蔵」で、数年前に赤穂浪士のふたりの残党を描いてから、当然のように、この新作の方向も変更検討したことだろう。

たしかに、この作品も赤穂浪士の討ち入りがクライマックスにあり、そこまでの大石内蔵助の心境も描かれている。

が、異端の浪人と言われたキアヌ・リーブスの参入を加えて、ドラマに新鮮なふくらみも加えて、これまでの「忠臣蔵」とは別の意気込みを見せた。

しかし、正直な印象は、本格時代劇というよりは、ジョン・ウーのアクション史劇「レッド・クリフ」や、「ロード・オブ・ザ・リングス」の印象に近い。

というのも、のっけから「グエムル」のような奇怪な大怪獣が登場したり、宙を舞う妖怪変化までがスクリーンを暴れ回るのだ。

だから、肝心の恨みつらみの東映自慢の、お正月映画のような人間の確執の展開にはならない。まさにハリウッド自慢のエフェクト映像活劇の感触。

ブダペストにオープンセットを作ったという播州赤穂城や吉良の城なども、どうも和中混合のデザイン感覚でおぞましいのだ。

結局は、ワールドワイドな視線で描かれた異端の鎖国イメージが、あちらのスクリーンでは、異様なジャパンという興味で見られるのだろう。

従って目くじらは立てないで、これも「ハリーポッター」路線の時空を越えたゲーム感覚のアクション・エンターテイメントと見た方がいいようだ。

真田広之や柴咲コウなどの好演はあるが、それも菊地凛子のモンスターに飲み込まれてしまったようだ。いやはや不思議な映画ではある。

ラストの四十七士の切腹シーンなどは、わざわざ痛そうに血を見せなくとも、ナレーションで充分だったと思うのだが・・・。

 

■豪快なセンターフライだが、意外に伸びずに野手の定位置。

●12月6日より、全国、世界最速ロードショー

  

●『ダラス・バイヤーズ・クラブ』鬼気迫るマコノヒーの20キロ体重減演技。

2013年11月22日 | Weblog

11月20日(水)13-00 六本木<シネマートB1試写室>

M-146『ダラス・バイヤーズ・クラブ』Dallas Byers Club (2013) robbie brannier / rachel winter pro.

監督・ジャン=マルク・ヴァレ 主演・マシュー・マコノヒー <114分> 配給・ファインフィルムズ ★★★☆☆☆

「ロック・ハドソンがエイズで死んだゼ」

「ロック・ハドソンって、誰だ」

「ばか、知らねえのか。あの『北北西に進路を取れ』に出てた俳優だろう』

?????

1980年代のテキサス。ロデオで荒牛の背中に8秒間乗るのがショーバイのマシューは、トイレで失神して病院に運ばれた。

21キロもの減量をしたという、まるであのデ・ニーロ症候群のように激やせしたマシューの顔は鬼気迫る、見るからにAIDS患者。

「俺はゲイじゃないし、麻薬もやってない。AIDSなんかにかかる金もねえ」と医者の診断を否定した彼は、図書館で病気の真実を研究する。

症状はエイズに似ているが、同性とはやってないし、そんな病気にかかる筈はないと信じる彼は、医者の渡した薬を捨てて、独自の療法を考える。

そして余命3ヶ月と言われたが、3年後には、外国でテに入れて密輸入した新薬で、多少は体力を回復して、その違法薬の密売を始める。

その行為は、まさに麻薬の斡旋と同様で、当然、当局の摘発を受けるが、それでも懲りずにメキシコやShibuyaに飛ぶのだ。

映画としてはジュリア・ロバーツの「エリン・ブロコヴィッチ」や、ジョン・トラボルタの「シビル・アクション」の医薬告発ものと似ている。

とにかく、見るべきは、激やせなのに口の達者なマシュー・マコノヒーの圧倒的な演技。これはオスカー・ノミネート間違いないだろう。

しかもトランスジェンダーのゲイ青年を演じるジャレッド・レトの演技が、これまた凄い。これもノミネートものだろう。

エイズ時代の狂乱を描いた意味では、名作の「フィラデルフィア」には及ばないが、それでも「恋するリベラーチェ」と、いい勝負だろう。

結局、彼は3ヶ月の余命を否定して、7年後の1992まで生き延びたアメリカン・ヒーローだった。

 

■左中間を深く破った技ありの俊足スリーベース。

●来年2月22日より、新宿シネマカリテなどでロードショー 


●『アイム・ソー・エキサイテッド』はマドリッド発、泥酔状態の<エアポート2013>だ。

2013年11月19日 | Weblog

11月18日(月)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>

M-145『アイム・ソー・エキサイテッド』I'm so Excited ! (2013) el desso presents / film nation / canal+ スペイン

監督・ペドロ・アルモドバル 主演・ハビエル・カマラ <90分> 配給・ショウゲート ★★★☆

タイトルの前に「この映画はファンタジーで、現実にはありえない喜劇です」とコメントの出るほど、おバカな笑劇である。

アルモドバルという監督は、基本的に三谷幸喜監督のような視線を持っている才人で、まともな観点で勝負しても適わない筈だ。

スペインのマドリッド空港で待機中のペニンシュラ航空の整備士アントニオ・バンデラスと手荷物搬送係のペネロペ・クルスが揉めていた。

しかし定刻で離陸したメキシコ行きのジャンボは、1時間ほどして着陸用のランプが不具合なことに気がつく。さあアクシデント発生。

近くのエアポートに緊急着陸の要請を出したものの不具合で、そのジャンボは上空で旋回飛行を繰り返すが、機内では客のほとんどは寝ている。

ビジネスクラスの客室乗務員の3人はゲイで、ポインター・シスターズの「アイム・ソー・エキサイテッド」をフルサウンドで踊りだした。

とうとうパイロットの2人までが、その乱痴気騒ぎに加わって、機上は騒乱のオネエ・パーティと化すが、演出はいたって真面目である。

この異常な状況は、あの「フライング・ハイ」のラテン版だが、アルモドバルは、まるで50年代のハリウッド映画のように美術には凝ってみせる。

まさにテクニカラー映画のような華麗なライティングで、この異常なフライトを冷静に、華麗に見せるのだ。

絶体絶命の「エアポート2013」は、やっとラ・マンチャ空港への胴体着陸の許可が降りたが、すでに乗務員たちはテキーラで泥酔状態だった。

そんなオバカな<アリエネー・コメディ>でも、巨匠アルモドバルは沈着冷静にジャンボ機を滑走路に誘導してみせる。ま、さすがだ。

お正月のお屠蘇気分で大笑いするにはいいが、こんなフライトは、絶対にゴメンである。

 

■ファールで粘っての大きなフライだが、ライトが目測を誤ってヒット。

●2014年、1月25日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●『MUD・マッド』は狂気ではなく「泥」のような本格人間ドラマ。

2013年11月17日 | Weblog

11月14日(木)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-144『MUDーマッド』MUD(2012) neckbone production LLC。

監督・ジェフ・ニコルス 主演・マシュー・マコノヒー <130分> 配給・アース・スターエンターテイメント ★★★☆☆

かなり興味深い新作なのに、3回だけの試写なので焦って駆けつけた。

ルイジアナ州辺り、ミシシッピー河口に浮かぶの離島にはハリケーンによる被害で、モーターボートが大木の上に引っかかっている。

14歳の少年ふたりは、親の目を盗んで、手作りボートで無人島を探検して遊んでいたが、その木の上のボートには住人がいることを知った。

その不審な住人マシューは、無精な暮らしはしているが、少年たちには親切で、ある日、毒蛇に噛まれた少年を救い病院まで搬送したのだ。

この謎の男の不審な過去は、少しずつ背景が察することができる、どうやら警察の捜査を逃れている逃亡者らしく、地元の人間関係が少しずつ見えてくる意図が聡明だ。

脚本もジェフ・ニコルスが書いているが、「ハックル・ベリーの冒険」や「アラバマ物語」のテイストが懐かしい。

少年二人の冒険心は「スタンド・バイ・ミー」に似ているが、ベースにあるディープ・サウスの陰険さは、アーサー・ペンの「逃亡地帯」に近い。

前半はやたら謎めいた展開で眠くなったが、マシューの背景が少しずつ見えて、恋人のリース・ウィザースプーンが登場する辺りからドラマは締まるのだ。

とくに、謎めいた運河の隣人のサム・シェパードが絡みだし、おおお、あのジョー・ドン・ベイカーまでが出てくると、これは70年代のニューシネマ感覚。

監督は前作「テイク・シェルター」でも好演した「ICE MAN/氷の処刑人」のマイケル・シャノンも再度起用して、この人間ドラマに厚みを加えている。

このところ、やたら好調で、出演作品の多いマシューは、この作品の好演もあって、おそらくは「ダラス・バイヤーズ・クラブ」で次回アカデミー賞の本命に踊りだすことだろう。

犯罪ミステリーというよりは、いかにもアメリカン・インディーズの懐かしい体臭を持ったヒューマン・ドラマとして、見応え充分。パワーのある一本であった。

 

■渋い当たりがサードの左を破り、レフト線を抜けるツーベース。

●2014年1月18日より、ヒューマントラストシネマ渋谷などでロードショー 


●『プレーンズ』は、あの「素晴らしいヒコーキ野郎」の3Dアニメ復刻だ。

2013年11月15日 | Weblog

11月14日(木)10-00 目黒<ウォルト・ディズニー映画試写室>

M-143『プレーンズ・3D』Planes (2013) Walt Disney Studio / Disney tune studio 

制作・ジョン・ラシター 監督・クレイ・ホール <声>瑛太 <91分> 配給・W・ディズニースタジオ・ジャパン ★★★

機関車、車、の次の交通機関といえば「飛行機」となる。あの「カーズ」のスタッフが手がけたのは、「プレーンズ」、つまり軽飛行機。

単発プロペラの、愛すべき独り乗り飛行機だが、ここでは、その飛行機が擬人化されて夢を実現してゆく、という従来の発想だ。

主人公のダスティは、零戦などのような旧式の単発機で、オクラホマ辺りの田舎町で、広大なコーン畑の農薬散布機だ。

毎日、毎日、同じようなコースを往復しては、広大な畑に薬剤を散布するだけの単純な毎日だ。

上空には大型のジャンボジェットが世界中に飛び交うのに、ダスティは地上すれすれにいつも同じ畑の上を飛ぶだけだ。

もちろん、外国の大空に飛びたい夢はあるし恋もしたいのに、それができないのは彼が小心の高所恐怖症のせいだ。

しかし、そこに単発プロペラ機による、世界一周のトーナメント出場のチャンスが舞い込む。雲の上でなくても彼のテクニックなら勝てるかも。

というワケで、あの石原裕次郎もゲスト出演したハリウッド映画「素晴らしきヒコーキ野郎」の3Dアニメーション映画の登場という次第。

まるで「トップガン」のようなロックサウンドに乗って、勢いのいい散布ヒコーキの飛遊感はスピードがあって気分がいい。

ほとんど実写と変わらない冒頭のフライトは壮快でいいが、ストーリーは単純で「翼よ、あれが巴里の灯だ」と同じような孤独な戦い。

そしてディズニー映画のスピリットは踏襲して、多くのライバル機との苦闘の末にも、この落ちこぼれのダスティは勝利するのだ。

だから家族連れのお正月映画としては申し分ないだろう。そして「カーズ」のように、すぐに<パート2>も追いかけてくるようだ。

 

■低いライナーだが、セカンドベース上をスレスレにセンター前ヒット

●12月21日より、全国お正月ロードショー 


●『ブランカニエベス』の意表をついたモノクロ白雪姫のマタドール変身。

2013年11月13日 | Weblog

11月12日(火)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-142『ブランカニエベス』Blancaniebes (2012) arcadia motion pictures SL, Nix films AIE スペイン

監督・パブロ・ベルへル 主演・マカレナ・ガルシア <104分> 配給・エスパース・サロウ ★★★☆☆

何と、あのグリム童話の「白雪姫」を、女性闘牛士にしてしまったという奇想天外なシナリオも、この監督の発想だという。

しかも、モノクロームにしてサイレント映画。音楽と現実音はフォローしているが、言葉は字幕映像という、徹底したクラシック趣味。

あの「アーチスト」の登場より先だったら、おそらくアカデミー賞の強力なライバルになったろうが、ちょっとタイミングが惜しまれた。

それでも本国スペインでは、ゴヤ賞を最多11部門で制覇したというから、ま、スペイン自慢の異色作品だ。

1920年代のこと。人気闘牛士は闘技中に重傷を負い、同時期に妻は女子出産の疲労で死亡したので、生まれた娘は意地悪な後妻に育てられた。

ストーリーは「スノーホワイト」そのままなので、あとは森の小人たちとの出会いだが、これが旅の芸人たちで、7人の小人というのは、闘牛の前座コメディアン。

このアイデアがいいので、その後の白雪姫の運命もスンナリと予測がつく。白雪姫はスペイン語で「ブランカニエベス」だ。

後妻の虐待にもめげずに成長したブランカニエベスは、小人たちの愛情で強靭に育ち、彼らのように闘牛術もしだいに身につけて行くのは、父親の血筋だ。

やがて女性マタドールとして、セルビア地方の人気者になった彼女は、首都の大闘牛場でも人気者となっていく。

さすがに本場の闘牛シーンな撮影は、久しぶりに迫力あるアングルだ。とくにモノクロームだから、血の色がないのが詩的だ。

そしてサーカス芸人たちのスケッチや小人たちの描写が、フェリーニ映画のようなグロテスクなユーモアが満ちていて嬉しい。

しかし後妻の嫉妬と悪意の策略で、とうとうブランカニエベスは、クライマックスで例の毒リンゴを口にしてしまう。

このCGやら、エフェクトが進歩した時代に逆行するように、ノスタルジックな趣味に彩られた異色作だが、じつはかなり高度の合成処理にも苦心している。

ラストはディズニー趣味のハッピーエンドは避けて、なかなかシャレた解釈で処理しているのも、さすがに洗練された完成度。

映画テクニックの進化を、逆手を使ってサイレント映画にしたアイデアは面白いし、純真な勇気は評価されて当然だろう。

 

■レフト狙いの打法で、軽くライト方向に流し撃ちのヒット。

●12月7日より、新宿武蔵野館などでロードショー

  

●『オンリー・ゴッド』ああ、またも壮絶なミヤンマー血染めの復讐劇。

2013年11月09日 | Weblog

11月8日(金)13-00 六本木<シネマートB1試写室>

M-141『オンリー・ゴッド』Only God Forgives (2013) gaumont / wold bunch / space rocket

監督・ニコラス・ウィンディング・レフン 主演・ライアン・ゴズリング <90分>配給・クロックワークス、コムストック ★★★☆☆☆

いま、いちばん、早く見たかった新作が、先年公開された「ドライヴ」の監督の、この作品だ。

映画的な感性が好きなのと、フィルムノワールの美学を徹底的に映像に灼きつける作家として、実に稀な逸材だからであろう。

主演のライアンは事情があって、兄とふたりでバンコクの裏街で薄汚いボクシング・ジムを経営している。

しかし八百長試合と麻薬密売の手入れで、兄は警察の手先に無惨にも殺されてしまった。

復讐を思ったものの、よく調べると兄にもかなり悪意な部分があって、ライアンはすぐに復讐の手段はとれないのだ。

そこに母親の、あの「イングリッシュ・ペイシェント」の名優クリスティン・スコット・トーマスがアメリカから飛んで来た。

実は彼女は本国でも評判のワルで、葬儀というよりは弔い合戦に来たのだが、これがまるでマレーネ・デイトリッヒ気取りのマタハリもどき。

で、殺害主犯の元警察幹部のオヤジが、これまた格闘技の達人で、背中に蛮刀を忍ばせ、マイクを持たせると、ご当地ソングを本気で千 昌夫ばりに歌いだすという怪人。

このバンコクの怪人ヴィタヤ・パンスリンガムの起用が、実にいい。あの「ノー・カントリー」のハビエルに匹敵する仏頂面なのだ。

非常にライティングの角度に気を配る演出は、これはオーソン・ウェルズの「黒い罠」や「上海から来た女」の勉強が感じられる始末だ。

ただ映画的なエモーションは、さすがに前作同様に、コーエン兄弟の「ブラッド・シンプル」などのクライム作品を踏襲していて、さすがに洗練されていて手強い。

タイトルは「神のみぞ許す」という、ま、復讐は法律的には許されないが、これは映画的な情念のレベルだから、ここまで奔放でも勇気は認めたい。

かといって、タランティーノの「キル・ビル」ほどのコミックさはなく、あくまで流麗に、ダークに美学を貫くのだ。

あくまで伝統のフィルムノワールの美意識を維持しながら、人間の愚かな情念の爆発を映像化してしまう作家として、ニコラス・W・レフンはただ者じゃない。

 

■フルカウントから変化球をシャープに巧打して、センター頭上のスリーベース。

●2014年1月25日より、新宿バルト9ほかでロードショー