細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『ここに幸あり』のグルジア的ノンシャラン楽天主義

2007年09月29日 | Weblog
●9月28日(金)京橋<メディア・ボックス試写室>
M-120 『ここに幸あり』Jardins en Automne (2006)
監督・オタール・イオセリアーニ 主演・セブラン・ブランシェ ★★★☆☆
アフリカの小国大使だったセブランは、ある日、なぜか大臣を首になった。
パリのアパートは追い出され、田舎の農家には不法滞在の外国人が大勢住んでいた。
カミさんは恋人と逃げ、おふくろさんには追い出される。
晴天の霹靂とはこのことで、晴天の放浪を強いられた中年男の悲劇である。
しかし、グルジア出身の監督は、大陸的な楽天主義で一気に茶化してしまう。
この逆境の明るさは、あくまでジャック・タチ感覚の裏焼きで、したたかなブラック・ジョークだ。
騒々しいドタバタ・コメディのも独特の風刺があり、乱雑なカリカチュアも重さがある。
あまり面白がれないのは、わたしの心の狭さなのか。???

●『ブレイブ ワン』法律のグレイゾーンで復讐を実行する方法。

2007年09月28日 | Weblog
●9月27日(木)13-00 日比谷<ワーナー試写室>
M-119 『ブレイブ ワン』The Brave One (2007) warner brothers
監督・ニール・ジョーダン 主演・ジョディ・フォスター ★★★☆☆☆
ニューヨークの夜、セントラルパークで犬の散歩をしていたカップルが暴漢に襲われた。
男は死亡、そのフィアンセのジョディは瀕死の重傷を負って3ヶ月の入院。
退院しても後遺症でラジオのパースナリティの仕事もうまくいかない。
それはフィアンセを殺された怒りよりも、取り締まりや捜査が緩慢な警察の対応にもあった。
悩んだ末に、彼女は単身でリベンジを実行する。
もちろん法律では許されない。
クリント・イーストウッドは『アウトロー』で復讐したのは西部劇の時代だ。
勤勉な刑事テレンス・ハワードは別の事件の捜査をしながら、彼女の行動を察知する。
要するにジェーソン・ボーンのようなストーリーを、女性がひとりで実行することの、合法的な側面を丁寧に描いているのが、ただのアクション映画とは違うポイントだ。
フィルム・ノワールの資質を持ちながら、そうならないのは、美学よりも合法に執着したせいだろう。

●『マイティ・ハート/愛と絆』身重なワイフの強い愛の証明

2007年09月26日 | Weblog
●9月25日(火)13-00 東銀座<U.I.P.試写室>
M-118 『マイティ・ハート/愛と絆』A Mighty Heart (2007)paramount vantage
監督・マイケル・ウィンターボトム 主演・アンジェリーナ・ジョリー ★★★★
実際に起こった事件である。2002年3月。パキスタンのカラチ。
いつものように取材で外出したウォールストリート・ジャーナルの記者が行方不明となった。
身重の妻アンジェリーナは現地警察とアメリカ領事館に捜索願いを出し、救出スタッフが組織されたが、アルカイダと目される犯人グループからは、キューバのグアンタナモ収容所に収監されているパキスタン捕虜の待遇改善要求がメールで届いただけで、一向に消息はない。
それからの苦悶の30日を描いたセミ・ドキュメンタリー・ドラマで、同じ頃の9-11関連のドラマのような緊迫した時間が重い。
制作のブラッド・ピットは、あくまで不明になったジャーナリストの妻の側から描く作品にポイントを絞り、監督もいつものように余分なアクションやエンターテイメントを避けているので、展開は重く、焦燥で光りが見えない。
実際の被害者の側で、誠実に描いた作意は成功している。
現実は、これほど苛酷なものだろう。
作品の真意である「寛容な心」とは、ここで身重な妻の示した慈愛の思いだろう。
復讐や憎悪では、何も解決されない。しかし希望の糸口は残して映画は終わる。
誠実で真摯な作品だが、たしかに重い。

●この作品で配給を終えるというU.I.P.映画、長い間、ありがとうございました。

●『スクリーンのなかの銀座』展いよいよ開催

2007年09月22日 | Weblog
●9月20日(木)17-00 銀座並木通り、「ハウス・オブ・シセイドウ」
『CINEMATIC GINZA スクリーンのなかの銀座』展・開催。

わたしの古巣の資生堂が、銀座の歴史と映画の関係を、ひとつの昭和史の文化遺産とした展覧会を開催。
21日からは11月中旬まで、一般公開される。
並木通りにあった「並木座』は銀座の歴史的名画座として、昭和の時代を彩った。
会場には、その名画座の映写機が飾られ、田中絹代さんの貴重な着物やおしゃれな遺品が飾られ、当時の並木座のプログラムに寄稿した小津安二郎、成瀬巳喜男、黒沢明監督など、昭和の巨匠や、名優たちのサインなども見られる。
オープニング・セレモニーでは、女優の岸 恵子さんが、懐かしい銀座と映画のエピソードを披露され、これからも各種のイベント、トークショウなどが、企画されている。
まずは、ぜひ一度、並木通りのハウス・オブ・シセイドウを訪れて、会場を一覧することをおすすめする。
若手の女流監督の永田 琴さんが、いまの銀座の魅力をショート・フィルムに描いた作品が常時上映されて、また銀座をテーマにした『銀座の恋の物語』『女が階段を上がる時』なども上映されている。
入場無料、盛り沢山な昭和の映画史が楽しめる。

●『ウェイトレス』のちょっとオフビートな処世術。

2007年09月22日 | Weblog
●9月20日(木)13-00 六本木<FOX試写室>
M-117 『ウェイトレス』Waitress(2007)fox/seachlight
監督・エイドリアン・シェリー 主演・ケリー・ラッセル ★★★☆☆
いかにも女流監督らしい手法と感性の女性映画。
男は、ほとんど無能で無精で生彩なし。
それを承知でも<女もつらいよ>ウェイトレス篇だ。
非常にコミック・タッチで、どこかファンタジー、という個性は面白いが、ウェイトレスのパイ作りへの夢と、バカな男たちの無粋さが、とうとうしっくりしないまま唐突にハッピーエンドとなる。
でも少しは女性に勇気を与えるかもしれない味はある。
若い監督の冥福を祈って、★をひとつプレゼント。

●11月17日より、日比谷シャンテシネなどで、ロードショウ

●『君の涙 ドナウに流れ<ハンガリー1956>』侵略と金メダルの歴史。

2007年09月21日 | Weblog
●9月19日(水)15-30  渋谷<シネカノン試写室>
M-116 『君の涙 ドナウに流れ・ハンガリー1956』children of glory(2006)ハンガリー
監督・クリスティーナ・ゴダ 主演・イヴァーン・フェニュー ★★★☆☆
1956年に旧ソヴィエト軍の戦車部隊の進攻で、破壊されたブダペストの街。
若者たちは交戦するが、無謀で強力な侵略者の戦力に、市街は火だるまだ。
そんな時世でもオリンピックはメルボルンで開催され、ハンガリーの水球チームは、決勝戦で宿敵ソヴィエトを破る。
オリンピック選手も出演している感動的は事実は、たしかに複雑な衝撃はある。
映画も迫真力があり、この映画はハンガリー現地で興行成績記録も作った。
ただ『ミュンヘン』の記憶があるせいか、タイミングで失点しているようだ。

●11月、シネカノン有楽町2丁目ほかでロードショー予定

●『小津の秋』はどうも雲の多い天気模様だな。

2007年09月20日 | Weblog
●9月19日(水)12-30 渋谷<シネマ・アンジェリカ>上映中
M-115 『小津の秋』(2007)日
監督・野村恵一 主演・沢口靖子 ★★★☆
前作『二人日和』の余韻に惹かれて見に出かけた。
何といっても、小津安二郎ファンとしては、ぜひ見たい。
しかし蓼科高原の巨匠の「無藝荘」を舞台にしているだけで、小津映画とは関係ない。
婚期の遅れている沢口靖子が仕事を兼ねて秋の高原に行き、無藝荘の守役をしている藤村志保に逢うのはいいが、どうも釈然としないシナリオの、平板なエピソードが続き、退屈した。
小津監督が見たら苦笑するだろう。

●『再会の街で』久しぶりにシンプルマンに逢った。

2007年09月15日 | Weblog
●9月14日(金)13-00 神谷町<ソニー・ピクチャーズ試写室>
M-114 『再会の街で』Reign Over Me (2007)columbia-sony
監督・マイク・バインダー 主演・アダム・サンドラー ★★★★
タイトルにグラハム・ナッシュの「シンプルマン」が聞こえた瞬間にホロリときた。
70年代に大好きで、毎日10回は聞いていた曲。それに’再会’したためだ。
これはわたしの曲だ、と思っていた時期、苦労が多かった。
ドン・チードルは歯科医として成功していたが、ある日、車の中から、舗道を行く旧友を見かけた。
医大でルームメイトだったアダムは、まるでホームレスのようにやつれていた。
あの9-11で家族全員、妻と3人の娘を一瞬にして失ったショックで、自失精神疾患で記憶とキャリアを失っていたのだ。
だから、いっさいの現実から逃れて、孤独と混迷のなかに放浪していたのだ。
ドンは旧友の住まいを探して、旧友との友情を復活させるために尽力する。
彼なりに、私生活を立て直す必要があったからだ。
まるでボブ・ディランの亡霊のようなアダム・サンドラーの自失ぶりが素晴らしい。

●お正月! 恵比寿ガーデンシネマなどでロードショー

●『4分間のピアニスト』は獄中のマイ・フェア・レディのようだ。

2007年09月14日 | Weblog
●9月13日(木)13-00 六本木ミッドタウン<GAGA>試写室
M-113 『4分間のピアニスト』Four Minutes (2006)独
監督・クリス・クラウス 主演・マリア・ブライブトロイ ★★★★
殺人の容疑で服役中のジェニーにはピアノの才能が秘められていた。
刑務所でピアノ・レッスンをしている老女教師は、そのダイヤモンドの原石を見抜き育てようとする。
ただでさえキレやすい凶暴な娘に、クラシック・ピアノのレッスンをするなど、・・・。
ああ、これもまた『フェーム』のような、音楽更正感動ものか、と思っていた。
しかし、ドイツ映画祭で最高賞に輝いているだけあって、そんな単純な構造ではなかった。
なぜ、教師はここまでして、ダメなジェニーを鍛えるのか。
人生には、やるべきことが残っている。
それをお互いに自覚するためのメンタルなサバイヴァルだったのだ。
ラストで、ジェニーはクラシックの名曲を途中で破壊して、自分のイメージで演奏する。
賭けられた彼女の人生が、たった4分の間に爆発する。
見事な構成と、パワフルな演出。
老教師を演じたモニカの存在感で、この作品は充実した。

●『アレックス・ライダー』はエージェント予備校。

2007年09月11日 | Weblog
●9月10日(月)13-00 渋谷<ショウゲート試写室>
M-112 『アレックス・ライダー』The Stormbreaker(2006) british councel 英
監督・ジェフリー・サックス 主演・アレックス・ベティファー ★★☆☆
いきなり諜報員ユアン・マクレガーのカー・チェイスから始まるアクション。
しかし彼は007のようにはいかなくて消されてしまい、そのただひとりの親族の甥アレックスが、遺産相続と同時にエージェントの予備校に入れられて,スパイの基本を学ぶ。
ハリー・ポッターのホグワース魔法学校が、ボンド・スクールとなる。
悪徳I.T.メイカーのミッキー・ロークも、まるで幼稚なワルガキを怪演して、すべてがスパイ・キッズの状態となる。
ま、スパイごっこのお好きな方向けで、16才のアレックスを演じたアレックスは、まるでウィリアム王子みたい。
本当のエージェントになれるかどうかは、これからだろう。