細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ジェニファーズ・ボディ』は学園型のゾンビ・ホラーだったのか。

2010年06月30日 | Weblog
●6月29日(火)13-00 六本木<FOX試写室>
M-076 『ジェニファーズ・ボディ』Jennifer's Body (2010) fox atomic
監督/カリン・クサマ 主演/ミーガン・フォックス ★★☆☆☆
アメリカ中西部の学園の美女ジェニファーが、どうやらヴァンパイアのようなのはいいが、この田舎町の怪談を描くにはヒロインをひとりに絞るべきだった。
あの傑作「JUNO/ジュノ」のディアブロ・コディのシナリオは、その友人の視線で書かれているのに、監督の余計な判断で、その親友のウェイトが多くなり、映画として煩雑なスリラーになったのが残念。
結局は、「ワイルド・シング」のような、女子学生の異常な高揚した心理状態が「トワイライト」をもっと悪趣味にしたような青春地獄映画にしてしまった。
殺しのシーンでのアイデア・ショットもあるものの、あまり有効ではなく、過剰な殺害シーンと派手なロックンロールは、やりすぎると醜悪になる。
殺した男の内蔵は食べるわ、汚物を口から吐くわ、これってやっぱりジェニファーはウルフではなく、ゾンビだったのかナ・・・。
制作のアイヴァン・ライトマンも、きっと女性スタッフ陣の勢いの悪どさに、発言を控えて、やる気をなくしたのだろう。

■当たりは悪くないが、ショート正面の凡打。
●7月30日より、TOHOシネマズ みゆき座などでロードショー

●『ベスト・キッド』北京でのリターンマッチは技ありの一本勝ち。

2010年06月29日 | Weblog
●6月28日(月)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
M-075 『ベスト・キッド』The Karate Kid (2010) columbia
監督/ハラルド・ズワルト 主演/ジェイデン・スミス ★★★☆☆
あのウィル・スミスの親ばか子煩悩で作ったようなリメイクなので、半信半疑で見たのだが意外にいい。
それはカンフーの教師にジャッキー・チェンを脇役として起用して、本格的に北京でロケされたことが、ただのスポ根サクセス映画の悪習を消して、好感のもてる「いじめ撲滅映画」としてまとまっているからだ。
とにかく過去の不幸を背負った中年男ジャッキー・チェンの謎めいた存在感がいいのだ。
過去に交通事故で妻と息子を失って落ち込んでいた彼は、シングルマザーと共に中国に移り住んで来た黒人少年の孤独がよくわかる。そのカンフーレッスンを通じた師弟関係が、「キル・ビル」よりは情感を込めてスケッチされ、その異文化コミニケーションと、少年の成長過程が、すこぶる楽しげに描かれて行く。
「ロッキー」のカンフー少年ものとして、勝ち点はゲットしている。

■スライスのきいたライトへの痛打が微妙にバウンドしてフェンスまで。
●8月14日より、新宿ピカデリーなどでロードショー

●『イエロー・ハンカチーフ』劇場プログラムより。

2010年06月26日 | Weblog

『幸福は、待てば家路の日和あり』
  <幸福とイエローの色彩的な関係>      細越麟太郎(映画評論家)

 ひとの帰りを待つということは、愛の重大な課題だが、むしろ多くの戦争で家族に課せられた愛情の
テーマだった。あの『哀愁』(40)では駅で恋する将校の帰りを待つ踊り子ヴィヴィアン・リーの人生の
夢は、非情な母親の誤報によって一変した。
 しかし我々は彼女が<待っていた>ことを知っているので、その愛の無情に感動し涙した。
 名作『かくも長き不在』(60)では、待ち続けた妻のところに戻った夫は戦傷で記憶を喪失していた。
 『第三の男』(49)の墓場でのラストシーンで、男はじっと女性が長い道を歩いてくるのを待つ。これ
も愛情表現なのだが、彼女は平然と彼の前を歩き去る。彼女は死んだ第三の男を愛していたからだ。
 その点では『HACHI/約束の犬』(08)の場合は、人間よりも忠実無垢な老犬が、主人の死も知らない
で、いやもしかしたら知っていたのに、あの雪の降る駅前で待ち続けるという無償の献身に涙が出たのだ。
 「絶対に死なないでください。いつまでも帰りを待っています」と高倉健に言ったのは『昭和残侠伝/死ん
で貰います」(73)の藤純子だったが、任侠映画では定番のシーン。こうして昔の女性はいつまでも愛する
男の帰りを待つことで、相手への愛情の深さを伝えたが、しかし長い空白のあとに出獄した男には、むかしの
愛の確証に自信はない。とくにストイックな男たちの話である。
 だから人は<待ち続ける>という忍耐には不安を持つ。愛情とは忍耐のこと。不変のもの。しかしそれは判
りきった美談。長過ぎる空白には不安も生まれて当然だ。現実には愛にも賞味期限はある。
 絶対に愛は不変だと論じるのは、ロマンティックすぎる詩人だけだろう。
 ピート・ハミルの原作は、この<待つこと>への不安をベースにしている。負い目の犯罪を犯した上に、長い
投獄の間にふたりの愛情は色あせて消滅したのではないか、というマイナーな責任感だ。
 この失われた勇気を元気づけたのが、ふたりの若者の支えだった。
 <勇気><知性>そして<ハート>は、人間の健全な人格の支えなのだが、その三つの原則をハミルの原作は
ロードムービーの形で感動的に書き分けてくれた。しかしこれはアメリカの伝説的な教訓でもある。

 お気づきの事だろう。
 このストーリーは、L・フランク・ポームの原作で、ジュディ・ガーランドが<オーバー・ザ・レインボー>
を唄ったあの名作『オズの魔法使い』(39)の現代への伝承なのだ。
 妻の待つ家路への旅。その道連れのパートナーとなった若者は、彼らも未熟で心に隙間のあるふたりだった。
 青年には思慮という基本的な<知性>が欠けていた。若い女性には家族への温かい<ハート>が欠けていた。
そして出獄した男には妻の待つ家に帰る<勇気>が欠けていた。
 この三人が旅をする道は、あの名作で少女ドロシーがライオンやブリキ人形と歩いた<イエロー・ブリック・
ロード>であった。その黄色いレンガの道を辿れば、必ず幸福な<ホーム>に帰られる。
 エルトン・ジョンも唄ったように、イエロー・ブリック・ロードは幸福なホームへの帰路なのだ。
 アメリカでは、聖書の次に読まれている家庭の法典であって、この原作を知らない子供はいないという。それ
だけ有名な人間形成の教科書であって、マイケル・ジャクソンの『ウィズ』(78)でもニューヨークの道路を
イエローに塗り替え、ミュージカルにリメイクされた。
 つまり<幸福のイエロー・ブリック・ロード>へ向かう心の支えとして、道路のセンターラインも、すべての
スクールバスも、イエロー・キャブ・タクシーもイエローに塗られているのである。
 だから、家の近くに黄色い目印のハンカチを掲げるのは、当然の幸福へのサインなのであった。
 現在、またこの『オズの魔法使い』は3D大作としてハリウッドではリメイクされるという。


●『終着駅/トルストイ最後の旅』とアンソニー・クイン。

2010年06月25日 | Weblog
●6月24日(木)13-00 神谷町<ソニーピクチャーズ試写室>
Mー 『終着駅/トルストイ最後の旅』The Last Station (2009) sony classics
監督/マイケル・ホフマン 主演/ヘレン・ミレン ★★★☆☆☆
気になることがあって、また試写を見た。
確かに情感あふれるカメラワークと、演技陣の計算されたパフォーマンス、そして時にエモーショナルな演出の冴えがあって飽きさせない。
偉人伝説というよりは、それを支えた悪名高い賢妻の存在感が圧倒的に作品を支えている。
言いたいことは言い、通じないものには行動で示す。そして引きときは引く。
ヘレンの演技が、サンドラ・ブロックよりも勝っていたことは見れば判る。
エンディング・クレジットにアンソニー・クインへの謝意が出た。
これは、恐らく最初の段階で彼にトルストイ役のオファーがいき、ある段階までの準備は進行していたのだろう。
彼がもし他界しなかったら、どんな映画になっていたか。
それを想像しながらクリストファー・プラマーの名演技を楽しんだが、おそらくヘレンのリアクションも違っただろう。
人生で、人間関係をやり直すこともできないことだから。

●左中間を深々に破ったスリーベースヒット。
●秋、日比谷シャンテシネなどでロードショー

●『最後の忠臣蔵』のストイックなサムライ美学。

2010年06月23日 | Weblog
●6月22日(火)13-00 内幸町<ワーナーブラザース試写室>
M-074『最後の忠臣蔵』<2010>角川映画
監督/杉田成道 主演/役所広司 ★★★☆☆☆
ごぞんじ忠臣蔵。池宮彰一郎原作、赤穂浪士の意外な秘話である。
あの四十七士の討ち入りには、特命を受けたふたりのサムライがいた。
当時、大石内蔵助には隠し子がいて、その養女を育てることを命じられた瀬尾は、討ち入り前日に姿を消した。
あれから16年の時が流れ、その美しく育った娘が晴れて呉服問屋に嫁ぐ日、赤穂浪士の真実を遺族に伝える命を受けていたもうひとりの朋友が偶然再会する。
ワーナーブラザース映画日本代表のウィリアム・アザートンが製作しているだけに、四季の変化や日本の風土の美しさには細心の美意識が見られる作風は、好感が持てる。
しかし一貫した静寂したドラマも、任務を遂行したサムライには、最期の激しい決着が待っていた。
「わたしはサムライですからね」と呟く瀬尾の表情が複雑だった。
この決断を美とするか、どう受け止めるかで、この作品の評価は分かれるだろう。
わたしは任侠道映画には共感するので、その覚悟はできていた。

●強いレフトライナーが意外に延びてフェンスまで届くツーベース。
●12月18日より、丸の内ピカデリーなどでお正月ロードショー

●『レポゼッション・メン』移植臓器の使用期限を過ぎると殺されますよ。

2010年06月18日 | Weblog
●6月17日(木)13-00 半蔵門<東和試写室>
M-073『レポゼッション・メン』Repossession Men (2009) universal
監督/ミゲル・サポチ二ク 主演/ジュード・ロウ ★★★☆
発症した臓器を人工的に取り替えて、延命している近未来。
高額な手術代金を延滞したひとは、取り立て専門のレポゼッション・メンに殺される。
その殺し屋のジュードも陰謀で心臓を入れ替えられ、組織から命を狙われる。
まるでマイクロチップを脳に隠されてスパイに狙われたジェーソン・ボーンと同じ設定。
タイトルバックにペレス・プラードのマンボが流れたり、ジュリー・ロンドンの「クライ・ミー・ア・リバー」がドラマの鍵になったり、演出センスは中々だが、話は平凡。
最近のハリウッドは、組織から追われる男のパターンが定番だ。
とにかく滞納者の臓器を取り出す作業が多いので、外科手術執刀医アクションの連続なので、血だらけなスプラッター映画も負ける。長生きするのも大変なのだ。

●滞空時間の長いショートフライ。
●7月2日より、日比谷みゆき座などでロードショウ

●『トラブル・イン・ハリウッド』の本当のトラブルは笑い事ではない。

2010年06月16日 | Weblog
●6月15日(火)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-072 『トラブル・イン・ハリウッド』What Just Happened (2007) 米
監督/バリー・レビンソン 主演/ロバート・デ・ニーロ ★★★☆
ハリウッドのプロデューサー、アート・リンソンの体験手記をもとに作られた現在の映画界。
内幕暴露映画かと思ったが、驚くような真実はなく、これによって、いかに今のハリウッドが産業として不調なのかが、よく判る皮肉なコメディだった。
身勝手な人気俳優。自説を曲げない監督。商売本意のスタジオ。
幼稚なわがまま集団の集まりでは、いい映画は出来っこない。その心情を吐露しているところが哀しい。
ハリウッド全盛の時代には、制作と監督を兼ねた大物が巨匠といわれ、作品を統率した。いい時代だった。
それが今では、自由契約システムで。それぞれが勝手を言う。
たしかに現実はこうだろうが、『悪人と美女』や『イヴの総て』、『サンセット大通り』などの名作は、それを土台にした優れたドラマ性があった。しかしこの映画には、ハリウッドの地滑り的な崩落を自虐しているような諦めが流れている。自分を冷やかして楽しんでいる感覚だ。
映画通にはこのシニシズムも味があるが、一般的には退屈な人間模様だろう。
それにしても、名優デ・ニーロにショーン・ペン、ブルース・ウィリスも出たのに、単館公開も哀しい。

■止めたバットに当たったボールがピッチャーの後方に落ちたポテンヒット。
●9月5日より、渋谷シネマ アンジェリカで公開。

●『シルビアのいる街で』の迷宮にはまった恋の幻影。

2010年06月15日 | Weblog
●6月14日(月)13-00 築地<松竹試写室>
M-071 『シルビアのいる街で』Dans La Ville de Sylvia (2007) スペイン
監督/ホセ・ルイス・ゲリン 主演/グザヴィエ・ラフィット ★★★☆☆
6年前に別れたシルビアの姿を求めて、フランス東部の古典的迷路の街ストラスブールをさまよう青年の視線。
まるで短編映画のような簡潔で妄執に満ちたラブストーリーで会話はない。
あまりにも個人的な視線で描かれて行くので、ロマンティックというよりはニューロティックな異色作だ。
非常なほどのカメラの長まわしと、揺れるフォーカスで、かつての彼女の姿を求めて、むかしのカフェなどを徘徊する発想はヌーベルヴァーグっぽい。これは恋愛ドラマというよりは、ラブソングの歌詞のようにとりとめもなく詠嘆的で内肖的だ。
それが好きなひとにはいいが、オーソドックスな対話ドラマを期待すると、いつまでも乗り切れない話。
結局は6年も前の幻影を追い続ける夢遊病者のような映画でもある。
時折、ちらりと見せる醜女のカットなど恐ろしい。やはり恋の迷路はよく見えないのだろう。

■ゴロがセカンドベースに当たって野手の反対方向に、幸運なヒット。
●7月下旬、渋谷イメージフォーラムでロードショー。

●『パラレルライフ』の惜しまれた暴走。

2010年06月11日 | Weblog
●6月10日(木)13-00 西銀座<東映本社試写室>
M-070 『パラレルライフ』Parallel Life (2010) C J Entertainment 韓
監督/クオン・ホヨン 主演/チ・ジニ ★★★
アメリカのリンカーン大統領の暗殺から、ちょうど100年後の同じ日にJFKが暗殺されたが、このふたりはほとんど同じ人生悲劇だった。ナポレオンとヒトラーも似たような敗退だった。
これは歴史の偶然だが、パラレルライフ(平行理論)という考えでは<運命的必然>なのだという。
その仮説をもとに、過去の事件を調べていた若い判事は、彼の妻が殺害されたのは、こうした平行理論が再現されているという考えに悩まされる。もしそうだとすると、自分と娘も殺される日が近い。
面白い発想のミステリ・サスペンスだ。
しかし、「マイノリティ・レポート」もどきのせっかくのアイデアも、通俗ハリウッド風の過剰なサウンドと突飛な演出で情緒がなく、ストーリーを無理にパラレルライフで決着させようという焦りもあって、後半はドタバタになった。カメラはいいが編集が自己満足なのだ。
運命回帰の「リインカーネーション」と同じ展開なのだから、もっと冷静な演出だったら・・・・と、惜しまれた。

■いい当たりのレフト横へのヒットも、セカンドを焦ってタッチアウト。
●7月24日より、シネマスクエアとうきゅう他でロードショー

●『キャタピラー』の凄惨な介護戦争の果て。

2010年06月10日 | Weblog
●6月8日(火)15-30 銀座<TCC試写室>
M-069『キャタピラー』Caterpillar (2009) 若松プロ/日
監督/若松孝二 主演/寺島しのぶ ★★★☆
今年のベルリン国際映画祭で、銀熊賞(最優秀女優賞)を寺島しのぶが授賞した話題作。
戦争中に戦場で負傷して両手両足、そして言語障害まで背負った夫が帰還した。
勲章は貰ったものの、その日の食事にも困っている農村の妻は、ほぼ植物人間のような、生きたダルマともいえる夫の介護に忙殺され、困惑する。
食べること。寝ること。そしてセックスと排泄。これしか生きていてやることはない。
まったく、希望や未来もない、暗黒の現実。これも戦争被害なのだ。
とくに、妻や家族の絶望感は、戦死の報よりも辛いのがわかる。
若松監督は舞台劇のように、悲惨な夫婦の日常を淡々と描いて行く。とくに悲劇的なドラマ性を強調した描写はないが、この異常な生活はそれだけで強い反戦のメッセージではある。
アラン・コルビの秀作『かくも長き不在』では、記憶を喪失した夫が戦地から戻って、妻は絶望した。
たしかに『ジョニーは戦場に行った』のような、もどかしい気持ちは募るが、あえて今、こうして反戦を詠うならば、わたしはもう少しストイックな側面の方が見たかった。

■痛烈なライナーだが、惜しくもショートのファインプレーに阻まれた。
●8月15日より、テアトル新宿などでロードショー