細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『お嬢さん』の甘い微笑と愛液には猛毒が潜む。

2017年01月30日 | Weblog

1月26日(木)12-30 六本木<アスミック・エース試写室>

M-010『お嬢さん』" The Handmaiden ( Agassi ) " (2016) CJ Entertainment , Moho Films / Yong Films All Rights Reserved.

監督・パク・チャヌク 主演・キム・テリ、キム・ミニ <145分・シネマスコープ> 配給・ファントム・フィルム

イギリスの作家サラ・ウォーターズ原作のベストセラー「荊の城」上下篇をベースにして、1939年の日本統治下の朝鮮半島を舞台にした壮絶な情欲地獄にして描く長編韓国映画。

なにしろ「このミステリーがすごい!」で第一位の原作を、あの傑作「オールド・ボーイ」のパク監督が異国ものにアレンジしたとなると、これはミステリー・ファンとしては必見だ。

おそらくは原作のイメージは、あのヒッチコックの名作「レベッカ」のように、大富豪の豪邸に嫁いだ後妻のような、まさに別世界への人間関係の軋轢と欲情の逆流に揉まれるドラマ。

日本語が話せるという利点で、この大富豪の屋敷に雇われて来た小間使いの少女キム・テリは、想像を絶するような屋敷の広さと、その贅沢さと住人の異常さに驚いてしまう。

そして徐々にその屋敷の異常な設計サイズや、部屋の異様さとか廊下や階段の複雑な仕掛けに、この大きな屋敷が、ひとつの城塞のような仕掛けに満ちていることに恐怖していく。

という具合で、前半ではその異様な巨大屋敷と、そこに住む日本人家族の奇怪なセックス生活ぶりを描いて行くのだが、さてさて、その後の展開は、がらりと<女中>の本来に任務が見えて来る、という具合。

タイトルのように、<ハンドメイデン>というのは、そのものズバリの<侍女>のことで、ブニュエル監督の「小間使いの日記」のような視線からの凝視アングルとなっていくのだ。

長い映画だが、そのストーリー展開は、おそらく原作もそうであろうように、そのチャプターの変化のように、視点のポイントが変わり、次第に、女中の視線が基本になっていくのだ。

例えは極端だが、敵国の秘密機関に僣入した囮捜査官のような、一種、インファーナル・アフェアの「メイド版」という感じで、趣味的には、ワクワクものなのだ。

・・・という勝手な想像をしてしまったのが、わたしの甘さであって、たしかに想像を越える当時の日本人富豪の生活様式と、その呆れるような傲慢さは、見ていて徐々に不快になってくる。

それにも増して、日本人富豪を演じている伯爵のハ・ジョンウと、その叔父のチョ・ジヌンに加えて、主役のお嬢様のキム・ミニたちが、一様にたどたどしい日本語で演じるのが歯がゆい。

恐らくは予算の関係とイメージの疎通のために、片言の日本語を話せる韓国人俳優を起用したのだろうが、この歯がゆい不快感は困ったもので、ハリウッドの二世日本人俳優の演技のように朴訥。

一緒に見た試写室の友人は「それを気にしたら、この映画は面白くないよ」というのだが、どうもその基本的な日本人同士の会話が気になって、下手な翻訳芝居を見ているような違和感に戸惑う。  

ま、そのストーリーは長編小説のように、見事に再三逆転してゆくので、当然に<ネタバレ>なので書く訳にはいくまいが、ミステリー・ファンなら想像するようなオチになっていく。

 

大きく上がった滞空時間の長いレフトフライだが、意外に伸びずに前進の外野フライ。 ★★★

●3月3日より、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー 


●『セル*CELL』を見ると、使用中のスマホの電池切れも恐怖になってくる。

2017年01月28日 | Weblog

1月25日(水)13-00 築地<松竹本社3F試写室>

M-009『セル*CELL (2014) Benaroya Pictures / International Film Trust / 120dB Films / Cargo Entertainment

監督・トッド・ウィリアムズ 主演・ジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソン <98分・シネマスコープ> 配給・プレシディオ

かつて<クロスオーバー・ジャンル>の摩訶不思議なB級ムービーが流行した時代があって、これは久しぶりに出現した奇怪なる<誇り高きB・ムービー>だろう。

もともと原作がスティーブン・キングなのだから、「キャリー」、「シャイニング」から「ミスト」などに展開する恐怖世界は、一種の超自然な怪奇現象がテーマなので、覚悟が必要だ。

場末の見窄らしい小さな映画館で、このテの映画を見るのは、あのクウェンティン・タランティーノ監督が、まだ学生時代にアルバイトしていた深夜映画館的なイメージが濃厚。

最近はメジャーな<立派な>映画が、爽快なシネコンで見れるので、かなり美しい仕立ての作品が主流になったが、おおおーーまだ、このテのB級怪奇映画が居残っていたのか、実に懐かしい。

しばらくぶりのジョン・キューザックも、中年の別居亭主で、久しぶりに妻のいるニューハンプシャーの田舎に行こうと、ボストンの空港で、ケータイ電話したがバッテリー切れでプツン。

映画の原名の<セル>は、個室とか、電池とか、いろいろな意味があるが、この作品ではケータイの電池切れが超現象のきっかけになっているので、<セルフォーン>というケータイのことらしい。

幸か不幸か、キューザックのケータイが電池切れで息子との通話がキレてしまい、彼は空港内の固定電話を探すのだが、そのときに<超現象>が起こり、周囲のケータイ中の多くの群衆が発狂。

凶暴になって人を殺したり、ロビーのテラスから飛び降りたり、とうとう、搭乗する筈のジャンボまでが勝手に離陸してエアポートの待合室に突っ込んで来る・・・というパニックになる。

大混乱の最中にも、キューザックは周囲の混乱と、ゾンビ化した群衆を避けて逃げ出して、とにかくトイレなどの安全なところに逃げ込むが、それでも発狂した群衆が押し寄せて来る。

まさに「ウォーキング・デッド」や「バイオハザード」のような地獄のなかを、どうにか地下鉄の構内に逃れて、そこで電車の車掌のサミュエル・J・ジャクソンと知り合い、一緒に逃げることになる。

あとはご存知の<地獄の逃避行>で、群衆化したゾンビの群衆がふたりを追いかけて来るので空車で目的地への恐怖のドライブ・・・という展開は、あああ、またも変態ゾンビ映画のパニック状況。

おそらくスティーブン・キングとしては、激増した<ケータイ人間>から、<スマホ・ゲーム>に興じる大衆のゾンビ化を皮肉った原作なのだろうが、ま、どうぞ、お好きな方はどうぞ。

 

■サードゴロを野手が暴投したが、返球でタッチアウト。 ★★☆☆

●2月17日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズなどでロードショー 


●『マリアンヌ』は、懐かしい疑惑の恋とサスペンスの、上質スパイ傑作。

2017年01月26日 | Weblog

1月18日(水)13-00 半蔵門<東宝東和映画試写室>

M-008『マリアンヌ』"Allied " (2016) Paramount Pictures All Rights Reserved 

製作・監督・ロバート・ゼメキス 主演・ブラッド・ピット、マリオン・コティアール <124分・シネマスコープ>配給・東和ピクチャーズ

昔から、あの「誰が為に鐘は鳴る」「陽のあたる場所」「ローマの休日」など、非常に上質なドラマを作って来た老舗パラマウント映画が、久しぶりの娯楽的な風格を見せた。

このところの業界不振で、自社での配給が困難になり、むかしはヨーロッパ映画の配給をしていた<東和映画>が、ユニヴァーサルと、このパラマウント映画を配給するご時世。

わたしの青春時代には、このふたつのビッグにはファンクラブもあって、わたしも大学生のころには、この両社の<友の会>に所属していて、いろいろとお世話になった。

あのヒッチコック監督や、ダニー・ケイやシャーリー・マクレーンとか、「カサブランカ」などのプロデューサー、ハル・B・ウォリスと会って、雑談をしたのも、あのクラブの恩恵だった。

それが、こうしてひとつのグループで、東和映画の試写室で<パラマウント映画>を見る・・・というのは、勝手な話だが、複雑な心情も正直あったのだ。  

さて、そのパラマウント映画のマークの山の向こうに太陽が登るファーストシーン、で、太陽が昇り、その目前をパラシュートの男が空から下りて来て、そのままカメラはパンダウン。

そこは砂漠で、パラシュートの男は戦闘員らしく、手早くパラシュートをたたむと、そこにジープが来て予定していたように乗り込むと砂漠の果てに消えて行く・・・というワンショット。

この見事な5分ほどのサイレントシーンの密度の高さに、まずは感服したが、そのジープが着いた街は、あの北アフリカはモロッコの「カサブランカ」の雑踏。

マスクを取ったパラシュートの戦闘員はブラッド・ピットで、ものも言わずに一軒の「リックのカフェ」のような店内で、いきなり機関銃を発砲してドイツの軍人たちを殺すのだ。

現地の義勇軍のパルチザンたちの協力を得て、突然の奇襲は成功して、連合軍のピットは、潜伏していた女スパイのマリオンと会い、ふたりは意気投合して恋に落ちて行く。

ま、クーパーの「モロッコ」や、ボギーの「カサブランカ」を知っているオールド・ファンには、あああ、懐かしい時代の、戦渦の恋が再現されて、クラシック映画の雰囲気に酔ってしまう。

しかし、後半は、その妻となったマリオンが、実はドイツ側の逆スパイの<マタハリ>ではないか・・・という情報が耳に入り、ピットはその真実が掴めずに悩む・・・というサスペンス。

まるでフリッツ・ラングの「外套と短剣」や、ウィドマークの「国際秘密諜報員」のように、ラストでは友軍の輸送機で脱出することになるが、その先は<ネタバレ>なので書くまい。

とにかく密度の濃いゼメキスの演出と、コティアールの好演で、2時間の恋とサスペンスは、まさに4、50年代の名作を彷彿とさせるような情感で、久しぶりに興奮した。

 

■ガツン!と一発、懐かしやバックスクリーンへの直撃弾。 ★★★★☆☆☆

●2月10日より、全国ロードショー 


●『ドクター・ストレンジ』のカレイドスコープ映像マジックには目眩する。

2017年01月24日 | Weblog

1月16日(月)13-00 虎ノ門<オズワルド(ディズニー)試写室>

M-007『ドクター・ストレンジ』" Doctor Strange " (2016) Marvel Studio / Walt Disney Studio Presents

監督・スコット・デリクソン 主演・ベネディクト・カンパーバッチ、イジョフォー・モルド <115分・シネマスコープ>配給・ウォルト・ディズニー・ジャパン

タイトルだけ知った瞬間、あのキューブリック監督の奇作「博士の異常な愛情」の<ドクター・ストレンジラブ>の再来か!!!、と期待したが、まったく無関係。

あの「ドクター・ジバゴ」も、「ドクター・ドリトル」も関係のない、ただのニューヨーク、グリニッチヴィレッジ在住の、独身で自信過剰な神経外科医だ。

天才的な<神の手>によって、とてもやっかいな脳内手術でも、BGMのサウンドを手術室に流し、鼻歌まじりに執刀してしまうところは、ウィリアム・ハートの「ドクター」並みだ。

ところが自分の運転する高級スポーツカーで深夜に事故を起こしてしまい、一命はとりとめたものの両手はもう元に戻らず、名医としてのプライドも失われてしまった。

絶望の果てに、彼はチベットのカトマンズの山奥にあるという、修道僧のもとを訪ねて、絶望からの復帰を願って高僧の勧めで謎めいたスキンヘッドの女性魔術師に会い厳しい修業を受ける。

というような話は、実はハリウッドの好きなテーマで、過去にもフランク・キャプラの名作「失われた地平線」や、ブラッド・ピットの「セブン・イヤーズ・イン・チベット」などがあった。

西洋人にとっての東洋奥地の異教徒になる修行は、またまったく別の人格を作る様で、このドクター・ストレンジも厳しい異文化修行で「ストレンジ・マジシャン」に変貌していくのが後半。

ところがそのマジシャンの世界にも、当然のように異教の悪党マジシャンがいて、ドラマは急にパースペクティブな視界までが異常に歪み出して、まさに<天変地異>な映像になっていく。

たしか渡辺謙も出た「インセプション」でも、天地がひっくり返ったり、左右の景色がシンメトリーになったり、とにかくマジック特殊映像のビジュアルだから、七転八倒の世界なのだ。

個人的には映像遊戯は嫌いではないので、このニューヨークの摩天楼が多面鏡の覗きメガネのカレイドスコープに化けてしまうのも、ま、視覚的には面白いのだが、目が回る。

女性ユル・ブリンナーのようにスキンヘッドのティルダ・スウィントンは、魔術のビジュアルで悪役マジシャンの闇の魔力と対決していくので、後半は回転式のジェットコースター状態。

やっとストレンジラブの魔術が邪宗のマジックを制して、エンドクレジットが終ると、あれれ・・・あのキャプテン・アメリカが出て来て、ドクター・ストレンジと次作の相談だ。

ま、どうせ<マーヴェル・スタジオ>のことだから、ワーナー・ブラザースの<スーパーマンとバットマン>の共演に対抗しての、次作の特殊撮影の相談なのだろう。

 

■バントと見せかけてのトリッキーなバスター・ヒットで、まんまと判定セーフ。 ★★★

●1月27日より、全国ロードショー 


●『ボヤージュ・オブ・タイム』で特殊カメラで魅せる大自然の驚異とナゾ。

2017年01月22日 | Weblog

1月16日(月)10-00 五反田<イマジカ3F・第一試写室>

M-006『ボヤージュ・オブ・タイム』" Voyage of Time : Life's Journey " (2016) Imax Documentary Films Capital / Knights Documentaries

監督・脚本・テレンス・マリック 製作・ジャック・ペラン、ブラッド・ピット 語り・ケイト・ブランシェット <90分・ビスタサイズ> 配給・ギャガGAGA

珍しく、五反田のイマジカ3Fの試写なので、あとでGAGAの小さなスクリーンで見るよりは、デカい方がいい、・・・という狙いで、早朝に駆けつけた。

この地球上の神秘は、過去にも多くのドキュメンタリー映画で紹介されたが、ここにきて、また映像解像力と再現の技術が革新的に進化して、当然、映画としての魅力も刷新されている。

一般の街頭などや店内の監視カメラの普及で、このところ市街地での窃盗やセックス犯罪も減少しつつあるというが、それは監視カメラそのものの驚異的な普及と、その解像力なのだという。

いまや我々は、どこにいても監視カメラで見られているというのは、ちょっと不気味なことだが、この映画の視点の進化は、そうした映像の解像力と顕微鏡的な画像の新鮮さだろう。

しかも最近は<ドローン>による飛行撮影技術と、信じられないような内視鏡の視点での映像再現が可能になったので、この映画のように過去にも見た自然現象が、ミクロの再現力を見せる。

あの「WATARIDORI」などのドキュメンタリー監督で俳優のジャック・ペランと、今回はブラッド・ピットなどの協力で組まれたプロジェクトを、テレンス・マリックがまとめた映像世界がこれ。

まるで、あの「ツリー・オブ・ライフ」での人間同士の乾いた情愛の映ろいを、ここでは見慣れた筈の対象物を、新しいミクロのレンズ解像力に、ドローンでの飛行技術を加えて見せて行く。

とくに火山の火口にカメラを入れて行くという発想は、まるで人間の心臓の内部に内視鏡カメラのような解像力で入っていく勇気は、とてもディズニーの時代には考えられなかったことだろう。

しかも潜水艦でも潜れない深海でさえも、見た事もないような生物の生態をアイマックス・カメラによって大スクリーンで見せる、という作業は、確かに興味をそそり続けるビジュアル。

そこに「母よ・・・」という、名優ケイト・ブランシェットのナレーションが重なる・・・というのは、正に大自然の生態と、人間の好奇心を<詩>で綴る・・・という英知の贅沢なのだ。

スコセッシや、スピルバーグや、コッポラという、あの黒澤明学校の映像の達人たちが、みな口を揃えて絶賛しているのは、まさに<映画>というシステムの進化と、その映像の驚異だろう。

とくに火山の火口に入る映像では、地震のようなとどろきでシートが振動する体感は、さすがは<イマジカ>のサウンド再現で、その体感にはシビレてしまう。

しかし、多くの深海や火山の映像には目を見張るのだが、どうもそこに人類の先祖である裸の狩人たちを見せるのは、あの「2001年宇宙の旅」の冒頭のようで、これは如何なものか??

 

■大きな左中間への飛球だが、意外に伸びずにフェンス上部に当たる。 ★★★☆☆+

●3月、TOHOシネマ六本木ヒルズ他でロードショー 


●『ウィーナー*懲りない男の選挙ウォーズ』には、さすがにトランプも呆れた。

2017年01月20日 | Weblog

1月13日(金)13-00 渋谷・映画美学校2F<ユーロライブ試写室>

M-005『ウィーナー*懲りない男の選挙ウォーズ』" Weiner" (2016) Sundance Serects / Edgeline Films / Tribeca Film Institute

監督・ジョシュ・クリーグマン、エリ-ス・スタインバーグ 出演・アンソニー・ウィーナー <96分・ビスタサイズ> 配給・トランスフォーマー

試写の回数が少ないので「ウィナー(当選者)」のドキュメンタリー映画かと思い駆けつけたが、よくパンフを見たら「ウィーナー」という落選候補者の実録映画。

トランプの本拠地ニューヨーク市の市長選挙に立候補したアンソニー・ウィーナーは、以前にヒラリー・クリントンの側近と結婚したという話題のナイスガイ。

おそらく、このドキュメンタリーは、彼のもしやの当選を睨んでの企画として、ちょっとハンサムでお調子もののウィーナーには、ま、選挙活動のサポートになると思ったのだろう。

2013年のニューヨーク市長選に立候補したのも、ヒラリー人気に便乗しての発想かもしれないが、連邦下院議員だった経験も活かして、その饒舌なスピーチでの出馬は話題となった。

ところが私生活では、いろいろとセックス・スキャンダルもあり、美人なワイフには離婚訴訟を起こされて、自身のチープな下ネタ騒動でも、かなりのお騒がせ議員だったらしい。

このドキュメンタリーは、そのお調子議員の、選挙活動とお粗末な私生活とを、2013年の選挙活動に同行してスケッチしたもので、ま、<リアル・コメディ>のような軽さなのだ。

当のウィーナー議員としても、自分としては一応ハンサムだし、口八丁な議員人気もあるし、ヒラリーの大統領選挙の人気に便乗して、おそらくは当確のつもりの選挙戦だったのだろう。

ところが、いざ選挙戦争となると、どこでも相手候補のあら探しをして、足の引きずり合いが始まるのは、あのヘンリー・フォンダの佳作「最後の勝利者」のように熾烈で滑稽なのだ。

一応はトランプや、オバマ大統領のジョークのようなコメントもあるが、この映画を見ている感じでは、ま、下院議員がいいところで、とてもニューヨーク市長の<器>ではない。

その辺は、このドキュメンタリーの製作サイドも察知しての取材なのだろうが、とにかく<軽い人物>なので、見ていてドラマ映画の転落を見ているようで、事実とは思えない。

そこが、もしかしたらこの映画の狙いだったのだろうし、<敗者の転落>を見ている面白さはあるが、現実はもっと熾烈で残酷な選挙戦だったであろうことは予測できる。

という意味でのヒラリーのまさかの敗退の原因も、このウィーラー落選の亀裂が些細な原因になっていたのかも・・・と察すると、面白いドキュメントでもあるが・・・。

 

■ゴロがサードの頭上を越えて、セカンドを狙ったがレフトの返球でアウト。 ★★☆☆

●2月18日より、渋谷イメージフォーラムでロードショー 


●『王様のためのホログラム』のセールスは砂漠のテントで待ちぼうけ。

2017年01月18日 | Weblog

1月13日(金)10-00 築地<松竹本社3F試写室>

M-004『王様のためのホログラム』" A Hologram for The King " (2016) Play Tone / X Filme / Silver Reel / Lotus Entertainment.

監督・脚本・トム・ティクヴァ 主演・トム・ハンクス、トム・スケリット <98分・シネマスコープ> 配給・ポニー・キャニオン

今や止まらぬ勢いの人気者トム・ハンクスは、ここ最近でも「ハドソン川の奇跡」、「インフェルノ」に、この作品と、1年足らずの間にも3本も公開されている。

たしかに油の乗り切ったキャリアだが、中年のクライシスでアタマは薄くなるし、腹はダブついてきているが、そこは役柄の変化を役者根性で演じ分けているのは、さすが。

勇気あるジェット旅客機の機長や、天才的な知能の歴史学者などのスーパー・インテリのあとは、ここでは左遷された哀れな離婚セールスマンという、いきなりの転落キャスト。

大手自転車メイカーの取締役をリストラされた中年のトムは、新しいIT関連の職場の慣れない<3Dホログラム>という通信システムを売り込みに、なぜかサウジアラビアにやってくる。

妻には逃げられ、財産も自宅もなくした彼は、娘の学費を工面すべく、まったく未知の砂漠都市に、まったく知識のない<3Dホログラム>という新製品の売り込みという苦難。

数人の若いエンジニアも、砂漠の中に用意された大きなテントの隅っこで仕事をしていて、トムはといえば、消息の転々と変わる国王のアポイントを取る為に日々砂漠を迷走しているのだ。

48年のビリー・ワイルダー監督の「皇帝円舞曲」では、やはりビング・クロスビーが、ビクター社の携帯レコード・プレイヤーをセールスするためにオーストリアの王室に売り込んだっけ・・・。

あの作品では、さすがビングは、その皇室の王女のハートまでをゲットするという凄腕を見せたが、このトムはそんな余裕も野望もなく、ひたすらサウジの国王との商談を待つのみという悲惨。

どうして、トムが、このダメ親父の役を引き受けたのかは不明だが、やはり旧知のティクヴァ監督との「クラウド・アトラス」での仕事の借りが、何かあったのかもしれない。

本来は、コメディ感覚のあるトム・ハンクスの演技力を活用したかった作品の狙いなのだろうが、どうも監督には喜劇的なセンスが足らずに、まさに国王の帰還を待つだけの<待ち時間>。

<魔法のランプ>か<空飛ぶカーペット>でも売り込むのなら、サウジの国王も時間を作るのだろうが、<3Dホログラム>の売り込みでは、こちらもあまり乗り気になれないのだ。

というワケで、あのジャック・レモンなら、この窮地で面白いアイデアを持ち出すのだろうが、連作のトム・ハンクスはお疲れで、ベッドでゴロゴロしてばかりでは、・・・困った。

 

■ボテボテのイレギュラー・サード・ゴロで、一塁寸前でアウト。 ★★☆☆

●2月10日より、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー 


●『アイヒマンの後継者』は、あなたかも知れない、という疑問。

2017年01月16日 | Weblog

1月11日(水)13-00 築地<松竹本社3F試写室>

M-003『アイヒマンの後継者*ミルグラム博士の恐るべき告発』" Experimenter " (2015) Magnolia Pictures / Bleiberg Entertainment / B.B. Films

監督・脚本・マイケル・アルメレイダ 主演・ピーター・サースガード、ウィノナ・ライダー <98分・ビスタサイズ> 配給・アット・エンターテイメント

あの<ナチスの狂犬>とも言われた、第二次大戦中のユダヤ人捕虜大量虐殺の張本人のアイヒマンに関しては、つい最近も「アイヒマンを追え」という傑作が登場した。

恐らくヒトラーよりも、最近でも映画ネタとして注目されている戦争犯罪人で「アイヒマン・ショウ」という映画までが最近公開されたほど、いまだに<人気もの>だ。

この作品は、なぜ「アイヒマン裁判」などでも暴露された、いかにも小心で個性のない当のアイヒマンが、あれほどの残虐な大量殺人を強行したのか、という異常心理を探ろうとする。

 アイヒマン裁判の行われた1961年のこと、まるで二重人格のようにイメージを異にする人間心理の構造の秘密を探ろうと、アメリカのイエール大学では実験が行われていたのだ。

自身がユダヤ人の血を引くアメリカの社会心理学者スタンレー・ミルグラム博士は、どのようにしてあの<ホロコースト>のような地獄が、現実に起こりえたのか、というナゾを究明。

その単純なゲームのような、対人質問実験には、ごく普通の人間同士の、単純な質問に対しての回答の選択で、6つぐらいある回答の中から選択するが、もし間違うと電気ショックが課せられる。

はじめは軽い電気ショックだが、不正解が続くと電流のボルトが上げられてゆき、そのショックは大きくなっていくが、焦り出した回答者は、単純な間違いを連発するようになっていく。

最終的には気絶してしまうのだが、それはあくまで実験なので、人命に関わるものではないにしても、対象者の心理がどんどんと追いつめられて行く焦りは、この実験で見分けられたのだ。

その弱者の、受け身な心理の低下していく経緯については、ハンナ・アーレントが実証して、それも最近映画になったが、この実験では加害者である質問者の躊躇も実証されていく。

つまり、この人証実験で、おそらくアイヒマン本人も、殺人鬼的狂人ではなくて、ごく普通の人間だったのではないか・・・という推察が、ミルグラム博士の<告発>となっていくのだ。

真実とはいっても、これはかなり不思議な映画であって、ドラマというよりはドキュメンタリー映画の感触を持っていて、エンターテイメントとは言いにくい異色な映画。

最近では「荒野の七人」のリメイク・ウェスターンの「マグニフィセント・セブン」にも出ているピーター・サースガードは、例によって無表情で地味な博士を演じていて、暗い。

わたしは苦手だが、会社の社長とか、リーダーのポジションにいる御仁には、人間心理のコントロール術のベンキョーになるかもしれない。

 

■ストライクはファールして、結局はフォアボール。 ★★★

●2月25日より、新宿シネマカリテなどでロードショー 


●『ラ・ラ・ランド』は、ハ・ハ・ハリウッドへのミ・ミ・ミュージカル讃歌。

2017年01月14日 | Weblog

1月11日(水)10-00 外苑前<GAGA試写室>

M-002『ラ・ラ・ランド』" La La Land " (2016) Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.   

監督・ダミアン・チャゼル 主演・ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン <128分・シネマスコープ> 配給・GAGA

つい先日の、ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門で、最多7部門でのノミネートで、その総てでの7冠受賞は快挙だ。

というニュースの後なので、当然のように試写の1時間前に出頭して、開場の30分前の寒空に立ちっぱなしで待つのを覚悟で行ったら、さすがGAGAさんも察知。

すぐに試写室に入れてくれたのは多謝だったが、やはり、いつもの開場時間の前には、すでに試写室は満席という異常なホット状態は、やはりこの作品の前評判の高さだろう。

いきなりロサンゼルス・フリーウェイの渋滞状態で、たまりかねたドライバーたちは放送のラジオの音を上げて、イライラ解消に車のボンネットや屋根に上って踊り出した。

それはクレーンのワイドレンズでは100人を越える色とりどりの衣装の若者たちで、晴れたロスの明るさに冴えて、いかにもミュージカル映画のオープニングにはピッタリ。

ま、実際のブロードウェイ・ミュージカルなどや、あの「ウェストサイド物語」をご承知の方には、たしかに嬉しい派手な幕開け花火で、ついつい嬉しくなってしまう。

売れない映画ライターのライアンと、売れない女優の卵エマの出会いから、いろいろと別れたり、また会ったりの、いかにもラブ・ストーリーの展開は「サンセット大通り」以来のパターン。

ライアンはジャズピアニストを目指しているので、ポップなサウンドには興味ないし、ガールフレンドのエマも、がらがらの場末シアターで冴えない演技を繰り返している。

それでも映画スタジオのオーディションには、カフェのアルバイトを抜け出しては、せっせとチャンスを伺っている日常で、これもよく見る、あの名作「女優志願」のような展開。

しかし、おいおい、中盤から、あのグラミー賞のポップスター、ジョン・レジェンド(!!!)が絡んでからは、冴えなかったライアンのミュージック・シーンが突然光り出す。

とにかく名曲「オール・オブ・ミー」以来の大レジェンド・ファンの当方としては、こうしてスクリーンに彼の演奏が展開するだけで、☆は増やさざるを得ないのだ。

ストーリーや音楽構成、カラー処理などは、あの名作「シェルブールの雨傘」と実によく似た同じストーリー展開で、オールドファンには懐かしい気分になるし、不平はない。

しかも恋人たちの日々を、四季の移り変わりで見せるのは、天国のジャック・ドミーが見たらクレームをつけるかもしれないが、ま、そんなケチな話はやめたほうがいいだろう。

 

■ライトのポールを巻いたスタンドインで、テレビ判定でホームラン。 ★★★★☆+

●2月24日より、全国ロードショー 


●『沈黙・サイレンス』はスコセッシ監督の夢の映像的なコンフェッションか。

2017年01月12日 | Weblog

1月6日(金)10-00 飯田橋<角川映画試写室>

M-001『沈黙/サイレンス』" SILENCE" (2016) A I Films / Sharpsword Films / Catchplay / I M Global / Fabrica de Cine.

監督・マーティン・スコセッシ 主演・アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニースン <138分・ビスタサイズ>・配給・KADOKAWA

1988年に来日して、黒澤明監督の『夢』の製作の際に、この遠藤周作の原作「沈黙」を知り、さっそく映画化を思いついたというスコセッシ監督の新作。

という次第で、「ギャング・オブ・ニューヨーク」以来、10数年ぶりの新作が日本での製作作品ということもあって、試写室は朝早くから満席という前評判だ。

イタリア系ニューヨーカーのスコセッシ監督が、このキリシタン弾圧のテーマを選んだのかは、やはりあの「最後の誘惑」からのキリスト教に関する使命感からなのだろうか。  

あの生けるキリストの悩みを描いたのも、1988年の黒澤の「夢」の製作をした年で、おそらく「沈黙」の映画化に関しては、そのときの<出会い>があったからだろう。

17世紀、江戸時代の初期、ポルトガルの宣教師のアンドリューが、当時、マカオから密航してキリシタン弾圧の非常に厳しかった長崎地区で棄教したといわれたリーアム司祭の真実を知るために密航。

長崎は禁教の弾圧が厳しくて、外海地区のトモギ村という貧しい漁村に辿り着き、そこで窪塚洋介扮する密通者の情報を頼りに、隠れ家のような教徒の集会に出て情報を集めて行く。

タイトルが「サイレンス」ということもあって、映画はアンドリューが漁村のキリシタンの情報を頼りに、行方の判らないリーアム神父を探す、という一種サスペンス映画のタッチだ。

久しぶりにメガホンをとったスコセッシ監督は、もともとは映画の仕事ではなくキリスト教の宣教師になりたかったというので、このテーマは彼の、心の<夢>だったのだろう。

陰湿な九州の海岸地区の集会小屋や地下や岩窟の隠れ集会場を転々としていく展開は、まるでダークなサスペンスで、まるでゲシュタポ追求のスパイ映画。

かなり原作と、歴史的な事実に忠実に描こうとしているスコセッシの誠意が感じられる演出は重厚で、大島渚監督の時代劇なども参考にしたような危機感が緊迫していく。

ナガサキの宗教検査官のような、謎めいた通訳のような侍の浅野忠信が、その重苦しさを消すような軽妙な人物を演じていて、この飄々とした存在が、この映画の重苦しさを救っているのはありがたい。

貧しく厳しい弾圧の捜索行のようなドラマは、あのスティーブ・マックイーンとダスティン・ホフマン共演の「パピヨン」での逃避行を思い出したが、ラストではリーアムがドラマを締める。

高倉健と仕事をしたかった・・と言っていたスコセッシ監督は、このナガサキの慇懃な代官の役を、もしかしたら健さんで・・と、考えていたのでは・・・と思ってしまった。

 

■レフト線ギリギリの強いゴロがフェンスを走り、ツーベース。 ★★★☆☆

●1月21日より、全国ロードショー