細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『スパイダーウィックの謎』で描かれる妖精学の奇妙な世界。

2008年03月22日 | Weblog
●3月21日(金)13-00 神谷町<パラマウント映画試写室>
M-035 『スパイダーウィックの謎』The Spiderwick Chronicles (2008)paramount 米
監督/マーク・ウォーターズ 主演/フレディ・ハイモア ★★★☆☆
東銀座のUIP試写室がなくなり、パラマウント映画が独立して神谷町の城山ビルに引っ越した。
新しい試写室での、初めての試写は早春にふさわしい春休みエンターテイメントだ。
80年前に昆虫収集とか小植物の研究をしていたデビッド・ストラザーン博士は、妖精の存在を知りる、記録を残して消えた。
その怪文書には、危険な妖精達の秘密が隠されていた。
我々の知る妖精とは「ピーターパン」に登場したティンカーベルのような可愛いものだが、この世に悪魔が存在するように、妖精には恐ろしい連中もいる。そして妖怪戦争は続いていた。
人里離れた一軒家に越して来たフレディの家族は訳ありの母子家族。
さっそく奇怪なお化け屋敷では、不思議な怪奇現象ばかりが起こる。
またしても「アダムス・ファミリー」の妖怪ものかと思いきや、プロダクションがケネディ/マーシャルなので、スピルバーグ系の健全児童アドヴェンチャーとなっていて、「ハリー・ポッター」よりも「グーニーズ」タイプ。
崩壊した家族が、妖精戦争で自立していくという、アメリカン・ファミリー映画として申し分ない。
ただ、妖精研究コレクターが増えると大変だろう。

●4月26日より、GWロードショー

●『ジュノ』は16歳の肝っ玉かあさんだ。

2008年03月20日 | Weblog
●3月19日(水)13-00 六本木<FOX試写室>
M-034 『ジュノ』JUNO (2007) fox-seachlight 米
監督/ジェイソン・ライトマン 主演/エレン・ペイジ ★★★★☆
今年のアカデミー作品賞など4部門にノミネートされた作品だから、さぞやしっかりと社会派の確かな目を持った作品かと思いきや、これは懐かしきオールド・ムービーのファンタジーのようだ。
16歳の学生ジュノが、遊び半分でやってしまったセックスで妊娠。
普通なら退学、家庭破壊、家出、堕胎など、マイナス・イメージに発想がダウンするのだが、この「ジュノ」は全くの天真爛漫プラス思考。
子供は予定通り出産して、里子に預けて、学業にも邁進。友人たちも拍手喝采。医療経費は里親負担。
家族も全面協力。すべてはハッピー・エンドに向かって快走する。
アカデミー・オリジナル脚本賞を授賞しただけあって、ディアブロ・コーディのシナリオは圧倒的に明るくパワフル。
よけいな心配ばかりする我々を一蹴する展開は、お見事だ。
現実は、こんなにスムーズにはいかない難問題を、こともなげに笑い飛ばすセンスには脱帽する。
そして肝っ玉ティーンを好演したエレンにも拍手だ。

●6月、日比谷シャンテシネなどでロードショウ

●『Mr.ブルックス/完璧なる殺人鬼』の危険な落とし穴。

2008年03月19日 | Weblog
●3月18日(火)13-00 京橋<東京テアトル試写室>
M-033 『Mr.ブルックス/完璧なる殺人鬼』Mr.Brooks(2007)MGM/element founding
監督/ブルース・A・エバンス 主演/ケビン・コスナー ★★★☆☆
現代。ポートランドの著名な実業家のコスナーは二重人格で、仕事以外には、連続の人殺しに陶酔している。
もうひとりの悪の人格をウィリアム・ハートが演じていて、いつも現場で正確な犯行指示をする。
だから完全犯罪なので、まったく証拠がない。それには担当刑事のデミ・ムーアもお手上げだ。
ところが思わぬ目撃証言者が現れて、脅迫の見返りに、次の殺人現場に立ち会わせてくれ、という。
さあどうする。
面白い発想だが、一方で、刑事のデミは離婚裁判で大変。
ケビンは娘が大学でトラブルを起こして気がかりだ。DNAに関係がありそうだ。
それぞれの思惑が交錯するアイデアはいいが、シナリオも演出も、そして展開までがその場の成り行き判断なので、どうも犯罪映画としては軽いままだ。
ま、これはいいとして、ケビン・コスナーの業界リベンジは、また後回しとなったようだ。

●5月下旬、Q-AXシネマ他でロードショウ

●『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』は戦争コミックなのか。

2008年03月15日 | Weblog
●3月14日(金)13-00 半蔵門<東宝東和試写室>
M-032 『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』charlie wilsin's war (2007)universal
監督/マイク・ニコルズ 主演/トム・ハンクス ★★★
1980年代。旧ソヴィエト軍がアフガニスタンに軍事侵攻したとき、冷戦状態だったアメリカは困った。
ただでさえピリピリしていた関係だから、軍事介入したら、即、第三次世界大戦になる。
遊び人の下院議員のトムのところに、中東通の富豪ジュリア・ロバーツと、武器密輸に強いCIAのフィリップ・シーモア・ホフマンがパーティで接近して、国防歳出小委員会の議長を丸め込んで、アフガンに弾道ミサイルなどの新兵器を密輸した。
これは実話だという。これを契機にソヴィエト連邦は解体。
そして戦争はこの隠し玉の威力でアフガンが勝利して、トムは軍から勲章を授与された。
もともとは、「ランボー」やチャック・ノリスが活躍して、ジェームズ・ボンドも絡んだ話なのだが、監督のマイク・ニコルスは「キャッチ22」のように、痛快な戦争コミックを狙ったのだろうが、肝心のシナリオが冴えない。
従ってせっかくの3人のビッグスターも精彩がなく、妙に後味の悪い昨品となった。
その後のアフガンの現状があるから、とても笑えない話だった。

●5月17日から日劇などでロードショウ

●『フィクサー』には敗戦処理クローザーの意地があった。

2008年03月13日 | Weblog
●3月12日(水)13-00 銀座<シネマート試写室>
M-※ 『フィクサー』michael clayton (2007)section eight
監督/トニー・ギルロイ 主演/ジョージ・クルーニー ★★★★
ロードショウの劇場プログラムに、この映画のラストシーンの意味を書く関係で、また試写で見た。
1月に見た時は、この作品がアカデミー作品賞などにノミネートされていたので、その確認で『ノー カントリー』が勝算ありと軽く見ていた。
ところが、ラストのジョージ・クルーニーの心境を探るために、また見たが、印象は良くなった。
というのも、薬害訴訟の偽装疑惑を暴いたマイケル・クライトンの心境には、無為な虚脱感が残った、と思っていた。
しかし、たしかに勝訴ではないが、彼のプライドには満足感が残ったことが確認できた。
そして、あのティルダ・スウィントンの曖昧な視線が気になっていたのだが、あれは殺した筈の、マイケルの亡霊を見たことの震えだったのが、確認できた。
詳しくは、4月12日公開の劇場プログラムでお読み頂きたい。

●『実録・連合赤軍/あさま山荘への道程』迷走した時代の異端児たち。

2008年03月12日 | Weblog
●3月11日(火)13-00 銀座<TCC試写室>
M-031 『実録・連合赤軍/あさま山荘への道程』(2007)若松プロダクション
監督/若松孝二 主演/坂井真紀 ★★★★
1972年2月に起こった連合赤軍が長野県あさま山荘に立てこもって、警官隊との銃撃戦の末に、逮捕され検挙された事件は過去にもドラマとして映画化された。
しかしこの190分にも及ぶ新作は、完全に連合赤軍が孤立化されていくプロセスを、彼らの主観で描いた画期的な力作だ。
世界が歪んでいた時代の若すぎる異端児として、密かに革命を夢見て活動していた連合赤軍の実態を、ここでは特に温情的に加担するでもなく、ごくありがちな青春群像映画として見せて行く若松孝二監督のメガホンはクールで力強い。
ただ学校制度に反発した大学生たちの青春は、時代に反発するパワーを、思想的な共産化へと一途に迷走する。
山小屋に共同生活する彼らは、自己反省を総括して反動の精神を磨こうとする。
スポーツの合宿にはコーチがいるが、ここでは狂信的なリーダーが、まるでカルト教団のように、俗世を退けて反動精神の凍結を磨く。そして内部反発や脱落は即時処刑される。
恐るべき地獄図だが、これも青春である。
壮絶な崩壊に向けてブレーキの故障した若者たちの姿は、あまりにも哀しい。
どうしても彼らの視線から見た「実録」としての作品を作りたかったという監督の気迫に感銘した。
ベルリン映画祭で二冠に輝いたのも、お見事だ。

●3月15日より、テアトル新宿などで公開。

●『悲しみが乾くまで』それぞれの深い人生の障碍。

2008年03月07日 | Weblog
●3月6日(木)13-00 六本木<アスミックエース試写室>
M-020 『悲しみが乾くまで』things We Lost in the Fire (2008)dreamworks 米
監督/スサンネ・ビア  主演/ハル・ベリー ★★★☆☆☆
突然夫を失ったふたりの子供の母の、精神的なリカバリーの日々。
夫の親友は、麻薬中毒の病巣から逃れられない。
この心痛のふたりが、少しずつメンタルな健康を取り戻そうともがく姿を、デンマークの女性監督スサンネが、健気にクールに描いて行く。
好感のもてる人間ドラマだが、ふたりのウェイトを均等に描いたせいで、せっかくの感動も二分されてしまった。

●3月29日より、恵比寿ガーデンシネマなどで、ロードショウ

●『88ミニッツ』での切迫するリアルタイム・サスペンス

2008年03月06日 | Weblog
●3月4日(火)13-00 東銀座<シネマート試写室>
M-029 『88ミニッツ』88 minutes (2007) equity pictures 米
監督/ジョン・アヴネット 主演/アル・パチーノ ★★★☆☆
9年前に逮捕した連続女性虐待殺人犯の死刑が執行される日。
獄中の犯人から、当時逮捕したFBI異常犯罪分析員アル・パチーノに、また殺人予告の電話が来る。
しかも今回のターゲットは、彼であった。
シアトルの大学で犯罪心理の教鞭もとる彼は、地元警察とも連携して、この模倣犯の脅迫に対応する。
しかし、予告の白昼88分のタイム・リミットは刻々と迫る。
待ったなしの殺意が迫るなか、パチーノは携帯電話を駆使して身近に潜む凶悪犯をしぼって行く。
テンポの早い展開で、サスペンスは否応なく盛り上がるのだが、特定されている登場人物の範囲では、すぐにホシは見当がつく。
ま、その模倣犯の殺意が『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター・マニアほどではないが、パチーノの目の演技で一気に見せる。

●3月22日より、銀座シネパトスなどで緊急公開。

●『モンゴル』は豪放痛快なロシア仕込みの西部劇。

2008年03月05日 | Weblog
●3月3日(月)13-00 西銀座<東映本社試写室>
M-028『モンゴル』Mongol(2007)ロシア/ドイツ/カザフスタン/モンゴル
監督/セルゲイ・ボドロフ 主演/浅野忠信 ★★★☆☆☆
なぜかまたしてもチンギス・ハーンの伝記もの。
ただし今回は、ストーリーもシンプルで、テムジンという浅野忠信が演じる青年が、モンゴル草原の荒漠とした大地で、次第にパワーをつけていく友情と決別のストーリーが、非常に分かりやすい。
ロシアの監督らしい、風土の逞しさを随所に活かしたロケーション。
そして言葉少ないドラマが明快で、ことしのアカデミー外国語映画賞にノミネートされたのは納得だ。
アクション・シーンも適切で、男の闘魂をストレートに描くあたり、あの西部劇のような哀愁と快感がある。
非常に骨太な男性映画として、上質な大作だ。
浅野もストイックに、英雄の素顔を好演している。

●4月5日より、丸の内TOEIなどでロードショウ

●2月の二子玉川サンセット傑作座上映作品ベスト10

2008年03月04日 | Weblog
●2月に二子玉川サンセット傑作座(自宅)で上映したベスト10

1/『メロ』melo 監督/アラン・レネ(1986/仏)LDS ★★★★☆☆
 たった一夜の出会いに生涯を賭けた女性。そして戸惑う男達。永遠に分からない恋する女の心の迷走。

2/『拳銃魔』gun crazy 監督/ジョセフ・H・ルイス(1949/米)VHS ★★★★☆
 ただ銃の魅力に取り憑かれた男と女が、思わぬ展開で犯罪に巻き込まれて行くアメリカ・ガン社会の怖さ。

3/『無宿者』along came jones 監督/スチュワート・ヘイスラー(1945/米)DVD ★★★★
 ゲイリー・クーパーが主演と製作も兼ねた、拳銃と恋の下手な男のユーモラスな異色西部劇の傑作。

4/『街の野獣』city of nights 監督/ジュールス・ダッシン (1950/英)VHS ★★★★
 ロンドンの暗黒街から這い出そうと焦るリチャード・ウィドマークの悲壮なフィルム・ノワール秀作。

5/『ハードエイト』hard eight 監督/ポール・トーマス・アンダーソン(1996/米)DVD ★★★★
 老練なギャンブラーの賭場へのリベンジを描いた「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の監督傑作デビュ。

6/『ニール・サイモンのキャッシュマン』max dugan returns 監督/ハーバート・ロス(1983/米)LDS ★★★★
 消息不明だった末期がんの賭博師は、全財産を孫と遊ぶ為に使おうと帰ってくる。感動の傑作コメディ。

7/『月光の女』the letter 監督/ウィリアム・ワイラー (1940/米)VHS ★★★☆☆☆
 シンガポールに住むアメリカ女性が撃った銃弾が残した波紋。サマセット・モームの原作をベティ・デイビスが好演。

8/『ガルボ・トークス』galbo talks 監督/シドニー・ルメット (1984/米)VHS ★★★☆☆☆
 ガルボが大好きな母が入院。死ぬまでにガルボに逢わせようと努力する息子の愛と涙のアドヴェンチャー。

9/『青春物語』peiton place 監督/マーク・ロブスン (1957/米)LD ★★★☆☆
 アメリカ中部の田舎町に起こった家庭内殺人事件の裁判で証言する、善意と愛情のある隣人たちのドラマ。

10/『昭和残侠伝/吼えろ唐獅子』監督/佐伯清 (1971/東映)DVD ★★★☆☆
 われらが高倉健さんが、鶴田浩二のために池部良とともに切り込む背中で吼える唐獅子の勇姿。文句なしの美学。

●ほかに見た傑作は
『拳銃王』50/グレゴリー・ペック
『堕ちた天使』45/ダナ・アンドリュース
『ハイジャック』72/チャールトン・ヘストン
『拳銃貸します』42/アラン・ラッド
『ジタン』75/アラン・ドロン
『シノーラ』72/クリント・イーストウッド などなど。