細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●5月に見た試写ベスト3

2010年05月31日 | Weblog
●5月の試写ベスト3

1/『セラフィーヌの庭』監督/マルタン・プロヴォスト 主演/ヨランド・モロー ★★★★☆
  小間使いで薄幸な画家セラフィーヌが、次第に狂気の世界に堕ちて行く美しくも哀しい転落。

2/『フェアウェル/さらば、哀しみのスパイ』監督/クリスティン・カリオン
  主演/エミール・クストリッツァ ★★★★
  ソビエト連邦の崩壊を早めたKGBスパイの夢と友情。そのギャップの哀しくも厳しい現実。

3/『彼とわたしの漂流日記』監督/イ・へジュン 主演/チョン・ジェヨン ★★★☆☆☆
  絶望の果てにソウルの橋から身投げした青年は、漢江の中州に漂着して不思議な幸福を見つける。

●その他の傑作は、大爆笑の『ゾンビランド』とアガサ・クリスティの『華麗なるアリバイ』でした。 

●『アイアンマン・2』の破壊力は映像と音響過剰でストレスにもなる。

2010年05月29日 | Weblog
●5月28日(金)13-00 神谷町<パラマウント映画試写室>
M-064 『アイアンマン・2』The Ironman 2 ( 2010)paramount
監督/ジョン・ファヴロー 主演/ロバート・ダウニー・Jr ★★★☆
マーヴェル・コミックの人気キャラクター、アイアンマンは企業の社長でありながら、自ら開発したスーパーパワーで、またしてもモンテカルロ・ラリーを粉砕した、巨大なテロリズム悪と闘う。
1作目では、その人間的なギャップに悩んでいたので、多少は共感部分もあったが、この2作目ともなると、そのようなドラマ性はなく、ひたすらロシア人科学者のミッキー・ロークが仕掛ける遠隔妨害に翻弄される。
よりゲーム感覚がエスカレートして、よりトランスフォーマーされた巨大破壊ロボットが暴れ回るので、もうこちらの視聴覚も限界となる。
まさに破壊美学に陶酔しきったクレイジー映像の暴走が続く。
これでは、せっかくの美貌グイネス・パルトロー、スカーレット・ヨハンソンなどのきれいどころも壮絶なバトルの陰で存在感もない。
あのスーパーマンや、バットマン、そしてスパイダーマンなどの単純なマーヴェルの、古風な時代がかった懐かしいコミック感覚が懐かしい。お疲れさまでした。

■ファールを連発した挙げ句にセカンド正面のライナーでアウト。
●6月11日より、日比谷スカラ座などでロードショー

●『アデル/ファラオと復活の秘薬』のイディオットな暴走ぶり。

2010年05月27日 | Weblog
●5月26日(水)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-063『アデル/ファラオと復活の秘薬』The Extraordinary Adventure of ADELE blanc-sec (2010) europe corp 仏
監督/リュック・ベッソン 主演/ルイーズ・ブルゴアン ★★★
ベッソンはハリウッド的な秘宝発掘ものと、怪獣もの、それに女傑コメディなどをミックスしたサイレント映画へのオマージュを心がけたのだろうか。技術は新しいが古風な低俗ドタバタに終始する。
その荒唐無稽ぶりには呆れ果ててしまった。
確かに「ハリー・ポッター」や「インディ・ジョーンズ」などのレベルを意識したCG大会はいいとして、演出がまったく古風で笑えない。三馬鹿兄弟も形無しだ。
妹の命を取り戻すために、古墳のミイラたちをパリに連れて来て、オカルトな儀式を始めたりすると、冒険映画から妖怪ものとなり、ラストはなぜかタイタニック号に乗船。
その破天荒ぶりには閉口してしまった。
あのトリュフォーの「アデル」も、これには失笑だろうな。

☆ファーストへの平凡なライナーでアウト
●7月3日より、丸の内ピカデリーなどでロードショー

●『フェアウェル/さらば哀しみのスパイ』とリバティ・バランスを撃った男。

2010年05月25日 | Weblog
●5月24日(月)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-062 『フェアウェル/さらば哀しみのスパイ』L' Affaire Farewell (2009) nord quest 仏
監督/クリスチャン・カリオン 主演/エミール・クストリッツア ★★★★
ソ連の解体を早めた80年代に、モスクワを舞台に実際にあったスパイ事件の映画化だ。
いわゆる冷戦の時代。ソ連の核兵器を含む軍事力は、西欧諸国の脅威だった。
KGBの幹部だったエミールはパリなどの西欧文化にあこがれて、フランス人のセールスマンに土産品の見返りに、軍事秘密のメモを託すようになって、彼らの交流は家族や友情を伴ったものになった。
ふとユル・ブリンナーが亡命した傑作『エスピオナージ』を思い出させるような、繊細で真摯なドラマとして進行し、ハリウッドのスパイ映画にありがちな銃撃やカーチェイスなどはまったくない。
このことが本格的なスパイ活動の地味な緊迫感を底流にしていて、実に興味深い。
些細なことから彼らの関係が疑われてからの、急速な捜査の展開はちょいとしたノワール感覚で、とくにフランス人家族の国外脱出はサスペンスがある。
ジョン・フォードの映画『リバティ・バランスを撃った男』の決闘シーンがインサートされ、時のレーガン大統領が『視線が変われば真実も違って見える。わたしもフォード監督からの出演オファーがあったけど、実現しなかったよ』と語るシーンが事件のリアリティを裏づけている。清楚な佳作だ。

■左中間を深く破った技ありのスリーベース。
●7月31日より、渋谷シネマライズでロードショー

●『ゾンビランド』は恐怖と爆笑の西部劇風のアミューズメント・パーク。

2010年05月21日 | Weblog
●5月20日(木)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-061『ゾンビランド』Zombieland (2009) columbia
監督/ルーベン・フライシャー 主演/ウディ・ハレルソン ★★★☆☆☆
何しろゾンビ映画史上最大のヒット作品というだけに、勢いが凄まじい。
タイトルの前に、いきなりゾンビ社会で生き残れる32の条項を実践して見せるから、一気にそのクレイジーな世界に引き込まれる。要するに新型ウィルスに感染したアメリカを、未開拓のゴミ化社会に見立てた西部劇。
ウディは生き残りのガンマンで、引き蘢り学生と女学生を引き連れて殺戮の旅路にでるのは、ジョン・ウェインの「勇気ある追跡」に似た設定。
問答無用でゾンビたちをぶっ殺して行くゲーム感覚は、タランティーノも喜ぶだろう。
修羅場をアミューズメントのテーマパークに仕立てるというラストまで、この壮絶なゾンビ殺しは治まらない。
大画面でビデオゲームを楽しむ発想も、ここまでやればお見事というしかない。
ハリウッド伝来のB級映画魂に乾杯だ。

■豪快なライナーがフェンスで逆方向にころがり、あれれのスリーベース。
●7月24日より、ヒューマントラスト・シネマ渋谷などでロードショー  

●『彼とわたしの漂流日記』は奇妙で美しい恋のサバイバル。

2010年05月19日 | Weblog
●5月18日(火)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-060 『彼とわたしの漂流日記』Castaway on the Moon (2009) cinema service 韓
監督/イ・へジュン 主演/チョン・ジェヨン ★★★☆☆☆
自殺志願者と引き蘢り女性の恋はひょんなことから始まった。
あの傑作「ヨコズナ♥マドンナ」のイ監督だから着想が面白い。
世間に絶望した青年は、ソウルの漢江に身投げしたのだが、気がつくと中州の無人島に漂着。自然保護地区なので、そこには誰も来ない。しょうがないので自活を始めた。
それを対岸の高層マンションから見ていた引きこもり3年の女性は、高性能カメラで月の観察だけが生き甲斐で外にでない。
携帯もパソコンもない不思議な出会い。彼女はビンにメモを入れて、深夜の橋から島に投げ、彼はメッセージを砂に書く。まさに古典的な、しかし心の通じる恋の始まりだ。
滑稽だが哀しく、美しい寓話である。秀逸な発想の傑作ファンタジーに喝采。

■サードベースに当たったゴロがファールグラウンドを転々。おかしなツーベースヒット。
●6月19日より、新宿バルト9などでロードショー


●『バウンティ・ハンター』は締まりのない元夫婦の痴話喧嘩。

2010年05月18日 | Weblog
●5月17日(月)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M-059 『バウンティー・ハンター』The Bounty Hunter (2010) columbia
監督/アンディ・テナント 主演/ジェニファー・アニストン ★★☆☆
懸賞金つきの犯罪者を、独自の捜査で捕まえるのがバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)といって、西部劇の時代には『裸の拍車』や『許されざる者』のように、多くいた。最近ではあのデ・ニーロの『ミッドナイト・ラン』は傑作だった。ハリウッドでは歴史的に傑作の多いコメディ・カテゴリーだ。
今回は別れた元夫婦が追いつ追われつの関係なので、『Mr. and Mrs.スミス』のように面白くなるかと期待したのが、シナリオもダレるし、演出もブレるし、手がつけられない乱調が治まらないのだ。
ジェニファー・アニストン主演だが、もともとB級のプログラム・ピクチャーを狙ったのだろうが、夫婦関係はBでも、ドラマはA級にして欲しかった。
なにしろ肝心の主演カップルが泥臭く魅力減退、連続される元夫婦喧嘩にも面白さが持続しない。逃亡と捜査の展開にもアイデアがないので、一向にしまらないまま。
所詮、夫婦とは喧嘩する関係。喧嘩中で会話のない若いカップルにはお勧めだ。
『夫婦喧嘩は犬も食わぬ』というが、これでは猫も閉口するだろうなーーー。

■ボテボテのセカンドゴロで哀れ併殺。
●7月10日より、新宿ピカデリーなどでロードショー

●フランク・シナトラ/没後13回忌記念パーティ。

2010年05月16日 | Weblog
●5月15日(土)14-00 高田馬場<カフェ・アルバート>
『フランク・シナトラ没後十三回忌パーティ』

5月14日の読売新聞夕刊でも大きく紹介された、歌手フランク・シナトラの十三回忌を記念して、シナトラ・ソサエティ・ジャパンが例年のように集合。5月の命日と、12月の誕生日は多くの同好の会員が集まってくる。これはシナトラの消えない人気もあるが、いまでも秘蔵の新譜が発売されたり、復刻のCDが再三プレスされて発売される人気の背景もある。
シナトラ・グッズに囲まれた、会場の<アルバート>が狭い為に、ネット予約のメンバー優先にもかかわらず、30人を越えるファンが集まって大変な盛会だった。
お好みのドリンクに、志保沢ママさんがお手製のカナッペとシナトラ家伝来のパスタで、店内は満員電車状態になったが、熱心なメンバー達はテレビ場面のシナトラ・ショーの映像を肴にして、十三回忌を祝った。
例年のように、盛り上がった面々は、渋谷の<アゲイン>に席を移動して、夜は自慢のシナトラ・ソングを唄って熱いファンの友情を分かち合ったことだろうが、拙者は失礼して、早めに退散した。

●『ラスト・ソング』は甘すぎた青春メロドラマ。

2010年05月15日 | Weblog
●5月14 日(金)13-00 目黒<ウォルト・ディズニー試写室>
M-058 『ラスト・ソング』The Last Song (2010) touchstone 米
監督/ジュリー・アン・ロビンソン 主演/マイリー・サイラス ★★★
「きみに読む物語」のニコラス・スパークスがマイリーのために書いたストーリーだというので、楽しみにして見たが、これは多感な青春期ギャルの家族の問題を満載した平板な盛り合わせ定食。
やたら問題は提起しているが、すべてにフラットな青春ドラマになっている。
バラバラな家族をビーチハウスに呼んだ父は末期ガン。それとは知らない娘のマイリーはジュリアード音楽院の推薦入学も拒否して、離婚した父に辛く当たり散らす。
設定は「海辺の家」と似ているが、すべてが温厚に処理しようとする父のストレスで病状も突然悪化。それを契機にマイリーの心境も静まって行く。しかしドラマは段取りのままで、やたらと甘いポップスがバックに流れて来るのが、作品を軟弱に見せて残念だ。
主役のマイリーに魅力を感じないのが致命傷。
デイトムービーとしては、そこそこ泣けるかもしれないが、ホームドラマとしては甘すぎた。

■グレッグ・キニアの送りバントで、かろうじてセーフ。
●6月12日より、新宿バルト9などでロードショー

●『華麗なるアリバイ』は愛と情欲の争奪殺人ミステリー。

2010年05月13日 | Weblog
●5月12日(水)13-00 築地<松竹試写室>
M-057 『華麗なるアリバイ』Le Grand Alibi (2008) sofica UCG 仏
監督/パスカル・ポニゼール 主演/アンヌ・コルシエ ★★★☆☆
アガサ・クリスティ原作の「ホロー荘の殺人」の映画化だが、名探偵ポワロは出ない。
例によって、パリ郊外の議員の別荘に招かれた数人のゲスト達は、表情には出さないが、それぞれに過去がある。従って主役のいない群像サスペンスとなる。
客の精神科医師がプールサイドで銃殺され、ピストルは夫人が持っていたが、銃弾は別の拳銃から撃たれていた。彼には浮気相手がいて、その女性もゲストとして来ていたが、過去の女もなぜか同席。
いかにもクリスティ・ミステリーの世界。女性同士の謎めいた視線が交錯する。
今回は密室ドラマではなくて、刑事の捜索も絡み、意外に戸外でのシーンが多かったのが嬉しかったが、犯人をラストまで知らせないための無理な構成が目立って、ドラマとしての厚みや意外性は少ない。
あのジャック・ドミ監督のご子息が、記憶喪失の情緒不安定ないい味を出していた。
たしかに、浮気と女性問題が主たるテーマなので、事件の鍵は情欲のみで深みははないが、ちょっと気晴らしのお手軽ミステリーとしては、午後の紅茶の苦味はあった。

■サードが後逸したゴロをレフトもお手玉して、幸運なツーベース
●7月、Bunkamuraル・シネマでロードショー