細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ボーダーライン』の白濁したディーキンスの視線に拍手!!

2016年01月30日 | Weblog

1月19日(火)13-00 飯田橋<角川映画試写室>

M-010『ボーダーライン』" Sicario " (2015) Lions Gate Entertainment, Black Ravel Entertainment. Thunder Road.

監督・ドゥニ・ヴィルヌーブ 主演・エミリー・ブラント <121分> 配給・KADOKAWA

<移民>と<難民>は基本的には別の理由があるのだろうが、アメリカとメキシコとの国境にも人種間トラブルが多くて、よく映画のテーマになる。

同じアメリカとの国境を引いているカナダ国境には、それほど映画になるトラブルはないのに、どうしてメキシコとの国境には昔から多いのか。

それは「アラモ」の時代の西部劇から描かれているテーマだが、大きくは文化的な貧富の格差と、麻薬の密輸入に起因した悪徳カルテルの存在が根強いのだろう。

最近では、アカデミー賞で大くの受賞をした2000年の「トラフィック」と、2007年の「ノー・カントリー」が、まず咄嗟に思い浮かぶが、オーソン・ウェルズの「黒い罠」もあった。

多くの傑作が多いのに、またしても似たテーマで映画化したのは、今回の作品の視点が、エミリー・ブラントが演じているFBIの女性捜査官の活動を先行しているポイントで、相変わらずに、その実態はオゾマシイ。

はじめはアリゾナにある不審な家屋の家宅捜査から、多くのメキシコ移民たちの遺体が、多量の麻薬とともに発見されたという事件で、銃撃と爆破でエミリーも負傷してしまう。

たしかに「ゼロ・ダーク・サーティ」でイラク戦争の視点を、女性戦闘員のポイントで描いた事で、多くの話題になったが、この作品もまた同様に、女性捜査官の戦闘現場僣入が大きい視点になる。

おそらくトム・クルーズとの「オール・ユー・ニード・イズ・キル」でのアクション対応の効果で、この女性捜査官の大役を振られたのだろうが、この作品でのエミリーは、かなり苦戦なのだ。

というのも、同じ特殊捜査官を演じているジョシュ・ブローリンが、かなりボルテージの高い存在感でタフに動き回るし、とてもエミリーの負けず根性だけでは、このアクションは仕切れない。

おまけに、麻薬カルテルの情報に精通しているという謎めいたコロンビア人の男、ベニチオ・デル・トロがまたしても「トラフィック」のときのように、異様な存在感を発揮するのだ。

とくに、冒頭にメキシコのファレスというカルテルの拠点に、空から一気に僣入するサスペンスでは、このイヤらしい中年の二人の曲者たちが、縦横に乱射するので、エミリーはカスミっぱなし。

見どころは、またしてもアカデミー撮影賞にノミネートされているロジャー・ディーキンスのカメラワークで、この異様に乾いた映像美は素晴らしく、この映画の魅力を完全に掌握。

しかも、ほとんどメロディのないような、ヨハンソンの音楽も異様で、この二人のバックアップで、映画は緊張のしっぱなしの迫力を貫くのだから、二人の職人芸には震えがくるのだ。

ファンとしても、ぜひ老練ロジャー・ディーキンスのカメラには、オスカーを受賞してほしいが、・・・・。

 

■強引なサードライナーが、グラブを弾いてファールラインを転々のスリーベース。 ★★★☆☆☆

●4月9日より、角川シネマ有楽町他でロードショー


●『人生の約束』は夏祭りの山車に汗する、懐かしい昭和任侠映画。

2016年01月28日 | Weblog

1月16日(土)11時35分 二子玉川<109シネマズ>4・スクリーン

M-009『人生の約束』" Promise of Your Life" (2015) 東宝映画

監督・石橋 冠 主演・竹野内 豊 <120分> 配給・東宝

どうも感動押し売りの宣伝の雰囲気があって、試写はパスしていたら、試写友が、「いや、あれは懐かしい任侠映画だよ」というので、それでは、とシネコンへ。

話は予告編で知っていたような、青春の挫折ものなのだが、たしかに<食わず嫌い>というのはマズいな、・・というのが実感で、これは正に昭和の任侠人情劇。

富山県の新湊出身の竹野内は、親しい友人と東京でIT企業を立ち上げて大成功したが、経営上のトラブルがもとで、その親友は会社を辞めて故郷に帰り、のちに突然、病死したのだ。

その葬儀のために、久しぶりに帰省した若手社長の竹野内は、故郷の育った地区が思った以上に寂れてしまって、街の祭りも別の地区が勢力を拡大しているという実態を知らされる。

故郷を愛して、その土地柄に寝ついて、年に一度の祭りの神輿の復活を先導して、その復興に尽力しているのが江口洋介なのだが、彼は故郷を捨てた社長に突然、殴りかかる。

おいおい、これは、あの「網走番外地・望郷篇」と同じ展開じゃないか、と、わたしは久しぶりに見る<昭和任侠映画>の、あの語り口の律儀さに、つい嬉しくなって席に坐り直した。  

話は、その心意気に惚れ込んで、生まれ故郷の地区復興のために、東京の会社は秘書任せにして新湊の祭りの神輿復活に、しだいに社長の心が動くのは見え見えなのだが、実は裏ではトラブル発生。

会社の経理上の不正が国税庁にバレて、当局の摘発を受けて、竹野内社長はそれどころではなく、本来ならば、いかに幼な馴染みの葬儀とはいえ、東京の本社で陣頭指揮を取らねばならない実状なのだ。

この辺が、さすが東宝映画としては、まさか東映任侠映画と同じような展開ではラチがあかないので、暴力沙汰は避けて、人情話にポイントを絞りこみ、廃業寸前の理髪店、西田敏行の病状を盛り込む。

クライマックスは、やはり見せ場の、新湊の夏祭りの多彩な夜景と賑わいをフルに見せるのだが、その背景では、国税庁の手配人のビートたけしが横町に控えていて、ドラマの構図としては立体感が生きる。

落ち武者の竹野内としては、逮捕される最後の花道として、この祭りの神輿を担ぐのが、せめてもの親友の供養と、故郷への感謝の気持ちだろうが、そこをさらりと見せた石橋演出は計算がいい。

ラストで逮捕されていく社長の背中も、あの高倉健さんの任侠映画のいつものラストシーンなのだが、祭りの賑わいとのバランスが、つい涙腺を緩ませてくれる。

あの昭和の任侠映画の心意気を底辺にした、地方復興のフィルム・コミッションのバックアップもよく効果的に活かされた人情映画として、あまり悪く言う気は、さすがに照れくさい。

 

■バットを折って持ち変えたミート打法で、ショート・オーバー。 ★★★☆☆

●全国東宝系で公開中 


『Mr.ホームズ*名探偵最後の事件』は、かなり旧来の雰囲気が滲んで、いい』

2016年01月26日 | Weblog

1月14日(木)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-008『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』" Mr. Holmes" (2015) AI films / Filmnation Entertainment / BBC films.英

監督・ビル・コンドン 主演・イアン・マッケラン <104分> 配給・ギャガ

何と、ランチを挟んでのシャーロック・ホームズ新旧二本立ての試写となったのも、試写室予約制によるアクシデントで、アタマは混乱のままだ。

しかし昼前に見たカンパーバッチの新解釈によるテレビ映画と違って、こちらはちゃんとしたシネマスコープによる、本格劇場公開用の作品で、安心して見ていられる。

あの「ロード・オブ・ザ・リングス」や「ホビット」などのシリーズに顔をだしている長老イアン・マッケランが、ここではリタイアしたシャーロック・ホームズを演じている。

すでに相棒のワトソンも他界して、93才になった彼はロンドン、ベイカーストリート221番地の有名な居住兼事務所から、いまではドーバー海峡に近い農園で養蜂を楽しみにしていた。

もちろん、コナン・ドイル原作のシリーズを離れて、ここではシャーロック老人も、家政婦ローラ・リニーと、その10才になる少年をアシスタントにしての悠々自適な生活なのだが、引退の原因となった事件にこだわっていた。

というのも、晩年に手がけていた事件の推理に思わぬミスがあって、それが未解決のままに引退生活をしていたために、彼自身でも割り切れない問題が、実は残っていたのだった。

それが、この複雑に絡む事件の謎の発端になるのだが、日本の「ゆず」の魅力と謎に興味を持ったホームズは広島を訪れて、真田広之の父との親交もあり、そのエピソードも絡んで来る。

シャーロック・ホームズの事件には、彼がドラッグの常習者でもあったのか、麻薬とか妖術とか、占いや予見など、とても普通の人間では対処できないトリックが、非常にランダムに潜むのだ。

だから当然、ストーリーの詳細はネタバレになるので書けないが、この過去の女性の事件も不妊による悩みから神経にトラウマを持ってしまったための倒錯が原因していた。

ビリー・ワイルダー監督の「シャーロック・ホームズの冒険」(70)では、その彼自身の精神的なコンプレックスから、非常にトリッキーなマジックのネタを面白おかしく見せていた。

おそらく時代的にも、あの70年代の時代感覚が、もっともホームズが推理の原点としていた発想の面白さを、具体的に解明していたが、この映画の感性も、あの時代の匂いがして嬉しくなった。

やはりパソコンやスマホになど頼らないで、自分の推理と脚で解決していくという、あの古典的な探偵さんの行動が、このイアン老探偵ホームズの根底にあって、その根性に、妙に共感したのだ。

 

■レフト寄りの守備の逆方向のライト線に流したクリーンヒット。 ★★★☆☆

●3月、全国ロードショー 


●『SHERLOCK・シャーロック*忌まわしき花嫁』の懐古趣味とモダーンな解釈。

2016年01月24日 | Weblog

1月14日(木)10:00 汐留<FS・3Fホール>

M-007『SHERLOCK/シャーロック*忌まわしき花嫁』" The Abominable Bride ( 2015) Heartswood Films Production for BBC 英

監督・ダグラス・マッキノン 主演・ベネディクト・カンパーバッチ <94分> 配給・KADOKAWA

なぜか名探偵シャーロック・ホームズの復活新作の試写が続けてあって、これは単なる偶然なのだろうが、今日はホームズのダブルヘッダー試写となった。

とにかく、いまやイギリスの若手人気役者としては超人気者になったカンパーバッチ君が、あの名探偵シャーロック・ホームズを演じるのだから、キョーミ津々。

何も知らずに試写会の椅子に坐って、頂いたパンフレットを読んで、これが2010年にイギリスのBBCテレビが製作していた<連ドラ>のひとつであることが判った。

で、これから、そのテレビドラマが、どう公開するのかは詳しくはワカラナイが、とにかく人気のシリーズだし、その中の1本と、製作の裏話などを添えて公開しようということらしい。

たしか先年にも、「ハウス・オブ・カード<野望の階段>」という、デヴィッド・フィンチャー監督のテレビ・ドラマのパイロット・フィルムが劇場公開されたが、あのケースと同じ。

ゾンビ・シリーズの「ウォーキング・デッド」も同様でスタートして、シリーズはレンタルビデオ・ショップなどで人気が出たというが、そのケースを狙っての緊急試写のようだ。

ロンドンの<ベイカー・ストリート221B>というのは、シャーロック・ホームズの自宅兼探偵事務所としては有名で、いまでも観光地として人気があるという。

その名所を舞台にして1895年の雪の夜に、古いウェディングドレスを着た花嫁の死体が発見されて、カンパーバッチのシャーロック・ホームズがワトソン教授と登場する。

これがアーサー・コナンドイルの原作なのかどうかは知らないが、この探偵の名推理で、時代を飛び越えて展開していく発想は、おそらくテレビドラマとしての発想展開なのだろうか。

ま、「信長コンチェルト」のように、いまは時代を超越していくドラマ展開に人気があるようで、このシャーロック探偵の推理も時差を無視したような奔放な面白さと言えなくもないが・・・。

とにかく、ビリー・ワイルダー監督の「シャーロック・ホームズの華麗なる冒険」のような、どこかノスタルジックな展開でもなく、これはまさに現代の見たシャーロック像なのだろう。

ヒットしたロバート・ダウニー・JRとジュード・ロウのシリーズは、いかにもハリウッド趣味だったが、こちらは本場のロンドンのテレビ制作だから、本物志向は強い。

多くのシャーロックが活躍した中では、ベイジル・ラスボーンのシリーズが面白かったが、このカンパーバッチ版も、自宅でワインなど飲みながら見るには、ま、面白いだろう。

 

■初球からのヒッティングで、打球がセカンドベースに当たりライトに転々、 ★★★☆

●2月19日より、期間限定でロードショー  


●『スティーブ・ジョブズ』が駆け抜けた疾風の10年間。

2016年01月22日 | Weblog

1月12日(火)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>

M-006『スティーブ・ジョブス』" Steve Jobs " (2015) Universal Pictures / Legendary Films

監督・ダニー・ボイル 主演・マイケル・ファスベンダー <122分> 配給・東宝東和

こうしてブログを更新しているのも、もとはといえばスティーブ・ジョブスの功績であり、彼の残したコンピュータの個人所有に残した偉業は大きすぎる。

1984年といえば、わたしはまだ会社員であって、文書はオリベッティのタイプライターで書き上げるのが常識で、映画の評論などもそれをファックス通信していた。

当時は、それですべてはOKだったし、巨大な電子機器のようなものは、会社の経理部が、給料計算に使っている程度だったのだが、ある日、がらりと様子が変わったのだった。

わたしは、個人的にはPCや、電子機器には興味がなくて、90年代の後半には、突然、デスクの上にPCが設置されて、会社員は全員が急遽、その研修のために通わされた。

あっという間に、会社の中はコンピュータ制御によるシステム化されてしまって、さっぱり訳のワカラナイPC関連の専門用語がはびこる様になり、時代の激変を知らされたのだった。

だって、デザインや色の配置は自分のアタマと手先で決定するものであって、当然、学生時代にはなかったシステムなので、わたしのように古風な趣味人とても信用できないのだった。

幸いにして、わたしは停年退職したので、デスクのPCとは会話も出来ないままに退職したのだが、さて、世間の様子もガラリと変化して、タイプライターによる原稿は遠慮させられた。

それからは、大きなかまぼこ型のワープロを買ったり、この映画のジョブスの影響で、マッキントッシュも買うことになり、アップルも、もうビートルズの時代ではなくなった。

さて、この映画は、その革命児のスティーブ・ジョブスのマッキントッシュ発表会から、驚異のアイマックス業界発表会までの、3大イベントを時代順で追ってみせるサクセス・ストーリー。

ま、いまや都会でPCを相手に仕事をしている人には、深い関わりを持っているマシーンは、あっという間に個人で使用するようになり、おまけにスマートフォーンも登場してしまったのだ。

これだけ、数年間の間に進化した業種もないだろうが、すべてはスティーブ・ジョブスのアタマの中から生まれたものであって、文句があろうがなかろうが、われわれは、その急変の時代にいる。

ある意味では「ソーシャル・ネットワーク」も、その時代の旋風に巻き込まれた青春だったが、この映画は、その嵐の張本人の苦労を描いて行くが、栄光とか名誉とは関係ないレベルの世界。

もしジョブスが生きていれば、ノーベル賞の対象になっただろうが、この映画は彼が全力疾走した1998年の<iMac>の発表会までの激変の時代の<苦いヒーロー>ジョブス氏を描いている。

たしかにマイケル・ファンスベンダーも変装の達人だけに、見事にスティーブ・ジョブスに化けているが、意外だったのは、サポートの女史を演じたケイト・ウィンスレットの変身ぶり。

これが女優としての、<役者根性>であって、この存在で、この映画のテーマが浮き彫りされていたようだ。

 

■いい当たりだが、意外に伸びのないセンター・ライナー。 ★★★☆

●2月12日より、109シネマズなどでロードショー 


●『マジカル・ガール』は日本の少女コミックの地獄マニアだった。

2016年01月19日 | Weblog

1月8日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-005『マジカル・ガール』" Magical Girl " (2014) Aqui Y Alli Films / Canal+ / Sabre Productions スペイン

監督・脚本・カルロス・ベルムト 主演・ホセ・サクリスタン <127分> 配給・ビターズ・エンド

なかなかスケジュールの組めない試写も、これでおしまいなので、エイヤーっと出かけたのは、どうも妖しい雰囲気の映画で、あのペドロ・アルモドバル巨匠が絶賛が気になる。

ダメもとで見たのだが、やはり、かなりの<曲者映画>であって、ジャンルで括るのは邪道だが、たしかに、あのスペインの巨匠が面白がったのはナットクできた。

判りやすく言うと、タランティーノがスペインで撮りそうな、かなり趣味的で、掴みどころのないようなクレイジーなダーク・ストーリーであった。

リタイアした初老のホセには、白血病の娘がいて、死期が近いので、彼女の夢だった日本の少女漫画のお姫様コスチュームを着せてやりたかった。

しかし金がないので、自分の蔵書を処分したが、まったく高額な衣装代の足しにはならないので、それでは、と宝石泥棒をしようとしたところが、頭上から汚物を浴びたのでキレてしまった。

窓から汚物を落としたのはブルジョアな夫人だったので、それをネタにシャツを乾かす間、階上の夫人の部屋に上がったが、それがもとで<昼下りの情事>となってしまった。

というような不測の展開は、おおお・・・正に往年の、フリッツ・ラング監督が得意のフィルム・ノワールの語り口で、「飾り窓の女』や「スカーレット・ストリート」と同じ切り口なのだ。

あとは、そこに怪しげな男たちや、金持ちたちが絡んで来て、かなりハイテンポでストーリーは地獄へと落ちて行く・・・という、ま、わたしは個人的には好みのノワール地獄。

しかしどうも、この日本の少女コミック・ファンの少女のマジカルな部分が忘れられがちになって、ドジな大人達の茶番劇が展開していくのは、これがアルモドバル系、と笑えなくもない。

ま、ストーリー展開を書いていたらキリがなくて、もし、ご興味のある方は、このあとのマジカル・ミステリーな地獄の決着まで、スクリーンでご覧になる方がいいだろう。

ラストで見せる少女の魔術のトリックが、どうも軽すぎたのが無念。しかし、まあ2時間を超える長尺を引っ張って行く監督の趣味性には、共感が持てたのだが・・・。

いかにもエスパニオールな感覚のノワール・コミックなので、その転落ぶりは笑えるが、やはり本格のノワールではなくて、おとぼけ感覚が滑ってしまっているのが惜しまれる。

 

■左中間に上がった長打ヒット性の当たりが、センター手前に落下。 ★★★☆

●3月12日より、ヒューマントラストシネマ有楽町などでロードショー 


●『偉大なるマルグリット』この愛すべき音程不安定な歌唱力。

2016年01月17日 | Weblog

1月7日(木)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-004『偉大なるマルグリット』" Marguerite " (2015) Fidelite / Mement Films / Canal+ France Televisions

監督・グザヴィエ・ジャノリ 主演・カトリーヌ・フロ <129分> 配給・キノ・フィルムズ

つい数年前に公開されたアカデミー主演男優受賞作『英国王のスピーチ』は、生来の<ドモリ>の性癖があったイギリス国王の苦悩を描いて話題になった。

この作品も、フランスではカリスマ性のあった人気歌姫マルグリットの実話で、多くのステージでオペラのアリアなどを唄ってたが、実は<音痴>であったのだ。

なぜまた、クラシック音楽の殿堂で唄うようなプリマドンナが、音程の狂ったような歌唱力で舞台に立てたのかが、この作品の見事なる説得力だろう。

1920年というから、ほぼ100年以上も昔の実話なのだが、フランス郊外の田園にあるデュモン男爵の豪華な邸宅では、恒例の慈善音楽パーティが催されていた。

本物のオペラ歌手などが見事な歌を披露したあとに、トリとして余興に登場したのが、この屋敷のオーナー夫人のマルグリットだが、さて、唄い出すとかなりのオンチなのだった。

招待客たちは、これは余興なのだし、多額の寄付金が集まるパーティなのだから、大いに湧いて、夫人のステージに拍手喝采。ま、酔客の余興としては雰囲気を和ませたのだ。

男爵は冒険家でもあって、日頃からの浮気の最中なので、このパーティはいつも遠慮して、オートバイに乗って遠方に出かけていたのは、妻の醜態を見たくなかったのだろう。

それを聞いた客の噂はとうとうパリの音楽家たちの耳にもとまる様になり、とうとうマルグリットのリサイタルまでが企画されて、前評判も上々な人気となった。

屋敷の執事で、いろいろと夫人の面倒を見ていた黒人は、いつも夫人のパートナーとして、ピアノの伴奏もしていたので、この<こと>の重大さに気が気ではない。

この執事を演じるデニス・ムプンガの存在が、実はこの映画の重要な視線になっていて、マルグリットのオンチは知りつつも、その歌手としての魅力をサポートしていたのだ。

つまり、このストーリーは実話だが、音楽性としては幼稚な歌唱を、マルグリットという女性の陽気な個性を引き出して、音楽そのものの情感の豊かさを活かそうとしていたのだろう。

だから、実話ながらテーマの持っているニセモノの魅力と、もともと音楽が譜面上の正確な再現力で評価されているという、現実のミュージックのあり方を、敢えて皮肉っているようだ。

カトリーヌ・フロは「女はみんな生きている」や「大統領の料理人」などで、いまやフランス映画最高の女優だが、彼女の<個性>の魅力が、このキワドいテーマを感動的に占めていて見事。

この微妙な音程の外し方に、拍手喝采、ブラボーだ。

 

■ライナーがファーストベースに当たって、ライトのファールラインを転々のスリーベース。 ★★★☆☆☆

●2月、シネスイッチ銀座などでロードショー 


●『シーズンズ*2万年の地球旅行』で示される人間中心の地球環境の変化。

2016年01月15日 | Weblog

1月7日(木)10-00 外苑前<GAGA試写室>

M-003『シーズンズ*2万年の地球旅行』" Les Seasons " ( 2015 ) Garatee Films / Pathe France 2 cinemas 仏

監督・製作=ジャック・ペラン+ジャック・クルーゾ <97分> 提供・GAGA+TBSテレビ

あの名作「Z」や「ニュー・シネマ・パラダイス」などの名優ジャック・ペランは、「WATARIDORI」の成功から、自然保護の記録映画を自ら作り出した。

ま、俳優の仕事よりも、大自然の変化を映画にするのが天命だと悟ったのだろうが、とにかく動物たちの視線で映画を撮ろうというコンセプトは立派であろう。

だから、いつもディズニーなどが手がけていた自然や動物たちの生態観察映画とはアングルが違って、基本的に動物目線でカメラを据えているのは面白く、しかも説得力がある。

今回は人間たちとの共存共栄関係で、その姿や使命に変化を遂げている小動物たちの生態を、歴史と自然の四季の変化などで追って行くという、かなり自然保護と学術的な視線で描いて行く。

オオカミが長い歳月で、ただの愛玩用のペット犬に変化していく様子や、大山猫が同じく家畜のキャットになったり、マガモだってアヒルになり、イノシシは食用のポークになってしまった。

もちろん、それは大自然の野性の動物たちが、人間たちの都会生活などの進化で、時代を経て変化していく様子を、例によって徹底的な自然界の観察で見つめて行くのだ。

従って、名作「WATARIDORI」のような、視覚的な意外性や、驚くような飛遊視覚は多くは見られず、あくまで三脚による自然な人間視線で、四季による人間界に関わる動物たちの変化を見つめる。

だから人間生活の都会化、近代化などの進化によって、どんどん愛玩化され、無力になっていく動物たちの<失われて行く野性>の姿を、この二人の監督のカメラは我々に人間たちのエゴイズムを説いて行く。

たしかに食用や、愛玩用として、多くの小動物たちは弱体化されていくが、しかしこれも人間を主体として続いていく地球上の、ある種の生存競争なのでもあろう、と、彼らは語る。

従って、「オーシャンズ」や、あの鳥たちの飛行と並んで飛んだという視覚的な感動は薄い作品になっているのは、ま、この映画の狙いとしては当然の成り行きなのだろう。

そこで、彼らは弱体化していく動物たちの現状を嘆いて行くのだが、ま、これも地球という惑星に共存していく、人間社会優先の歴史を、なるべく平和的な視線で助言しているのだろう。

だからこそ、これは若い世代にこそ認識してほしい、人間の知性をテーマにした作品として、古い言い草だが<文部省特選>というレベルの作品として見るべきだ、と思う。

 

■低めのシュートを三遊間に巧打のシングルヒット。 ★★★☆☆

●1月15日、つまり本日より、109シネマズなどでロードショー 


●『X-ミッション』は、あの「ハート・ブルー」のジョニー・ユタが暴れる!!

2016年01月13日 | Weblog

1月6日(水)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-002『X-ミッション・3D』" Point Break " (2015) Warner Brothers / Alcon Entertainment / DMG

監督・撮影・エリクソン・コア 主演・ルーク・ブレイシー <114分> 配給・ワーナー・ブラザース映画

いきなり、切り立った岩山の頂上のエッジを、オートバイで数人の男たちが駆け抜け、飛び回るという曲芸シーンで圧倒された、ことしの最初の試写。

ああ、またも「マッドマックス」の再来のような爆音とスピードが、フルスロットルで、こちらの視聴覚を撹乱する。

大きな3Dスクリーンを縦横に走るバイクには、恐らく監督がカメラをヘッドにつけての疾走だろうが、トソ気分の手前としては、またも酩酊の正月気分だ。

で、そのライダーが一緒に走っていた仲間に名前を聞かれて、ヘルメットを脱いで「おれの名前はジョニー・ユタだ」と言った瞬間、おおお。。と、目が覚めたようだ。

なになに、お前、ーー<ジョニー・ユタ>・・・といえば、あの2004年のキャサリン・ビグロー監督の快作『ハート・ブルー』のヒアヌ・リーブスの名前ではないか!!!

思わずジョークかと吹き出したが、試写室では誰も笑わないので、いきなり困ったが、そういえばタイトルの「ポイント・ブレイク」も、あの「ハート・ブルー」と同じなのだ。

でも、資料には、どこにも、あの傑作の12年ぶりのリメイクだとは書いていないが、その<ジョニー・ユタ>が、実はFBIの僣入捜査官だという設定もまったく同じで、それからも展開は似て来る。

あの「ハート・ブルー」は、もともとサーファー仲間の覆面強盗団だったのを、キアヌの捜査官が仲間入りして、その犯罪計画を当局に報告していたが、ここでは少々違う。

超高層ビルの大きな企業の金庫から大金を強奪して、パラシュートで脱出するという軽業を演じたギャングは、次々に離れ業の芸当を見せるのだが、必ずしも凶悪犯罪ではない。

その連中と親しく交流していくジョニー・ユタの行動は、まさに「ハート・ブルー」と同じなのだが、後半になってくると、犯罪というよりは、エクストリーム・スポーツの極意に迫るのだ。

輸送機からのパラシュートなしの落下、高い崖からの単独フライトや、凄まじい激流下りや、直角の絶壁登りなど、・・・あのトム・クルーズも辞退するような冒険の連続にめまいが起きる。

それでもユタ捜査官は、そのスポーツ連中の犯罪の核心に迫るべく、命がけのチャレンジを繰り返すので、後半はあの「ハート・ブルー」とは別のターゲットを模索していくのだ。

主演のルークは好青年だが、キアヌのような甘いスター性がないので、とにかくスポ根丸出しに、超危険な曲芸スポーツの3Dアクションには目が回った。お疲れ様でした。

 

■セカンドの頭上を抜けた当たりが、センターでバウンドを変えて、脚のツーベース ★★★☆☆

●2月20日より、新宿ピカデリー他でロードショー 


●『クリード*チャンプを継ぐ男』の意外なロッキーのガン治療への決断。

2016年01月11日 | Weblog

1月5日(火)11-25 二子玉川<109シネマズ・5スクリーン>

M-001『クリード・チャンプを継ぐ男』" Creed " (2015) MGM Pictures / New Line Cinema / Warner Brothers film 

監督・ライアン・クークラー 主演・マイケル・B・ジョーダン 製作・助演・シルベスター・スタローン <125分> 配給・ワーナー・ブラザース映画

さて、新春第一弾の映画が近場のシネコンで、はからずもこれになったが、実は昨年の試写は、もうスタローンのボクシング映画はいいや、とパスしていた。

ところが、ゴールデングローブ賞で、スタローンが助演男優賞にノミネートされるは、試写室仲間の評価も意外に「いいよ」というではないか。

もうデ・ニーロとのご老体同士でのボクシング映画「リベンジ・マッチ」で、ああスタローンもネタ切れだなーーと思っていたので、完全に無視していたのが甘かった。

これはリタイアしたロッキーのところに、ラストゲームで激闘したアポロの、腹違いの男の子がいて、そのガキがボクシングをやりたい、と彼の店にブラリやってきた。

ま、しょうがないので、近所のジムに連れて行って、一応グラブでスパーリングをしてみたら、おおお、このガキには素質がありそうだ、と一目おいたのが前半。

どうせ苦戦して、イギリスのタイトル保持チャンプとのゲームが、ラストの見せ場になっているんだろう、と軽く流して見ていたら、おっと、後半は人間ドラマになったのだ。

というのは、実はスタローンには臓器のガンが見つかっていて、彼は化学治療のキモを拒否していたのだったことが、思わずマイケルにバレてしまう。

絶大の信用をしていたコーチの闘病を心配して、教え子のマイケルは、父親との出生の秘密を告白して、スタローン・コーチの徹底的な化学治療の延命手術を説得する。

そのシーンで、意外やスタローンは自分の人生を語り、これ以上、薬物で寿命を延ばそうとはしない心情を語る長いワンショットで、何と涙を浮かばせてしまったのだ。

これには、こちらも思わずホロリとしたが、やはりワンショットでの演技で、自分の涙を自然に流すという演技は、そう簡単に誰でも出来る芝居じゃないが、それを彼は見せたのだ。

それからは、抗がん剤の薬物障害で、髪の毛や眉は薄くなり、頬もこけてしまい、あのランボーも遂にガンには勝てないか・・・という壮絶なバトルがリングと同時に展開していく。

という次第で、弟子のボクシングをサポートする感動映画かと思っていたら、意外に骨のある人間ドラマであって、ラストの、あのピッツバーグに長い階段で、ロッキーが息切れしてしまうのだ。

いずれ人間は年老いて、40年前には、一気に駆け上がったあの長い階段が、もう登れなくなったシーンには、正直、「おつかれさま」と、声をかけたくなった。

 

■レフトが後逸したスキにサードまで走ったが、タッチ・セーフ。 ★★★☆☆☆

●全国でロードショー中